REVIEW
映画『最終目的地』
80年代ゲイ映画の金字塔『モーリス』を撮ったジェームズ・アイヴォリー監督の最新作『最終目的地』は、アンソニー・ホプキンスと真田広之がゲイカップルを演じているということで話題になっている作品です。
『最終目的地』は、コロンビア大学の大学院生であるオマーが、一冊だけ小説を書いて自殺した作家ユルス・グントの伝記を書こうとするものの、その公認を拒否する手紙を親族から受け取り、彼女のディアドラに焚き付けられて、ウルグアイの故ユルスの邸宅「オチョ・リオス」を訪ねるところから始まります。「オチョ・リオス」の住人であるグント家の人々は、ユルスの兄・アダム(アンソニー・ホプキンス)とそのパートナー、ピート(真田広之)、ユルスの妻だった未亡人・キャロライン、ユルスの愛人だったアーデン(シャルロット・ゲンズブール)とその娘・ポーシャ。楽天的な南米の地にありながら、彼らは「自分は一生このままなのだろうか…」という閉塞感を覚えていました。しかし、オマーの訪問をきっかけとして、行動を起こし、少しずつその後の人生を変え、未来を見る(希望を抱く)ことができるようになっていきます。「最終目的地」とは、どこを終の住み家とするか(誰を人生の伴侶とするか)ということなのでした。
原作では、アダムのパートナーはバンコク生まれのタイ人なんだそうですが、監督が真田さんを選び(真田さんはアイヴォリーの『上海の伯爵夫人』に出演しています)、徳之島生まれの日本人ということになりました。
真田さん演じるピートは、そうだと言われなければ誰もゲイだと思わないだろう、男らしい雰囲気です(出演するにあたり、真田さんがいろいろゲイの仕草などを「研究」したそうですが、監督に『ふつうでいいよ』と言われたそうです)。でも、お茶をいれたり、ずぶ濡れになったオマーを優しくタオルで拭いてあげたり、学校から帰って来たポーシャを迎えたり、随所でゲイらしい優しさを見せています。(ついでに、唯一のセクシー・ショットも見せています)
アダムは「年老いた自分なんかといつまでも一緒にいてはいけない」と、お金の工面を画策するのですが、それを知ったピートは、「ここが自分の最終目的地だ」と真っ直ぐに言い、アダムにキスをします。さらりとしてますが、とてもいいシーンです。
また、ウルグアイという決して先進国ではない国の田舎町(というか村)でありながら、村人も二人の関係を認めていて(「ピートはね、アダムの大切な人なのよ』)、ごく自然に村にとけこんでいる様子も素敵でした。
ひとつもセリフにムダがなく、優雅で繊細で、美しい映像を堪能できる(ウルグアイに行ってみたくなります)、アイヴォリー監督らしい極上の映画でした。文芸作品ではありますが、重さや堅苦しさは感じさせず、アートとエンタメがバランスよく融合し(笑えるシーンもあります)、本当に心地よい時間を過ごすことができました。
『最終目的地』THE CITY OF YOUR FINAL DESTINATION
2009/アメリカ/監督:ジェームズ・アイヴォリー/出演:アンソニー・ホプキンス、ローラ・リニー、シャルロット・ゲンズブール 、ノルマ・アレアンドロ、アレクサンドラ・マリア・ララ、オマー・メトワリー、真田広之/シネマート新宿他で公開中
INDEX
- 米史上初のゲイの大統領になるか?と騒がれた人物の素顔に迫る映画『ピート市長 〜未来の勝利宣言〜』
- 1920年代のベルリンに花開いたクィアの自由はどのように奪われたのか――映画『エルドラド: ナチスが憎んだ自由』
- クィアが「体感」できる名著『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ』
- LGBTQは登場しないものの素晴らしくキャムプだったガールズムービー『バービー』
- TORAJIRO 個展「UNDER THE BLUE SKY」
- ただのラブコメじゃない、現代の「夢」を見せてくれる感動のゲイ映画『赤と白とロイヤルブルー』
- 台湾映画界が世界に送る笑えて泣ける“同性冥婚”エンタメ映画『僕と幽霊が家族になった件』
- 生き直し、そして希望…今まで観たことのなかったゲイ・ブートキャンプ・ムービー『インスペクション ここで生きる』
- あらゆる方に読んでいただきたいトランスジェンダーに関する決定版的な入門書『トランスジェンダー入門』
- 世界をトリコにした名作LGBTQドラマの続編が配信開始! 『ハートストッパー』シーズン2
- 映画『CLOSE クロース』レビュー
- 映画『ローンサム』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『ココモ・シティ』(レインボー・リール東京2023)
- FANTASTIC ASIA! ~アジア短編プログラム~(レインボー・リール東京2023)
- 映画『マット』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『秘密を語る方法』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『クリッシー・ジュディ』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『孔雀』(レインボー・リール東京2023)
- クィアな若者がコスメ会社で働きながら人生を切り開いていくコメディドラマ『グラマラス』
- 愛という生地に美という金糸で刺繍を施したような、「心の名画」という抽斗に大切にしまっておきたい宝物のような映画『青いカフタンの仕立て屋』
SCHEDULE
- 05.05“AVALON -RESCUE-”
- 05.05BLACK SAFARI
- 05.05よつんばいナイト8歩目
- 05.05GLOBAL KISS
- 05.06huGe+Xposure – ふんどし祭り –