REVIEW
映画『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』
『マンマ・ミーア!』などと同様、とても紳士的で素敵なゲイのキャラクターが登場します。彼のエピソードは、このうえなくせつなく、愛にあふれ、本当に魅力的で、ジーンとくるものがあります。観てよかったと素直に思える映画です。
その中の一人、裁判所の判事であったグレアムは、子どもの頃ジャイプールに住んでいたと言い、昔住んでいた家のあった所に出かけるのですが、家はもう跡形もなくなっており、その後、毎日のように役所へ出かけるようになります。あるとき、仲がよくなったイヴリンに、インドに来た本当の理由を打ち明けます。彼は子どもの頃、召使いの子どもである同年代の男の子と仲良くなり、いっしょに遊ぶようになります。「彼といっしょに観た夕陽の美しさは一生忘れられないよ」。そのうち、二人はそれ以上に親密になるのですが、親にその現場を見つかってしまい、男の子だけでなく、その家族までもが街を追われるハメに…。まだ子どもだったグレアムには何もすることができず、そのうちロンドンの大学に進学することになり、彼とは会えずじまいでした。グレアムはずっと彼に申し訳ないという気持ち(と幼い日の恋心)を抱えて生きてきたというのです。しばらくして、役所から連絡があり、彼の今の住所が判明します。グレアムは、イヴリンといっしょに、ドキドキしながらそこに出かけていきます。そしてついに、数十年ぶりに、彼との再会を果たしました。しかし…。
この映画の中で、グレアムは最も紳士的で立派な男性として描かれています(誰もゲイだとは思っていませんでした)。子どもにも優しく、社会的地位もあり、同じホテルの女性にも惚れられたりします。ゲイだとカミングアウトしたあとも、誰もそれをバカにしたり、嫌ったりはしませんでした。
7人のいろんなエピソードが描かれるなかで、このグレアムのエピソードはひときわ美しく、ロマンティックで、涙を誘う、いい話でした。この映画がGLAADメディア賞にノミネートされたのもうなずけます。
グレアムだけではなく、それぞれのエピソードが、(必ずしもいい話ばかりではありませんが)とても身につまされたり、リアルだったり、せつなかったり、素敵だったりして、しみじみ共感できます。晩年をどう過ごすかということは、子どものいない(孤独になりやすい)ゲイにとっては、けっこう深刻なテーマだと思いますが、この映画はきっと、希望を与えてくれるはず。
観てよかったなあと素直に思える映画です。
『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』
The Best Exotic Marigold Hotel
2011年/イギリス/監督:ジョン・マッデン/出演:トム・ウィルキンソン、マギー・スミス、ビル・ナイ、デヴ・パテル、ジュディ・デンチほか/配給:20世紀フォックス
INDEX
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- 1920年代のベルリンに花開いたクィアの自由はどのように奪われたのか――映画『エルドラド: ナチスが憎んだ自由』
- クィアが「体感」できる名著『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ』
- LGBTQは登場しないものの素晴らしくキャムプだったガールズムービー『バービー』
- TORAJIRO 個展「UNDER THE BLUE SKY」
- ただのラブコメじゃない、現代の「夢」を見せてくれる感動のゲイ映画『赤と白とロイヤルブルー』
- 台湾映画界が世界に送る笑えて泣ける“同性冥婚”エンタメ映画『僕と幽霊が家族になった件』
- 生き直し、そして希望…今まで観たことのなかったゲイ・ブートキャンプ・ムービー『インスペクション ここで生きる』
- あらゆる方に読んでいただきたいトランスジェンダーに関する決定版的な入門書『トランスジェンダー入門』
- 世界をトリコにした名作LGBTQドラマの続編が配信開始! 『ハートストッパー』シーズン2
- 映画『CLOSE クロース』レビュー
- 映画『ローンサム』(レインボー・リール東京2023)
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- 映画『マット』(レインボー・リール東京2023)
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- 映画『クリッシー・ジュディ』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『孔雀』(レインボー・リール東京2023)
- クィアな若者がコスメ会社で働きながら人生を切り開いていくコメディドラマ『グラマラス』
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