REVIEW
橋口亮輔監督最新作『ゼンタイ』
橋口亮輔監督の最新作『ゼンタイ』が8月31日から公開されます。橋口さんが新作で選んだモチーフは全身タイツ(ゼンタイ)。とても奥が深い、橋口さんだからこその感動作です。ぜひご覧ください!
橋口亮輔監督は、1993年、ウリ専でバイトする学生を主人公とした『二十才の微熱』を発表し、自身がゲイであることを公表しました(当時としてはスゴいこと。現在でもメジャーな映画監督の中でカミングアウトしているのは橋口さんだけです)。1995年には、ゲイの男の子と友人の女の子(浜﨑あゆみさんが演じていました)、ノンケの男の子の三角関係を描いた『渚のシンドバッド』を発表、ロッテルダム国際映画祭でグランプリを受賞しました。2001年発表の『ハッシュ!』では、友人の女性に子どもを産んでもらおうとするゲイカップルを描き、カンヌ国際映画祭に招待されるなど、高く評価されました。その後、監督はうつ病を経験しましたが、その体験を生かし、2008年『ぐるりのこと。』を発表しました(主演の木村多江さん、リリー・フランキーさんをはじめ、この作品も多くの映画賞を受賞しました)
ゼンタイの人が「なんでもないモノになる」と語るシーンがありましたが、頭からすっぽり全身タイツを着ることによって、性別も年齢も外見も職業も不明な、人間かどうかさえもわからない存在となり(なんでもないモノになり)、日常生活で課せられているさまざまな「意味」から解放され、おそらくは根源的な癒しが得られるのです。ゼンタイとは、こちら側(ケ、日常)からあちら側(ハレ、非日常)へと移行する仕掛け(儀式)として最も簡単で強力なものなのかもしれません。
ゼンタイとはある種のメタファーではないかと思いました。それはたぶん、僕らゲイにはとてもなじみ深い(シンクロ率が高い)ものです。
たとえば、うす暗がりで(時には覆面をして)名前も素性もわからない一個の「肉体」と化すことで、「私」を消去し、非日常的な体験をする——それによって自分という呪縛から解き放たれ、癒されるのです。日々のストレスゆえに、そうせざるをえない切実さを抱えている方は決して少なくないはずです。
それにしても、ゼンタイとは、(ゲイ的にはなんてことないかもしれませんが)パッと見「ヘンタイ」という印象を与えかねないビジュアルです(本人たちもそのように語るシーンがあります)。しかし、そこでゼンタイを「ヤバいもの」として拒絶したりするのではなく、あくまでもゼンタイせずにはいられない人々の心情に寄り添い、ヘンタイ性をも含めてその存在をまるごと肯定している(言い換えると、愛がある)ところが、素晴らしいです。(こちらに監督自身がゼンタイを着てゼンタイの第一人者の方と対談している記事が掲載されています)
そして、さらっとですが、映画にはゲイ的な関係に言及するシーンもあります。
ゼンタイとは、失われた「全体(世界)」を取り戻す魔法。そして、ゼンタイのオフ会とは、ヘンタイを肯定し、心許し合える仲間とレンタイできる時間。奇跡のような世界がそこにはありました。
非日常へとトリップすることで心を解放し、ヘンタイ性を受容することで体をも解放し、癒しも快楽も得られるわけですから、ゼンタイとはなんと素敵なものでしょう。しかも、クスリのように依存性があるわけでもなく、誰にも迷惑をかけません(出会った人がちょっとビックリするだけで)。きっと、自分もゼンタイ体験してみたい!と思う方は少なくないはずです。
ちなみに、ゼンタイフェチの方に限らず、けっこう男性のゼンタイ姿はSEXYに感じられるのではないかと思います(フードを取って顔を見せたときに、ああ、この人なんだ!と、いっそう萌えたり)。そういうところも見どころの一つです。
初日である8月31日(土)21:40〜の上映では、舞台挨拶が予定されています(監督はもちろん、ゼンタイの方も来られるかも?)。また9月1日(日)〜13日(金)には毎晩、橋口監督×ゲストによるトーク・イベントが行われるそうです(ゲストなどの詳細は、こちらをご覧ください)
お得な前売り券(¥1,000)は劇場窓口で発売中です。また、テアトル新宿では毎週水曜日がサービスデーなので、前売りを買えなかったという方も水曜日なら前売りと同じ料金でご覧いただけます。
というわけで、橋口監督の新作『ゼンタイ』、ぜひご覧ください。
『ゼンタイ』
2013年/日本/監督・原案・脚本:橋口亮輔/製作・配給:(株)テンカラット、アプレワークショップ、映画「ゼンタイ」を応援する会/出演:篠原篤、中島歩、成嶋瞳子、岩崎典子/2013年8月31日(土)からテアトル新宿でレイトショー
INDEX
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