REVIEW
映画『ウォールフラワー』
チャーリー、サム、パトリック…それぞれに傷を抱え、ハイスクールでは決して主役にはなれない「はみだし者」な3人が、強い友情で結ばれ、失敗しながらも成長していく…青春小説の金字塔『ウォールフラワー』が映画化。若者の(そしてゲイの)バイブルとも言うべき「心の名画」がまたひとつ、誕生しました。







1999年、全米200万部の大ヒットを記録し、「『ライ麦畑でつかまえて』の再来」と絶賛された青春小説の金字塔「ウォールフラワー(The Perks of Being a Wallflower)」。原作者スティーブン・チョボスキー(映画『RENT』の脚本を担当したことで有名です)は、殺到する映画化のオファーを全て断り、自身で脚本を書き、監督までつとめた作品です。ジョン・マルコヴィッチらのプロデュースを受け、最高のキャストを得て、1シーン1シーンに作者の魂が宿り、世界中の若者(やゲイをはじめとするマイノリティの方たち)にとってバイブルとも呼ぶべき「心の名作」がまたひとつ、誕生しました。そして同時に、またひとり、ゲイのヒーローが誕生しました。
主人公のチャーリーは、過去の悲しい記憶(ときどきフラッシュバックします)がもとで心を病んでいましたが、高校生活は明るく始めたいと願っています。しかし、初日はさんざんで…。そんなチャーリーが、兄が出ているアメフトの試合会場で、学校の人気者(落ちこぼれ)であるパトリックに声をかけ、そこから運命が大きく回転しはじめます。パトリックと妹のサム(あのエマ・ワトソンが、見事にハーマイオニー臭を払拭して演じています)は、地味でぼんやりした(誰ともしゃべれず「壁の花」になりがちな)チャーリーを快く友達として受け容れます。招かれたホームパーティで、チャーリーは生まれて初めてのことをいろいろ体験し(パトリックの秘密も知ってしまいます)、「はみだし者の島」に自分の居場所を見出します。差別嫌いでとんがったメアリー=エリザベス、ゴス好きなアリスらとも知り合い、「ロッキー・ホラー・ショー」のステージに出演したり、国語教師と心通わせたり、高校生活は順調に見えました。しかし…
チャーリーの親友・パトリック(この映画の公開と同時にゲイであることをカミングアウトしたエズラ・ミラーが演じています)はひょうきんなお調子者で、大勢にニックネーム(「ナッシング」)で呼ばれるくらいには校内の人気者です。パトリックは、「ロッキー・ホラー・ショー」で女装のパフォーマンスを披露したり、まぎれもなくクィアですが、ユーモアがあって、本当に優しくて、真っ直ぐで、笑顔が魅力的で、美しくて、素晴らしいキャラクターです。チャーリーとの友情を示すために「みんな、乾杯しよう」と言うシーンは、泣けました。
パトリック自身はゲイであることを隠してないと思いますが、恋人は絶対にそのことを周囲に知られたくないタイプ。それゆえに(ホモフォビアゆえに)ある悲しい事件が起こってしまいます。そこでパトリックを救ったのが、チャーリーでした。
たぶん、以前のドラマや映画では、イケメンの男女が主人公で、ゲイが登場するとしても、心優しい隣人という脇役か、不幸な境遇で同情を買うというパターンが多かったと思います。でも、パトリックは、チャーリーを心から大事に思うと同時に、チャーリーもまた、体を張ってパトリックを救うのです。ストレートの男の子とゲイの男の子が無二の親友であり、高校生活のなかで強い友情を育んでいく…それは本当にスゴいことで、「アメフト部こそヒエラルキーの頂点」となりがちだった全米の高校生に大きな影響を与えたと思います。そう、それって『glee』にも通じるものがありますよね。おそらく『ウォールフラワー』は、『glee』の(そしてさまざまな現代の青春ドラマの)魂の源流なのです。
『ウォールフラワー』The Perks of Being a Wallflower
2013年/アメリカ/脚本・監督:スティーブン・チョボスキー/出演:ローガン・ラーマン、エマ・ワトソン、エズラ・ミラーほか/配給:ギャガ/全国でロードショー公開中
INDEX
- ゲイが堂々と生きていくことが困難だった時代に天才作家として社交界を席巻した「恐るべき子ども」の素顔…映画『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』
- ハッピーな気持ちになれるBLドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(チェリまほ)
- 僕らは詩人に恋をする−−繊細で不器用なおっさんが男の子に恋してしまう、切ない純愛映画『詩人の恋』
- 台湾で婚姻平権を求めた3組の同性カップルの姿を映し出した感動のドキュメンタリー『愛で家族に〜同性婚への道のり』
- HIV内定取消訴訟の原告の方をフィーチャーしたフライングステージの新作『Rights, Light ライツ ライト』
- 『ルポールのドラァグ・レース』と『クィア・アイ』のいいとこどりをした感動のドラァグ・リアリティ・ショー『WE'RE HERE~クイーンが街にやって来る!~』
- 「僕たちの社会的DNAに刻まれた歴史を知ることで、よりよい自分になれる」−−世界初のゲイの舞台/映画をゲイの俳優だけでリバイバルした『ボーイズ・イン・ザ・バンド』
- 同性の親友に芽生えた恋心と葛藤を描いた傑作純愛映画『マティアス&マキシム』
- 田亀源五郎さんの『僕らの色彩』第3巻(完結巻)が本当に素晴らしいので、ぜひ読んでください
- 『人生は小説よりも奇なり』の監督による、世界遺産の街で繰り広げられる世にも美しい1日…『ポルトガル、夏の終わり』
- 職場のLGBT差別で泣き寝入りしないために…わかりやすすぎるSOGIハラ解説新書『LGBTとハラスメント』
- GLAADメディア賞に輝いたコメディドラマ『シッツ・クリーク』の楽しみ方を解説します
- カトリックの神父による児童性的虐待を勇気をもって告発する男たちの連帯を描いた映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』
- 秀才な女子がクラスの男子にラブレターの代筆を頼まれるも、その相手は実は自分が密かに想いを寄せていた女子だった…Netflix映画『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』
- 映画やドラマでトランスジェンダーがどのように描かれてきたかが本当によくわかるドキュメンタリー『Disclosure トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』
- 人生のどん底から抜け出す再起の物語−-映画『ペイン・アンド・グローリー』
- マドンナ「ヴォーグ」の時代のボールルームの人々をシビアにあたたかく描く感動のドラマ、『POSE』シーズン2
- 「夢の国」の黄金時代をゲイや女性や有色人種の視点から暴いた傑作ドラマ『ハリウッド』
- ゲイタウンでポルノショップを40年近く経営していた夫婦の真実の物語『サーカス・オブ・ブックス』
- ルポールとSATCの監督が贈るヒューマンドラマ『AJ&クイーン』
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