REVIEW
映画『マイ・マザー』
『わたしはロランス』のグザヴィエ・ドラン監督のデビュー作『マイ・マザー』。ゲイであるグザヴィエ・ドランが自身の体験をもとに脚本を書き、主役を演じ、監督もつとめています。とても10代が作ったとは思えない、スゴい映画です。

女性へのトランスを望んでいることを恋人に打ち明けたロランスを主人公にした映画『わたしはロランス』が昨年、全国で公開されたグザヴィエ・ドラン監督。そのグザヴィエ・ドランが19歳にしてカンヌ映画祭で三冠を獲得し、「天才」「神童」「アンファン・テリブル(恐るべき子ども)」と称された鮮烈のデビュー作が『マイ・マザー』です。レビューをお届けします。(後藤純一)







反抗期の頃にはよくあることで、誰もが通ってきた道だと思います。が、微妙に違うのは、ユベールがゲイであり、それを母親に告げていなかったこと。恋人・アントナンの母親なども息子がゲイであることは特に気に留めていません(自分も若い恋人をつくって楽しんだりする奔放な人です)が、母親との折り合いが悪いユベールは、カミングアウトしていませんでした。そして、アントナンの母親から息子どうしの関係を初めて知らされたユベールの母親は、ケンカの最中に「あなたは子どもを作らないしね」といやみを言い、「どうして言ってくれなかったの」と息子をなじるのです。
ユベールは、ゲイであることを母親に言わなかったことがどれほどそこに影響しているかは定かではありませんが、より厳しい境遇に追いやられていきます。(これもどこまでそうかははっきり描かれてはいませんが、たぶん)ある種の学校にありがちなホモフォビアにも直面します…。
しかし、ユベールはずっと自分の境遇に不満をつのらせてばかりなのではなく、楽しそうだったり、とても幸せそうに見える場面もあります。高校生の男の子二人がいっしょに過ごす様子は初々しく、微笑ましい限りですし、ゲイバーに繰り出すシーンなどもあります。
たぶんどれだけゲイが社会に受け容れられるようになったとしても、親子の葛藤(親離れの難しさ)というものはなくならないでしょう。しかし、思春期のゲイにとって、ゲイであることと親子関係とは容易に切り離せるものではなく、複雑にからみ合い(まだ経済的に自立していないがゆえの難しさなども浮き彫りになり)、親子関係をよりこじらせることが往々にしてあるんだな、と気づかされます。そういう映画って、今までありそうでなかったのではないでしょうか。
10代20代のゲイ男子にぜひ、観てほしいと思いました。ものすごくシンクロするかもしれないし、痛すぎる…と感じるかもしれませんが、きっと今現在、親子関係に悩んだり、リアルに感じている方にこそ、響く作品だと思います。
『マイ・マザー』は、グザヴィエ・ドランが実体験をもとに脚本を書き、自身が主演もつとめ、長編デビューした作品です。映像のセンスの良さもさることながら、演技にも惹き付けられました。これを10代で作り上げたなんて…驚愕です。天才とか神童と言われるのもうなずけます。
ちょっと前までは、若手のゲイの天才映画監督と言えば、フランソワ・オゾンでした。今や、グザヴィエ・ドランが彼に取って代わりました。まだドラン作品に触れたことがなく、試しに1作観てみようかな…と思う方などもぜひ、観てみてください。『わたしはロランス』よりも1時間ほど短く、また、ゲイが主人公なので入りやすいと思います。
『マイ・マザー』I Killed My Mother
2009年/カナダ/監督・脚本・主演:グザヴィエ・ドラン/配給:ピクチャーズデプト/シネマート六本木、アップリンクなどで公開中
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