REVIEW
映画『アデル、ブルーは熱い色』
カンヌ映画祭で史上初めて監督と主演女優・助演女優の3人にパルムドール(大賞)が贈られた歴史的な作品です。ものすごく熱く、肉感的に、リアルに恋愛というものを描ききった名作であり、(『アナと雪の女王』とはまた別の意味で)女性どうしの愛を描いた映画としても素晴らしいです。
カンヌ国際映画祭で満場一致のパルムドール(最高賞)に輝いた『アデル、ブルーは熱い色』。史上初めて、監督・主演女優・助演女優の3人にパルムドール(大賞)が贈られるという歴史的な作品です。映画全体としてとてもリアルな、臨場感あふれる映像になっているのですが、特に、10分にわたって女性どうしのセックスが非常に肉感的に映し出され、「衝撃的」と言われていますが、審査委員長のスティーブン・スピルバーグが「偉大な愛の映画、その一言に尽きる。この映画を観ることができたこと自体が、私たちにとって祝福に値する」とコメントしているように、セックスをちゃんと描いているからこそ、恋愛というものを、人間の生き様を真っ直ぐとらえることに成功し、世界的評価を得られたんだと思います。
一方、やはりこの作品は、愛(というより色恋)の物語でもあります。人間とは、どうしようもなく「好き(結ばれたい、いっしょにいたい)」という感情に突き動かされるものだし、なりふりかまわず、みっともなく、さびしくて、ずるくて、悲しい生き物なんだな…ということを、いやというほど直視させられます。アデルがエマに一目惚れしたところから始まる恋のすべて——美しいところも汚いところも、楽しいところもつらいところも——を余すところなく徹底的に描ききった、そこがスゴいところです。
そして、フランス映画らしく、この作品には、アデルが授業で『クレーヴの奥方』や『マリアンヌの生涯』などの小説を学んだり、エマがサルトルの実存主義について語ったり(それに対してアデルは「ボブマーリーみたいね」と答えます)、芸術や文学、哲学、政治のことに触れるシーンがたくさんあります。それらはただのスノビズムではなく、アデルが自分自身のセクシュアリティに目覚めていく過程とシンクロし、影響を与えていくのです。
ただ、せつないのは、美術大学に通っているエマが、芸術家たちに囲まれ、理解ある両親に恵まれているのに対し、アデルはごく平凡な家庭の生まれで、芸術や哲学にもさほど詳しいわけではなく、何か自己表現しようという気持ちもない…というギャップです。育ち(文化資本)の違いが痛いほどリアルに描かれています。ある意味、身分(階級)が異なる二人だからこそ恋が激しく燃え上がった(『モーリス』のように)とも言えるのですが、そうした違いゆえにアデルが「ついていけなさ」や疎外感を覚え…といった辺りからの流れが本当にせつなく、胸が痛みます(似たような経験をした方もいらっしゃることでしょう)
ラストシーンは、解釈が分かれるところだと思います。「えーっ、そっちに行っちゃうってこと?」と思う方もいるでしょう。でもたぶんあれは「自分の道を歩いていく」ということなんだと思います(さびしさがこみあげてきますが)。ぜひ、映画館で観ていただきたいと思います。
ちなみにこの映画の終わり方は、原作(バンドデシネというコミック)とは全く違うものになっています。原作の結末はそれこそ「衝撃的」なものだそうで、両方を見た方からは「映画の方がいい」という声が聞かれました。
3時間のロングフィルムでしたが、一度も場面を盛り上げるためのBGMが使われず、説明的なナレーションなども一切なかったことが驚きで、ひたすらアデルの健康的な肉体——ボロネーゼをむさぼる姿、寝床でのオナニー、エマとの燃え上がるようなセックス、およそ排泄以外はすべて——や表情(ほとんどがものすごいアップ)を映像の力だけで見せています(なんという力技)。それでいて、臨場感や緊迫感がスゴいのです。これは「事件」です。とてつもない映画です。
「衝撃的な」「問題作」と映画の宣伝文には書かれています。しかしそれは、決してレズビアンだから衝撃的なのではありません。映画として衝撃的なのです。
ちょうど『ブロークバック・マウンテン』のときのように、『アデル、ブルーは熱い色』を観たあとは数日間、あの熱さとせつなさの余韻を引きずり、誰かと語り合いたくなると思います。そういう映画です。
『アデル、ブルーは熱い色』La vie d'Adele
2013年/フランス/監督:アブデラティフ・ケシシュ/出演:アデル・エグザルコプロス、レア・セドゥーほか/配給:コムストック・グループ/全国で公開中
(C)2013- WILD BUNCH - QUAT'S SOUS FILMS - FRANCE 2 CINEMA - SCOPE PICTURES - RTBF (Television belge) - VERTIGO FILMS
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