REVIEW
映画『チョコレートドーナツ』
2013年のGLAADメディア賞で最優秀作品賞に輝き、全米の映画賞で観客賞を総なめにした映画『チョコレートドーナツ』。誰もが天使のようなマルコの幸せを願い、社会の同性愛差別に憤りながら、あのゲイパパたちといっしょに暮らせるようになってほしいと涙ながらに思うことでしょう。本当にたくさんの方たちに観てほしい作品、心の名作です。














1970年代、ウェストハリウッド(LA)のゲイクラブで毎夜ドラァグクイーンとしてショーを披露し、家賃を滞納しながらも歌手になる夢を見続けているルディ。ある夜、客席に身なりのいい「ゴージャスな」男を発見し、浮き足立ちます。どうせいつもの…と思っていると、彼が楽屋に訪ねて来るというまさかの展開に。その男・ポールと夢のような一夜を過ごしたルディはウキウキ気分でアパートに帰りますが、ロックをガンガンかけている隣室の女と口論に(「失せな、オカマ野郎」などと罵られます)。そしてある夜、騒音がひどくて眠れないルディは、隣室のドアを叩きますが、返事がなく、一人で部屋に取り残されたマルコを見て、不憫に思い、部屋に連れて帰って寝かせます。翌朝、二人で朝食を食べていると、隣室が騒がしく、覗いて見ると、女(母親)が麻薬で逮捕・投獄されたと大家が言い、ほかに家族のいないマルコは役人に連れて行かれることに…ルディは「施設に入れられたらこの子はどうなるの?」と抗議しますが、なすすべもなく…。またある夜、ルディはポールとのデートの帰り、マルコがとぼとぼ歩いているのを見つけ、放っておけず、家に連れて帰ります。ルディとポールは、獄中の母親から仮の親権を与える書類へのサインをもらうことに成功し、(周囲にはゲイカップルであることは内緒で)二人でマルコを引き取って育てはじめます。生まれて初めて自分の部屋を持ち、感激のあまり号泣するマルコ。二人はマルコを学校にも通わせ、愛情たっぷりに育てます。しかし、同性愛者を嫌悪する悪魔のような男が、ポールとルディがつきあってるのではないかと疑いはじめ…。
おそらく今の時代だったら、マルコはきっと、二人のパパに愛されながら心から幸せに暮らしていけたでしょう。しかし、時代が、社会に蔓延する同性愛嫌悪(ホモフォビア)という病が、彼らのささやかな幸せを粉々に砕きました。1970年代は、いかに先進的なカリフォルニア州といえども、まだまだ同性愛者に対する激しい差別がまかり通っていたのです。
チョコレートドーナツは、マルコの大好物であり、この家族の幸せの象徴です。この映画を観た方は誰もが、マルコがあの天使のような笑顔でドーナツを食べたり、歌ったり、ダンスをしたりする姿に魅了されることでしょう。そして、「オカマやホモのような変態」よりは実の親の方が育てた方がいいに決まってると言ってマルコの幸せを奪う社会の不条理に憤りを覚え、涙を流しながら、ルディとポールのような愛情に満ちたゲイパパの方があの母親よりもどれだけ親にふさわしいことか、と思うことでしょう。
お金持ちで身持ちの固いゲイカップルが準備万端にわが子を家庭に迎えようとする現代の『NEW NORMAL』とは異なり、『チョコレートドーナツ』のゲイカップルの生活は、正直、危ういものがあります。ルディはいつ部屋を追い出されるかもわからないような貧乏生活で、ポールとのつきあいも始まったばかり。でも、マルコへの愛情だけは誰にも負けない、揺るぎないものがありました。おそらくルディは、(夜の街で女装して生きる)ゲイであるがゆえに、きっとさんざん辛酸をなめ、孤独に堪えながら、いつかあたたかい家庭を築く日が来ることを夢見ていたんだと思います。だから、やっとめぐって来た幸せを手放したくない、たとえマルコがダウン症でも(育てるのが大変だとしても)、大切な家族として愛情を注いでいきたいと強く願っていたのです。
『トーチソング・トリロジー』を彷彿させるとツイートしている方がいらっしゃいましたが、本当にそうだと思いました。時代は1970年代。主人公は人情に厚いドラァグクイーン。「私は(場末なクラブの女装かもしれないけど)決して悪いことはしてないし、何も間違ってない」と胸を張り、肩肘張って生きています。そんな主人公に数少ない幸運が訪れ、ようやく幸せになれたかと思ったら、ゲイ嫌いな連中がよってたかってその幸せをぶち壊し…。深い愛に満ちていて、気高くて、本当に素敵で、泣けてきてしかたがない、愛しくて、せつなくて、ずっと心の中で輝き続けるような名作なのです。(ちなみに、『トーチソング・トリロジー』でも、主人公のアーノルドがデヴィッドという男の子を養子に迎えます。デヴィッドが中学校で「お前の親はオカマ」とバカにされて腹を立てて同級生に殴りかかり、アーノルドがピンクのガウンとうさぎのスリッパという格好のまま学校に飛んで行く、というシーンが本当に素敵でした)
ルディを演じたアラン・カミングの演技も素晴らしかったと思います。アラン・カミングはバイセクシュアルであることをオープンにしている俳優で、『ロミー&ミッシェル』(歯に矯正器具をつけているミッシェルに熱を上げる変わり者で、最後にシンディ・ローパーの『タイム・アフター・タイム』に乗っておかしなダンスを披露する、サンディという青年)、『X-MEN 2』(青い顔のナイトクロウラー)、『バーレスク』(受付兼芸人のアレクシス)などで観たことがある方も多いと思いますが、実はブロードウェイ・ミュージカル『キャバレー』でトニー賞も受賞している実力派。今回は、主役というだけでなくリップシンク・ショーや歌も披露し、大活躍でした。
ショーや歌といえば、グロリア・ゲイナーの『I Will Survive』、マドンナもカバーしたローズ・ロイスの『Love don't live here anymore』、ボブ・ディランの名曲『I shall be released』、ハニー・コーン『One Monkey Don't Stop The Show』、フランス・ジョリ『Come To Me』といった70年代らしい名曲がちりばめられ、映画を素敵に彩っているのも魅力です。そして、エンドロールで流れるのは、『ブロークバック・マウンテン』に続き、ルーファス・ウェインライト。『Metaphorical Blanket』という歌で(昨年のアカデミー賞オリジナル楽曲賞の候補になりました)、「たとえて言えば、君は燃える火で、ぼくは毛布。毛布をかけすぎると火を消してしまうし、へたをすると毛布自体が焼けてしまう」といったせつないバラードです。オープンリー・ゲイのルーファスが主題歌に起用されたのも素敵なら、ルーファスがこの映画のためにあんなに素晴らしい歌を作って心をこめて歌っているのも素敵で…感動させられました。
『チョコレートドーナツ』Any Day Now
2012年/アメリカ/監督:トラビス・ファイン/出演:アラン・カミング、ギャレット・ディラハント、アイザック・レイバほか/配給:ビターズ・エンド/シネスイッチ銀座にて公開中
INDEX
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