REVIEW
映画『こっぱみじん』
東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でも上映された『こっぱみじん』が現在、一般公開中です。ゲイのことだけが描かれているわけではありませんが、恋愛って、幸せってこういうものだよね、ということに気づかせてくれるような良作でした。

東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でも上映された映画『こっぱみじん』。現在、新宿K'sシネマほかで一般公開中です。ゲイのことだけが描かれているわけではありませんが、恋愛ってこういうものだよね、幸せってこういうものだよね、ということをあらためて感じさせてくれるような良作でした。レビューをお届けします。(後藤純一)






映画祭ではタイミング的に観ることができかったのですが(スパイラルホールのオープニングと重なっていたため)、とりあえずゲイ映画はもれなく観ておこうという義務感で、正直、そんなに期待せずに観に行きました。ところが…予想以上にいい作品だったのです。
隆太と楓の兄妹と拓也の3人は、子どもの頃よく遊んでいた幼なじみ。隆太は5、6年つきあってきた有希という恋人がいて、楓もなんとなくつきあっている彼氏がいるけど、本当は、最近地元(群馬)の病院に転職して帰ってきた拓也のことがずっと好きでした。楓は積極的に拓也のもとを訪ね、仕事の相談をして励まされたり、イマイチな生活に張りも出てきて、心から拓也と幸せになりたいという思いを強くします(世間の人たちは「拓也が楓とつきあえば万事めでたし」と思うことでしょう)。しかし、病院で有希が隆太とは違う男の子どもを妊娠していたことが発覚し、責め立てる拓也に、有希は「ずっと隆太を好きだったんでしょ?」と言い放ちます。それを聞いた楓は…。
事態は急展開し、とても安定して見えた4人の関係はにわかに雲行きがあやしくなります。ストレートである隆太が拓也に振り向くことも、ゲイである拓也が楓に振り向くこともありえず、このままだと誰の恋も実らず、幼なじみの絆も失われてしまうかも…。しかし、そこからがこの映画の見どころです。(これまでにあったように)ゲイの人だけが身を引いて収束したり、ゲイの人が急に女性を好きになったりなどという不自然な展開に持っていくことはありません。それぞれが、相手に好きという気持ちを伝えつつ(相手もきちんとその気持ちを受け止め)、好きな相手の幸せを願い、気遣い、いたわりあうことで、自分自身の幸せにも気づいていくのです。
拓也は(見た目的にも中味的にもあまりゲイっぽくないのですが)、ずっと一途に隆太のことを思っていて、とても不器用な方法で(隆太を怒らせてしまうかもしれないやり方で)告白します。しかし、隆太は、しばらくしてから(この間の時間がリアルだと思います)、いつも通りの笑顔で拓也を迎えに行きます。感激して泣き出す拓也。「家を追い出されたり、職場にいづらくなったり、世間はそういうもんだとあきらめてるけど、お前にだけはキモチワルイって言われたくなかったんだよ」。グッとくるシーンです。
一方、楓は、拓也が兄を思っていることを知っても、やはり「キモチワルイ」と言ったりはしません。それどころか、ゲイだとバレてしまった拓也を心配し、「こっぱみじん」にフラれると知っていながらも、好きだという気持ちを伝えるのです。楓はもともと、仕事もあまりできない、頭の弱そうな女の子ですが、こと拓也への愛にかけては、素晴らしい行動力を発揮します(そんな彼女の表情が、まるで『キャバレー』のライザ・ミネリのように見えてきたり)
「誰か好きになった人がいて、その人が自分のことを好きになってくれて、ずっと一緒にいられるなんて、奇跡だよね」というセリフは、とてもシンプルだけど、ものすごい重みを感じさせました。
恋愛とは?幸せとは?ということを問う真摯さ、けれん味のない撮り方や構成にも好感が持てます。映画ファンの方もきっと気に入る作品だと思います。ぜひ、ご覧ください。
『こっぱみじん』
2013年/日本/監督:田尻裕司/出演:我妻三輪子、中村無何有、小林竜樹、今村美乃ほか/配給:トラヴィス/新宿K’sシネマほかで公開中
INDEX
- 「第三の性」「文化の盗用」そして…1秒たりとも目が離せない映画『フィンランディア』(レインボー・リール東京2022)
- バンドやってる男子高校生たちの胸キュン青春ドラマ『サブライム 初恋の歌』(レインボー・リール東京2022)
- 雄大な自然を背景に、世界と人間、生と死を繊細に描いた『遠地』(レインボー・リール東京2022)
- 父娘の葛藤を描きながらも後味さわやかな、美しくもドラマチックなロードムービー『海に向かうローラ』
- 「絶対に同性愛者と言われへん」時代を孤独に生きてきた大阪・西成の長谷さんの人生を追った感動のドキュメンタリー「93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」
- アジア系ゲイが主役の素晴らしくゲイテイストなラブコメ映画『ファイアー・アイランド』
- ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』
- プライド月間にふさわしい名作! 笑いあり感動ありのドラァグクイーン演劇『リプシンカ』
- ゲイクラブのシーンでまさかの号泣…ゲイのアフガニスタン難民を描いた映画『FLEE フリー』
- 男二人のロマンス“未満”を美味しく描いた田亀さんの読切グルメ漫画『魚と水』
- LGBTQの高校生のリアリティや喜びを描いた記念碑的な名作ドラマ『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
- LGBTQユースの実体験をもとに野原くろさんが描き下した胸キュン青春漫画とリアルなエッセイ『トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー』
- 台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧し、日本でも必ず実現できるはずと確信させてくれる唯一無二の名著『台湾同性婚法の誕生: アジアLGBTQ+燈台への歴程』
- 地下鉄で捨てられていた赤ちゃんを見つけ、家族として迎え入れることを決意したゲイカップルの実話を描いた絵本『ぼくらのサブウェイベイビー』
- 永易さんがLGBTQの様々なトピックを網羅的に綴った事典的な本『「LGBT」ヒストリー そうだったのか、現代日本の性的マイノリティー』
- Netflixで今月いっぱい観ることができる貴重なインドのゲイ映画:週末の数日間を描いたロマンチックな恋愛映画『ラ(ブ)』
- トランスジェンダーのリアルを描いた舞台『イッショウガイ』の記録映像が期間限定公開
- 宮沢賢治の保阪嘉内への思いをテーマにしたパフォーマンス公演「OM-2×柴田恵美×bug-depayse『椅子に座る』-Mの心象スケッチ-」
- 絶望の淵に立たされた同性愛者たちを何とか救おうと奮闘する支援者たちの姿に胸が熱くなる映画『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』
- スピルバーグ監督が世紀の名作をリメイク、新たにトランスジェンダーのキャラクターも加わったミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』
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