REVIEW
映画『カミングアウト』
今年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でも上映された映画『カミングアウト』が現在、渋谷ユーロスペースで上映中です。ゲイの青年が葛藤の末にカミングアウトするまでの日常をリアルにつづった青春ドラマ作品で、歌川たいじさんなども出演しています。

思春期の頃、あるいは学生時代、同級生や同じ部活の子を好きになり、その子が同性だったために、「自分はおかしいんじゃないんだろうか…」「こんな思い、絶対に誰にも相談できない…」などと葛藤し、苦悩した経験をお持ちの方は本当に多いと思います。
中には、勇気を出して告白したのに、相手にそのことを言いふらされ、いじめられたり、自殺まで考えたり…という方もいらっしゃいます。
同性を好きになることはそんなに間違ったことなのか、どうして自分だけこんな思いをしなければいけないのか…
「REACH Online」の研究代表者・日高庸晴氏が、全国の保育園、幼稚園、小中高校の先生6000人弱を対象にセクシュアルマイノリティに関する調査を行ったところ、セクシュアルマイノリティの子どもと関わった経験のある先生はごく少数で(同性愛の子どもの場合、7.5%)、また、性的指向は個人の選択ではなく生まれつきのものだということを70%以上の先生が正しく理解していなかったことが明らかになりました。
(そんななか、2016年の教科書の改訂を目指し、こちらで署名が呼びかけられています)
いくら社会が寛容になってきたとはいえ、学校で同性愛のことが教えられず、先生がよくわかっていない(差別的な発言をしているかもしれない)状況で、ゲイやレズビアンの子どもたちは、未だに周囲の偏見や差別に傷つき、好きな人に自分の思いを伝えられず、誰にも相談できず、孤立感に苛まれていたりします。
こうした状況を変えていくための、ひとつの希望となるのが、この映画『カミングアウト』だと思います。





ゲイの大学生・陽は同じサークルに所属する昇に思いを寄せているが、自分がゲイであることは周囲には秘密にしていた。そんな陽がありのままの自分でいられるのは、新宿二丁目にある行きつけのバー「B♭」だけ。友情や恋愛、将来に対する不安など悩みが尽きない陽だったが、さまざまな出来事を経験していく中で、ある思いが芽生えはじめる…
陽や昇が所属している学生サークルは、先輩が典型的な女好きキャラだったり、サークル内で男女がくっついたり、ヘテロセクシズム(強制異性愛)が吹き荒れる、ゲイにとっては居心地悪いことこのうえないところなのですが、昇と少しでもいっしょにいたいという思いで、陽は我慢しています。報われない恋…だけでなく、家族やサークルの他のメンバーにゲイだとバレたら生きていけるだろうか…という恐怖もあり、陽は心底苦しみます(とてもリアルです)
そんな陽が心の拠り所としているのが、二丁目の「B♭」というゲイバー。ママ役をつとめるのが(TVに出てくるようなうっすらお化粧をしてわざとらしいオネエ言葉をしゃべるおじさんじゃなく)「♂♂ゲイです、ほぼ夫婦です」で有名な歌川たいじさんだったりするところがリアルで素敵です(これが二丁目のゲイバーだよね、と思わせる、安心感のような、ほっこりするような感じがあります)。バーの常連さんの役で、オープンリー・レズビアンのタレント、一ノ瀬文香さんも出演しています。
さまざまな葛藤を経て、また、そうした仲間たちを心の支えにして、陽は一大決心をします。きっと観客の方たちは応援したくなるはずです。
監督の犬童一利さん(弱冠28歳)はストレートの方ですが、2012年には、恋人がSRS(性別再指定手術)を受けた元男性だったというミュージシャンの方の実話を映画化した『SRS♂ありきたりなふたり♀』という作品を撮っており、今回も、純粋に同性愛者へのシンパシーの表現としてこの『カミングアウト』を作りました(監督さんの語りを聞くと、なんて実直な方なんだろう…と思います。作品にもそのまじめさが表れていると思います)
『カミングアウト』は、ゲイやレズビアンの当事者の方はもちろん、その家族や友達、同僚、先生など、アライとなるべき方にぜひ観てほしい、そして「ホモとかって好きでやってるんだからつらい目にあっても自業自得だよね」「男にモテないからレズに走るんだよね」みたいなことを言っちゃう人たちにこそ絶対に観てほしい、と思います。文科省が推薦して、全国の学校の授業で教材として上映したらいいのに、と強く思います。
これは、そういう作品です。

『カミングアウト』
2014年/日本/監督・脚本:犬童一利/出演:高橋直人、岡村優、夏緒、高山侑子、秋山浩介、歌川たいじ、一ノ瀬文香ほか/配給:レイズインターナショナル/渋谷ユーロスペースにて上映中
INDEX
- 70年代のゲイクラブ放火事件に基づき、イマの若いゲイと過去のゲイたちとの愛や友情を描いた名作ミュージカル『The View Upstairs-君が見た、あの日-』
- 何食べにオマージュを捧げつつ、よりゲイのリアルを追求した素敵な漫画『ふたりでおかしな休日を』
- ゲイの青年がベトナムに帰郷し、多様な人々と出会いながら自身のルーツを探るロードムービー『MONSOON モンスーン』
- アウティングのすべてがわかる本『あいつゲイだって ――アウティングはなぜ問題なのか?』
- ホモソーシャルとホモセクシュアル、同性愛嫌悪、女性嫌悪が複雑に絡み合った衝撃的な映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
- 世紀の傑作『RENT』を生んだジョナサン・ラーソンへの愛と喝采――映画『tick, tick… BOOM!:チック、チック…ブーン!』
- 空を虹色に塗ろう――トランスジェンダーの監督が世界に贈ったメッセージとは? 映画『マトリックス レザレクションズ』
- 人種や性の多様性への配慮が際立つSATC続編『AND JUST LIKE THAT... セックス・アンド・ザ・シティ新章』
- M検のエロティシズムや切ない男の恋心を描いたヒューマニズムあふれる傑作短編映画『帰り道』
- 『グリーンブック』でゲイを守る用心棒を演じたヴィゴ・モーテンセンが、自らゲイの役を演じた映画『フォーリング 50年間の想い出』
- ショーや遊興の旅一座として暮らすクィアの生き様を描ききったベトナム映画『フウン姉さんの最後の旅路』
- 鬼才ライナー・ベルナー・ファスビンダー監督の愛と性をリアルに描いた映画『異端児ファスビンダー』
- ぜひ映画館で「歴史」を目撃してください――マーベル映画初のゲイのスーパーヒーローが登場する『エターナルズ』
- 等身大のゲイの恋愛を魅力的なキャストで描いたラブリーな映画『クロスローズ』
- リアルなゲイたちの愛や喜び、苦悩、希望、PRIDEに寄り添う、心揺さぶる舞台『すこたん!』
- 愛と笑顔のハッピームービー『沖縄カミングアウト物語〜かつきママのハグ×2珍道中!〜』
- ムーミンの作者、トーベ・ヤンソンの同性愛をありのままに描いた映画『TOVE/トーベ』
- 伝説のデザイナーのゲイライフに光を当てたドラマ『HALSTON/ホルストン』
- 幾多の困難を乗り越えてドラァグクイーンを目指すゲイの男の子の実話に基づいた感動のミュージカル映画『Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー~』
- ドラァグクイーンに憧れる男の子のミュージカル『Everybody's Talking About Jamie』
SCHEDULE
- 04.03raw. -OUT OF CONTROL-
- 04.03じゃぱんぐ♪ vol.92
- 04.04SINLAND -UNDER WEAR PARTY-
- 04.04なまってナイト 〜春だもの、上京物語を語らナイト〜
- 04.04One Size Down Night Vol.6 Osaka







