REVIEW
映画『ビリー・エリオット ミュージカルライブ』
映画『リトル・ダンサー』のミュージカル版としてロングラン大ヒットを記録中の『ビリー・エリオット・ザ・ミュージカル』。未だ来日公演は実現していませんが、ロンドン公演の模様を収録した映画が期間限定で公開中。必見です!

映画『リトル・ダンサー』のミュージカル版としてロングラン大ヒットを記録している『ビリー・エリオット・ザ・ミュージカル』。監督はスティーブン・ダルドリー、音楽はエルトン・ジョンという英国を代表するゲイの才人が集結し、あらゆる意味で素晴らしい、涙、涙の感動作を誕生させました。未だ来日公演は実現していませんが、ロンドン公演の模様を収録した映画が期間限定で公開中。これは必見です!(後藤純一)
■映画『リトルダンサー』



先の見えない貧しい町で、どんなに笑われようと殴られようと自分に正直に生き、そして困難にも負けず、力の限り踊るビリーの姿が世界中を勇気づけました。信じれば、世界は広がる。夢は現実になる。人間ばんざい! そういう気持ちになれる作品です。
ビリーは「バレエなんてゲイのやることだ」という偏見に負けそうになったり、父親に「二度とバレエ教室に近づくな」と殴られたりしますが、ビリーの才能を見抜いた先生の熱心なサポートもあり、また、ビリーのひたむきさに心を打たれて、やがて周囲の人たちも変わっていき…という過程が感動を呼びます。
それから、親友のゲイの男の子、マイケルとの友情も泣かせます。
これがサッカーに夢中になる男の子という陳腐なお話だったら、世界中で愛される作品にはならなかったことでしょう。炭坑街という貧しい男社会のなかで「オカマ」と罵られながらもバレエをやめない(ゲイの男の子との友情もやめない)、その意志の強さと純真さ、そして優しさ(ゲイフレンドリーさ)に心を打たれるのです。
『リトルダンサー』は2000年、カンヌ国際映画祭で絶賛され、英国アカデミー賞主演男優賞(ジェイミー・ベル)、助演女優賞(ジュリー・ウォルターズ)、作品賞に輝きました。
英国を代表する世界的トップ・ダンサーであるアダム・クーパー(マシュー・ボーンの『白鳥の湖』で一世を風靡。先頃、『雨に唄えば』の来日公演でも話題になりました)が特別出演しているのも話題になりました。
『リトルダンサー』は、イギリスの田舎街で、貧困から脱しようともがき、輝く人々を描き、希望を与える作品という意味では『フル・モンティ』や『キンキー・ブーツ』と似ています(3作ともゲイが登場するという点も共通しています)。が、『フル・モンティ』や『キンキー・ブーツ』がエンタメ色を前面に打ち出している笑えて楽しい作品であるのに対し、『リトルダンサー』はもっとシンプルで、より深く絶望的な地点から高みに昇っていくような強度と純粋さがあり、世代や人種や性別やセクシュアリティを超えて感動を与えるような、何度も観たくなる名作になっています。
<ストーリー>
1984年、ストライキに揺れるイギリスの炭鉱町。11歳の少年ビリーは、息子に強い人間になってほしいという父親の願いから、ボクシング教室に通っているが、なかなか上達しない。そんなある日、偶然目にしたクラシックバレエに興味を持ったビリーは、父親に内緒でバレエを習い始めるが…
■『ビリー・エリオット・ザ・ミュージカル』










映画『リトルダンサー』のミュージカル版の音楽監修の依頼を受け、エルトン・ジョンはわずか2週間でこの『ビリー・エリオット・ザ・ミュージカル』の音楽を書き上げました(ちなみにエルトン・ジョンは『ライオン・キング』『アイーダ』の作曲にも携わっています)。監督は『リトルダンサー』と同じスティーブン・ダルドリー(『めぐりあう時間たち』『愛をよむひと』)。英国を代表するゲイの才人がタッグを組んで誕生させたこの傑作は、2005年にロンドンで初演されて以来、世界各国で1000万人以上を動員、2009年のトニー賞ではミュージカル作品賞ほか10部門を受賞しました。
そんな『ビリー・エリオット・ザ・ミュージカル』は、映画『リトルダンサー』をほぼ忠実に再現した作品ですが、ミュージカルならではの演出が施され、エルトン・ジョンの音楽が光り、そしてなにより、主役の男の子の全身全霊のダンスに心を打ちのめされる舞台です。
ビリーがジェンダー的な偏見(男のくせにバレエなんて)と闘い、一度は「状況」に負け、打ちひしがれるものの、そのひたむきさで周囲を変え…というメインストーリーだけでなく、炭坑労働者のストという極めてイギリス的なテーマが背景にどっしり構え(時にそれがビリーの物語と交錯し)、また、ビリーと亡くなった母親との関係、ビリーと祖母の関係、ビリーとバレエの先生との関係、ビリーとゲイの親友マイケルとの関係、どれもが本当に泣かせるような、いい話になっています。そして、たぶん『リトルダンサー』には無かっただろう、とてもゲイチックなシーンも追加されていました。
映画版は暗い炭坑街のイメージが強烈にありましたが、ミュージカル版ではそんな炭坑夫たちも踊ったりするので、もっと明るい雰囲気になっています。
映画のようなアダム・クーパーの出演シーンは無いものの、大人になったビリーが登場し、二人で「白鳥の湖」を踊るシーンがとても幻想的で素晴らしいです(ちなみにアダム・クーパーの『雨に唄えば』の来日公演もありましたね。あれもよかったですが、『ビリー・エリオット』の方が100万倍素晴らしいです)
キャスト、スタッフ、関わったあらゆる人たちの思いが結実し、奇跡を起こした…そんな気がします。
『ビリー・エリオット・ザ・ミュージカル』は間違いなく、『RENT』や『レ・ミゼラブル』などと並ぶ「泣けるミュージカル」の名作として殿堂入りを果たしたと思います。
■『ビリー・エリオット ミュージカルライブ』

かつて『ビリー・エリオット・ザ・ミュージカル』来日公演の話も持ち上がったものの、残念ながら実現はしていませんでした(主役が小学生の男の子だったりもして、なかなか難しいものがあったようです)。が、このたび、ロンドン公演の舞台を収録した映像作品『ビリー・エリオット ミュージカルライブ』が、期間限定で上映されることになりました。
舞台がどんなだったかは、『ビリー・エリオット・ザ・ミュージカル』の項に書いた通りですが、この映像に収録されたロンドンのヴィクトリア・パレス劇場での公演では、これまでにビリーを演じた(すでにこの作品は10年のロングランヒットを記録中で、主役の男の子は声変わりすると交代を運命づけられているので)27人のキャストが勢ぞろいし、迫力満点のダンスを繰り広げる!というサプライズが盛り込まれています。そして、大人になったビリーと二人で「白鳥の湖」を踊るシーンは、初代ビリーとして名高いリアム・ムーアが一夜限りの出演を果たしているという、本当にスペシャルな公演なのでした。
そんなスペシャル公演の開幕前には、監督のスティーブン・ダルドリーが舞台に上がり、ご挨拶する場面もあり、観客席はもうこの時からものすごい熱気に包まれていて、それもまたジーンとくるものがありました。
そして、この『ビリー・エリオット ミュージカルライブ』は、完全ライブ収録なので、シーンが終わるごとの大きな歓声や拍手(ときにはスタンディングオベーションも…まだ途中なのに)ももれなく入っていて、まるでそこに居合わせているかのような臨場感があります(つい自分も拍手したくなります)。感動も倍増!です。
エルトン・ジョンが作品について解説したり、ビリー役のエリオット・ハンナくんが舞台裏を案内したりという特典映像も盛り込まれています。
正直、そんな熱気や臨場感や、スペシャル感に圧倒されたこともあって、最初から最後まで涙を流しっぱなしでした。
たぶんロンドンで公演を観ても(あるいは来日公演が実現したとしても)感動したと思いますが、この映画版の感動は格別だと思います。
来年1月1日までは上映されています。DVD化されるかどうかはわかりません。ぜひこの機会にご覧ください。
(なお、3時間超の作品で、途中で休憩も入ります。ライブビューイングものはだいたいそうなのですが、特別料金2000円となりますので、ご注意ください)
『ビリー・エリオット ミュージカルライブ リトル・ダンサー』
2014年/イギリス/上映時間:189分/配給:東宝東和/監督:スティーブン・ダルドリー/脚本:リー・ホール/音楽監督:エルトン・ジョン/出演:エリオット・ハンナ、ラシー・ヘンズホール、デカ・ウォームズリー、リアム・ムーア、アン・エメリーほか/TOHOシネマズ みゆき座にて公開中
INDEX
- 【AQFF】痛みを抱えるゲイたちに贈る愛の讃歌――韓国で初めて同性結婚を挙げたキム=ジョ・グァンス監督の最新作『夢を見たと言って』
- 【AQFF】泣けるほど心に残る、恋に傷つく青年たちの群像――イ=ソン・ヒイル監督が10年ぶりに手がけたクィア映画『ソラスタルジア』
- 【AQFF上映作品】これがゲイ映画というものです! 純朴なゲイの青年とその友達、二丁目的なコミュニティ、そして恋の真実を描いた感動作『3670』
- アート展レポート:Manbo Key「Under a void|空隙之下」
- アート展レポート:第8回「美男画展」
- 【アジアンクィア映画祭】俺様オヤジ vs マイノリティ連合の痛快バトル・コメディ――ドラァグとK-POPを添えて――映画『イバンリのチャン・マノク!』
- ロシアの強大なマチズモに立ち向かう孤高のドラァグ・アーティストの姿を映し出した映画『クイーンダム/誕生』
- 性の多様性について子どもから大人まで理解し共感できる決定版的な良書『多様な性を生きる LGBTQ+として生きる先輩たちに人生のヒントを聞いてみた』
- ミニマムなのにとんでもなくスリリングでクィアな会話劇映画『アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』
- 異国情緒あふれる街で人と人とが心通わせる様にしみじみと感動させられる名作映画『CROSSING 心の交差点』
- ワム!のマネージャーだったゲイの方が監督した真実のドキュメンタリー『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』
- アート展レポート:ネルソン・ホー「鏡中花、水中月 - A Mere Reflection of Flower and Moon」
- レポート:グループ展 “Pink”@オオタファインアーツ
- アート展レポート:東京都写真美術館「総合開館30周年記念 遠い窓へ 日本の新進作家 vol.22」
- レポート:國學院大學博物館企画展「性別越境の歴史学-男/女でもあり、女/男でもなく-」
- 実は『ハッシュ!』はゲイカップルに育てられた子どもの物語として構想されていた…25年目の真実が明かされた橋口監督×田辺誠一さんによる映画『ハッシュ!』スペシャルトークイベント
- レポート:短編集「Meet Us Where We’re At」上映会
- レビュー:BSSTO「世界の・周りの・私のジェンダー」を見つめるショートフィルム特集
- たとえ社会の理解が進んでも法制度が守ってくれなかったらこんな悲劇に見舞われる…私たちが直面する現実をリアルに丁寧に描いた映画『これからの私たち - All Shall Be Well』
- おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
SCHEDULE
記事はありません。







