REVIEW
映画『宇田川町で待っててよ。』
今年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で何度となく予告編が流れていた映画『宇田川町で待っててよ。』。原作は人気BLコミックなのですが、BLって苦手なんだよね…という方でも大丈夫! お話もしっかりしてるし、ちゃんと映画として楽しく観られます。泣けたりはしないけど、なかなかの良作でした。

『宇田川町で待っててよ。』は、今年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で何度となく予告編を見て、印象に残っていた映画です。正直、BLファンでもありませんし、出演してる人たちがイケるわけでもなかったのですが(すみません)、1日の映画サービスデーなら観てもいいかも、と思い、フラリと観てみたところ、意外と楽しめました。観てよかったです。レビューをお届けします。(後藤純一)







ストーリーはこんな感じです。
たくさんの人たちが行き交う渋谷・ハチ公前。男子高校生・百瀬はそこで、運命の女の子に遭遇する。しかし、よく見るとそれは、女装したクラスメイトの八代だった。それ以来、百瀬は、家でも学校でもすっと八代のことが気になって仕方がない。一方、八代は、百瀬が女装のことをバラすのではないかと怯え、「着ろ!」と半ば脅しで渡された女子高の制服に袖を通す。そして、女装姿で百瀬の前に立つと、緊張と羞恥心で抵抗できなくなってしまうのだった。いったいなぜ、八代は女装して人前に立つのか? いったいなぜ、百瀬はそこまでして女装の八代に思い入れるのか? 臆病な女装男子と、一途すぎる男子高校生の不器用で青いラブストーリーの行方は…
原作を忠実に映画化していたようで、お話がしっかりしてたし、二人の関係性の変化が面白かったし、流行りの壁ドンとかもあって、なかなか楽しめました。主役の二人ともJUNONボーイだったりするのでレベル高いし(僕は1ミリもイケませんが)、特に八代役の横田龍儀さんは元がキレイな顔立ちなので、女装してもキレイでした(観客を納得させるものがあったかと思います)
BLに詳しくないので違ってたらごめんなさいなのですが、リアルなゲイだったらたぶん、あきらめて次に行ってしまいがちなところを、「攻め」の百瀬(いつもヘッドホンでヘビメタを聴いている、ちょっと暗い感じの子)が、ちょっと引いちゃうくらいガンガンアタックするところが、男らしいというか、スゴい!と思いました。一方、「受け」の八代は、学校での自分(ドノンケで、男っぽい)と、女装したい自分の間で揺れ動きながらも、百瀬の迫力に圧倒されて、だんだん内なる欲望があらわに…。二人はゲイであるというより、たまたま、百瀬が女装姿の八代に一目惚れしてしまったがゆえに生まれた恋という感じで描かれています(一部、八代がノーメイクで服だけ女装っていう状態もあるのですが、それでも百瀬が欲情しちゃうのが、不思議ではあるのですが)。なので、男どうしの体の関係はあっても、ノンケという前提が揺るぎません。二人だけで完結する世界なのです。
しかし、そういうBLの設定(お約束?)を取っ払って、二人の関係性に焦点を当てて観てみると、ゲイ的にはあまり縁がない、実にミステリアスな恋愛の形だったりして、興味深いと思います。ゲイの場合、女装は性的な意味でNGです。なので、女装姿の八代に一目惚れっていうのがまず感覚として理解できません。百瀬はどうしてそこまで入れ込むのか、女物の服を用意して着せたりして楽しいのか。八代も女装した自分にウットリしたり、興奮したり…(もしかしたら、ドラァグクイーンもそういう感じじゃないの?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、ほとんどの方は違うと思います。メイクや衣装も女性化を目指すものではありませんし、女装で街角に立ったりとかもしません)
そもそも、女装してもどこか男らしさが残ってしまう八代に(世の女性たちを差し置いて)そこまで本気で恋してしまうっていうのは、どういうわけなんだろう。男の子でもなく女の子でもなく女装に惹かれるセクシュアリティということなのか。それって「LGBT」には入れてもらえないかもしれないけど、もっとクィアで素敵なんじゃないか、とか。いろいろ考えてしまいました。性的指向は、男性/女性/両性だけじゃないのです。(考えてみれば、昔からシーメール好きな「ノンケ」男性もいたし、ドラァグクイーンと「ノンケ」男性がつきあってた話もあるし、けっこう彼らはその辺柔軟なのかもしれないな、と思ったりしました)
この夏、映画祭の『ボーイ・ミーツ・ガール』といい、『彼は秘密の女ともだち』といい、『宇田川町で待っててよ。』といい、女装した男性(MTFトランスジェンダーと書くべきかもしれませんが、今回の作品は「女装した男性」という言い方がふさわしいと思いました)が恋愛する物語を立て続けに観て、いま、女装男子が世界的にブームなのかも…と思ってしまいました。欧米ではたぶん、ゲイやレズビアンの物語がさんざん描かれてきて、同性婚も認められて、次はトランスジェンダーがもっと幸せになる番だ、という流れがあるんだと思います。日本の場合、ずっと前から映画やドラマに女装した男性が頻繁に登場してきましたが(ゲイバーのママの役とかで)、こういう高校生の青春みたいな描かれ方は新鮮だし、誰もが応援したくなるような感じ。好感度大!でした。
百瀬の姉が偶然、八代の女装を見て「やだ、キモイ」と言うシーンがありますが(百瀬は「お前の百億倍かわいいわ!」と怒鳴り、八代の手をつかんで走っていくのですが、実はちょっとジーンとくる、いいシーンだなあと思います)、やはり体格とか体の動きとかはどうやっても男性が出ちゃうし、ナチュメの限界もあり、八代の女装はどうしても(いい線いってるけど)女性になりきれない部分も残っています。そこが逆に、けなげというか、初々しい感じがしてよかったです。BLだけど決して耽美な絵空事には走ってない、リアルにありそうなレベルの女装だからこそ、感情移入もできるだろうし、幸せになってほしいと思えるのです。
二丁目に限らず、電車とか街中でも、女装男子(「男の娘」とか)を目にすることも多くなってきたかと思いますが、どうか「趣味女」などと言わず、あたたかい目で見守ってください、と思えるようになる映画でした。

『宇田川町で待っててよ。』
2015/日本/監督:湯浅典子/出演:黒羽麻璃央、横田龍儀ほか
INDEX
- 「第三の性」「文化の盗用」そして…1秒たりとも目が離せない映画『フィンランディア』(レインボー・リール東京2022)
- バンドやってる男子高校生たちの胸キュン青春ドラマ『サブライム 初恋の歌』(レインボー・リール東京2022)
- 雄大な自然を背景に、世界と人間、生と死を繊細に描いた『遠地』(レインボー・リール東京2022)
- 父娘の葛藤を描きながらも後味さわやかな、美しくもドラマチックなロードムービー『海に向かうローラ』
- 「絶対に同性愛者と言われへん」時代を孤独に生きてきた大阪・西成の長谷さんの人生を追った感動のドキュメンタリー「93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」
- アジア系ゲイが主役の素晴らしくゲイテイストなラブコメ映画『ファイアー・アイランド』
- ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』
- プライド月間にふさわしい名作! 笑いあり感動ありのドラァグクイーン演劇『リプシンカ』
- ゲイクラブのシーンでまさかの号泣…ゲイのアフガニスタン難民を描いた映画『FLEE フリー』
- 男二人のロマンス“未満”を美味しく描いた田亀さんの読切グルメ漫画『魚と水』
- LGBTQの高校生のリアリティや喜びを描いた記念碑的な名作ドラマ『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
- LGBTQユースの実体験をもとに野原くろさんが描き下した胸キュン青春漫画とリアルなエッセイ『トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー』
- 台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧し、日本でも必ず実現できるはずと確信させてくれる唯一無二の名著『台湾同性婚法の誕生: アジアLGBTQ+燈台への歴程』
- 地下鉄で捨てられていた赤ちゃんを見つけ、家族として迎え入れることを決意したゲイカップルの実話を描いた絵本『ぼくらのサブウェイベイビー』
- 永易さんがLGBTQの様々なトピックを網羅的に綴った事典的な本『「LGBT」ヒストリー そうだったのか、現代日本の性的マイノリティー』
- Netflixで今月いっぱい観ることができる貴重なインドのゲイ映画:週末の数日間を描いたロマンチックな恋愛映画『ラ(ブ)』
- トランスジェンダーのリアルを描いた舞台『イッショウガイ』の記録映像が期間限定公開
- 宮沢賢治の保阪嘉内への思いをテーマにしたパフォーマンス公演「OM-2×柴田恵美×bug-depayse『椅子に座る』-Mの心象スケッチ-」
- 絶望の淵に立たされた同性愛者たちを何とか救おうと奮闘する支援者たちの姿に胸が熱くなる映画『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』
- スピルバーグ監督が世紀の名作をリメイク、新たにトランスジェンダーのキャラクターも加わったミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』
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