REVIEW
映画『チェッカーで(毎回)勝つ方法』(レインボー・リール東京2016)
第25回レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)で観た作品のレビューをお届けしていきます。1本目は2016年アカデミー賞外国語映画部門タイ代表作品で、タイ・アカデミー賞で助演男優賞を受賞した『チェッカーで(毎回)勝つ方法』です。
第25回レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)で観た作品のレビューをお届けしていきます。1本目は2016年アカデミー賞外国語映画部門タイ代表作品で、タイ・アカデミー賞で助演男優賞を受賞した『チェッカーで(毎回)勝つ方法』です。今までアジアンクィア映画祭で上映されてきたような、感情をダイレクトに揺さぶるような、せつなさで胸がいっぱいになるような、良質のアジア映画でした。登場するゲイ役の方のセクシーさもスゴいです。惚れます。ぜひぜひ、スパイラルでご覧ください!(後藤純一)
反政府勢力が国(軍隊)との衝突を繰り返しているタイ南部。両親を亡くした少年オートと兄エックは(両親を亡くしたため)おばの家で暮らしている。エックはゲイで、金持ちの息子・ジェイと高校時代からつきあっている。兄弟はとても貧しいながらも幸せな日々を過ごしていたが、21歳になったエックはジェイとともに徴兵のくじ引きに参加することに。オートは兄と離れたくない一心で行動を起こすが…。
あまり前情報ナシに観たのですが、前半の貧しいながらも幸せいっぱいな兄弟の仲睦まじさと(それらが全て悲劇的な結末を予感させるものだけに、最初からもう涙腺が…)、後半のシリアスな現実との対比に、胸がいっぱいで何も言えなくなりました…とてもせつなく、身につまされる映画でした(個人的に、この映画の家族と同じくらい貧しい子ども時代を過ごしていたため、余計にシンクロしてしまった部分もあるかもしれません)
今までアジアンクィア映画祭でも、ものすごくエモーショナルな映画がたくさんあったと思いますが、これもそうでした。やっぱりアジア映画はいい、と再確認。早くも今年の個人的映画祭ベスト作品になるかも…と予感しています。
特筆すべきは、ちょっと今までなかったパターンだと思うのですが、ふつうに男の子っぽくて、イモ系でちょっとムチムチしてて、なおかつ優しいゲイの兄貴がいるという設定。なんて幸せなんだろう…って、前半は正直、悶えまくってました(子どもの頃、夢に思い描いていたことが目の前で繰り広げられている!)。弟のオートはノンケなので、別に萌えたりはせず、ただ「兄ちゃん大好き!」って感じでまとわりつき、チェッカー(簡単なチェスみたいなゲーム。そのコマも盤も手作りなのが泣かせます)をやったり、バイクに乗せてもらったり、いたずらしたり、やんちゃな男の子してて、その姿もまた微笑ましく。それでいて、兄ちゃんの彼氏のジェイも、友達のカトゥーイ(ニューハーフ)のキティとも仲良し。きっと多くの方が「理想!」って思うような状況なのです。しかも、エックとジェイのラブシーンとか、シャワーシーンとか、セクシーショットがちょいちょい出てきて、ソソります。
タイはトランスジェンダーに優しい国、というイメージがありましたが(徴兵のくじ引きでほぼ見た目女性なキティが軍のおじさんに「手術は? ホルモン治療は?」と聞かれるところに感心しました)、ゲイも同じだなあと思いました(いじめっ子的な街のワルですら、ホモフォビックな発言は一つもありませんでした)。ただ、貧しい家の生まれのゲイが幸せになれるかというと…(たぶん伏せておいた方がいいと思うので、書きませんが)たぶんあれがタイの田舎町のリアリティなのでしょうが、とてもせつなくなりました。タイによく行かれる方は特に、ぜひ観ていただきたいと思います。
それほどたくさんのゲイ(やカトゥーイ)に関するシーンが描かれていながらも、この映画の重心は違うところにあります。ふつうの暮らしやささやかな幸せが奪われてしまう人々と何不自由ない暮らしを保証された人々がいるという世の中の不条理を告発するような作品でした。日本はなんて平和なんだろう…って、当たり前に平和や自由や豊かさを享受できていることのありがたみをかみしめました(その当たり前も、参院選の結果によっては…)
ノンケである弟が回想するという構成で、兄弟愛がベースにあるからこそ、ゲイだけじゃなく多くの人が感情移入し、共感できる作品になっていると思います。また、アジア映画の「濃さ」やウェットな部分が前面に出るのではなく、例えば欧米の方が観ても誰が観ても共感するような、絶妙なバランスを保っていたと思いました(アカデミー賞外国語映画部門タイ代表作品に選ばれたのも納得です)
ちなみにこの映画には原作があり、ラッタウット・ラープチャルーンサップというタイ系アメリカ人作家の「徴兵の日」「カフェ・ラブリー」という短編(ハヤカワepiブック・プラネットの第1弾として刊行されるやいなや、書評紙誌から絶賛された『観光』という短編集に収められています)をもとに、監督のジョシュ・キムが脚本を起こしたようです。映画を観て、原作小説も読んでみたいと思った方もいらっしゃると思うので、ご案内しておきます。(追記です。原作の短編は確かに印象的な、出色の作だったのですが、特にゲイは出てきませんでした。この映画の脚本は「徴兵の日」「カフェ・ラブリー」をモチーフとして使いながら、ゲイの兄というキャラクターを加えることによって原作以上の感動や深みを生み出すものになったと言えます。ジョシュ・キム、素晴らしいです)
映画『チェッカーで(毎回)勝つ方法』は、7月16日(土)13:40〜@スパイラルで上映されますので、ぜひご覧ください。
『チェッカーで(毎回)勝つ方法』英題:How to Win At Checkers(Every Time)
監督:ジョシュ・キム|2015|タイ、香港、アメリカ、インドネシア|80分|タイ語 ★日本初上映
INDEX
- 女性と同性愛者を抑圧し、ペストで死ぬ人々を見殺しにする腐敗した権力者への叛逆を描いた映画『ベネデッタ』
- トランスジェンダーへの偏見や差別に立ち向かうために読んでおきたい本:『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』
- 『痛快!明石家電視台』ドラァグクイーン大集合SP
- 殺伐とした世界に心を痛めるすべての人に観てほしいドラマ『THE LAST OF US』第3話
- 3人のドラァグクイーンのひと夏の旅を描いたハートフル・コメディ映画『ひみつのなっちゃん。』
- 40歳のゲイの方が養護施設で育った複雑な生い立ちの20歳の男の子を養子に迎え入れ、新しい家族としての生活を始める姿をとらえたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』
- 貧しい家庭で妹の面倒を見る10歳のゲイの男の子が新しい世界を切り開こうともがき、成長していく様を描いた映画『揺れるとき』
- ゲイコミュニティへのリスペクトにあふれ、あらゆる意味で素晴らしい、驚異的な名作『エゴイスト』
- ドラァグクイーンの夢のようなロマンスを描いたフランス発の短編映画『パロマ』
- 文藝賞受賞、芥川賞候補の注目作――ブラックミックスのゲイたちによる復讐を描いた小説『ジャクソンひとり』
- ドラァグクイーンによる朗読劇『QUEEN's HOUSE〜あなたの知らないもうひとつの話〜TOKYO』
- 伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』
- 謎めいたゲイ・アーティストの素顔に迫るドキュメンタリー映画『アンディ・ウォーホル:アートのある生活』
- 『ボヘミアン・ラプソディ』の感動再び… 映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
- 近年稀に見る号泣必至の名作ゲイ映画『世界は僕らに気づかない』
- ぼくらはシンコイに恋をする――『シンバシコイ物語』
- ゲイカップルやたくさんのセクシャルマイノリティの姿をリアルに描いた優しさあふれる群像劇『portrait(s)』ほか
- TheStagPartyShow movies『美しい人』『キミノコエ』
- Visual AIDS短編集『Being & Belonging』
- これ以上ないくらいヘビーな経験をしてきたゲイの方が身近な人たちにカミングアウトする姿を追ったドキュメンタリー映画『カミングアウト・ジャーニー』
SCHEDULE
- 05.18秋田プライドマーチ
- 05.18An Evening with ALASKA
- 05.18SPECTRUM vol.1
- 05.18GLOBAL KISS
- 05.18PIERROT OKINAWA 19th anniversary