REVIEW
映画『ホールディング・ザ・マン 君を胸に抱いて』
オーストラリアのゲイカップルの実話に基づいた映画なのですが、なぜこれが一般上映されなかった?と不思議になるくらい素晴らしい、泣ける名作でした(あのサム・スミスも「観るべきだよ!」と言っています)。Netflixでご覧いただけます!
約20年前、オーストラリアのTimothy Conigraveというゲイの方が、約15年にわたる最愛の彼氏とのパートナーシップのことを書いた自伝的小説『Holding the Man』を発表しました。これがベストセラーとなり、約10年前にオーストラリアで舞台化され、そして昨年、ついに映画化されて、世界に向けて公開されたのです。本当に素晴らしい、泣ける名作なのに、残念ながら日本の映画館では上映される機会がなく…でも、Netflixができたおかげで観ることができました。レビューをお届けします。(後藤純一)
1975年、メルボルンにあるカトリックの男子高校。演劇部のティムは(『ロミオとジュリエット』のロミオ役を演じたりしているのですが)、ラグビーボールを持って校庭を走っているジョンに一目惚れします。ラグビーの試合でケガをしてしまったジョンを見舞い、荷物を持ってあげたり、親切にするティム。授業中に隣の席に移動して「君はきっとラグビーの最優秀選手になるよ」とか筆箱に書いたり。そして、夜の電話でティムはついに、ジョンに告白し、まさかのOKをもらうのです。考えてもみてください。野球部のキャプテンをしているような同級生に恋してしまったとして(私がまさにそうでした)、彼に気持ちを伝えるだけでもスゴいことなのに(ノンケの同級生に告白して、裏切るかのように仲間にアウティングされ、心を病んで、挙げ句の果てに自殺…ということが未だに起こってしまうくらい、厳しい現実があるなかで)、まさかのOKをもらえるなんて…夢みたいですよね。天にも昇る気持ちです。二人とも高校生にはとても見えない(無理がある)ので、正直笑っちゃったのですが、この展開にはヤラれました。素敵すぎる!って。しかし、当時はまだまだ同性愛に寛容ではない時代、しかも親もカトリック。二人の恋の行く手には、暗雲が立ち込めます…(まるで『ロミオとジュリエット』のように)
男子高校生の密やかな恋と書くと、ちょっと『モーリス』とか『アナザー・カントリー』みたいな耽美的な寄宿舎モノっぽいイメージかもしれませんが、二人ともそれほど美形というわけでもありません。どちらかというと前半はコメディタッチです。
ティムとジョンは苦難を乗り越え、大学に入ってからもずーっとつきあっていて、もう幸せを絵に描いたようなカップルになっています。特筆すべきは、ジョンのキャラクター。ラグビーの最優秀選手に選ばれるくらいのスポーツマンで、真面目で、いつもニコニコしていて…まるで天使のような人です。ティムが大学のゲイサークルのカワイイ子とイチャコラしてたら、猛然とジョンが走ってきてパンチするとか、もう、かわいすぎて、萌え死にしそう(でもなぜか泣けたりして。今までさんざん浮気してきてゴメンなさい!って、懺悔したい気持ちになりました)。まるで子犬を思わせるような純真さ、誠実さ、善良さに、どんどん魅了されていくことと思います。
どこまでも純粋なジョンに比べ、ティムは自己中で、自分大好きで、謙虚さや慎ましさは持ち合わせていないタイプです。だからこそ、最愛のジョンと離れ離れになるのを承知の上で、自分の可能性に賭けるため、シドニーの演劇学校に行くのです。微笑ましくて幸せそうでラブリーな二人の関係も、そこから少しずつ変わり始めます…。後半はもう、涙の嵐です。
こちらが本物のティムとジョン。
役者さん、結構似てますよね。
ティム役を演じたライアン・コアーの演技もさることながら、ジョンを演じたクレイグ・ストット(ゲイの役者さんだそうです)の迫真の演技もスゴいです。『ダラス・バイヤーズクラブ』のマシュー・マコノヒーがアカデミー主演男優賞を獲れるなら、クレイグ・ストットだってオスカーをもらうべきだと思います。俳優でいうと、あの『プリシラ』にも出演していたイケメン俳優、ガイ・ピアースがティムのお父さん役を演じているのも見どころです。
ちなみに監督のニール・アームフィールドもゲイの方だそうです。
それから、サウンドトラックが素晴らしいです。ブロンスキ・ビートの「I feel love」(元曲はドナ・サマーですね)をはじめ、ピート・シェリーの「Homosapien」、ルーファス・ウェインライトの「Forever and a Year」など、時代的にもゲイテイスト的にも、使われ方的にも絶妙です。
Netflix、いい仕事してますね〜。大満足です。1ヶ月間は無料で観れますので、まだ加入してない皆さんもこの機会にぜひ、どうぞ。
『ホールディング・ザ・マン 君を胸に抱いて』Holding the Man
2015年/オーストラリア/監督:ニール・アームフィールド/出演:ライアン・コアー、クレイグ・ストット、サラ・スヌーク、ガイ・ピアース、ケリー・フォックス、アンソニー・ラパリアほか
INDEX
- 女性と同性愛者を抑圧し、ペストで死ぬ人々を見殺しにする腐敗した権力者への叛逆を描いた映画『ベネデッタ』
- トランスジェンダーへの偏見や差別に立ち向かうために読んでおきたい本:『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』
- 『痛快!明石家電視台』ドラァグクイーン大集合SP
- 殺伐とした世界に心を痛めるすべての人に観てほしいドラマ『THE LAST OF US』第3話
- 3人のドラァグクイーンのひと夏の旅を描いたハートフル・コメディ映画『ひみつのなっちゃん。』
- 40歳のゲイの方が養護施設で育った複雑な生い立ちの20歳の男の子を養子に迎え入れ、新しい家族としての生活を始める姿をとらえたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』
- 貧しい家庭で妹の面倒を見る10歳のゲイの男の子が新しい世界を切り開こうともがき、成長していく様を描いた映画『揺れるとき』
- ゲイコミュニティへのリスペクトにあふれ、あらゆる意味で素晴らしい、驚異的な名作『エゴイスト』
- ドラァグクイーンの夢のようなロマンスを描いたフランス発の短編映画『パロマ』
- 文藝賞受賞、芥川賞候補の注目作――ブラックミックスのゲイたちによる復讐を描いた小説『ジャクソンひとり』
- ドラァグクイーンによる朗読劇『QUEEN's HOUSE〜あなたの知らないもうひとつの話〜TOKYO』
- 伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』
- 謎めいたゲイ・アーティストの素顔に迫るドキュメンタリー映画『アンディ・ウォーホル:アートのある生活』
- 『ボヘミアン・ラプソディ』の感動再び… 映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
- 近年稀に見る号泣必至の名作ゲイ映画『世界は僕らに気づかない』
- ぼくらはシンコイに恋をする――『シンバシコイ物語』
- ゲイカップルやたくさんのセクシャルマイノリティの姿をリアルに描いた優しさあふれる群像劇『portrait(s)』ほか
- TheStagPartyShow movies『美しい人』『キミノコエ』
- Visual AIDS短編集『Being & Belonging』
- これ以上ないくらいヘビーな経験をしてきたゲイの方が身近な人たちにカミングアウトする姿を追ったドキュメンタリー映画『カミングアウト・ジャーニー』