REVIEW
映画『迷い子たちの物語』(レインボー・リール東京2017)
第26回レインボー・リール東京(新宿)で上映された台湾=フィリピン合作映画『迷い子たちの物語』のレビューをお届けします。
現在、シネマート新宿にて第26回レインボー・リール東京(新宿)が開催中です。『迷い子たちの物語』は、家族との関係性に悩むゲイとストレートの男の子、国籍の違う二人の間に生まれた友情を描いた青春映画です。レビューをお届けします。(後藤純一)
アレックスは、いとこがゲイだということを知ってるし、別に気にも留めていません。いとこは仕事で香港に行かなければならず、誰も知り合いがいない台北の街を、ブラブラします(西門の繁華街とか)。そこで偶然、外でタバコを吸っているジェリーと出くわし、「ここでタバコを吸っても大丈夫?」と聞いて、そこから会話がはずみ、一杯おごるからと誘われて、ジェリーがミセコをしているお店(レズビアンやゲイの若い方が集まるお店でした)に入り、なんとなく友達になったのでした。
アレックスは車の修理で生計を立てていますが、ジェリーの車をタダで直してくれて、ジェリーはとても喜びます。その晩、ジェリーの大学の女の子の友達や、ジェリーの彼氏も家に来て、パーティになるのですが、なんだかとてもエロティックな展開に…(何でしょう…サービスショット?)
翌朝、ジェリーは、車の修理のお礼にと、アレックスをドライブに連れて行きます。そこで、ジェリーが宜蘭に住むタイヤル族という少数民族で、いずれは村に戻り、村の長老的な存在である父親の跡を継がなくてはいけない、とてもじゃないけど家族はゲイのことなんて理解してくれないだろうし…と語ります。一方、アレックスも、家族に関する悩みを打ち明けます(そもそもアレックスが台北に来たのは、そういう理由でした)。そしてアレックスは、今から実家に行くべきだ!と言い、迷った末に、ジェリーは車を宜蘭へと向けるのです…。
セクシュアリティ自体というよりも、家族との関係性という共通の悩みを抱えたゲイとストレートの男の子が、偶然生まれた友情によってお互いに一歩を踏み出すことができた、という物語でした。
ジェリーもアレックスも、本当にいいやつです。いいやつどうしで、美しい友情を紡ぎます。そこがこの映画のいちばんの魅力かもしれません。
ジェリーもいとこも、ゲイだけど、決してオネエでもイケメンでもおしゃれでもないところがリアルだなぁと思いました。たぶんですが、世間の人は、パッと見、どっちがゲイだと思う?と聞かれたら、ジェリーじゃなくてアレックスって言うと思います。アレックスの方がイケメンで、センスがよくて、セクシーな雰囲気を醸し出しているのです。(もしかしたら、ジェリーもそこに魅かれて、誘ったのかもしれません)
桃園空港に降り立ち、中正紀念堂や台北101が映り、西門の繁華街、士林の夜市なども出てきて、台北に行ったことがある方なら、あーここ知ってる!みたいな感じで楽しく観れると思います。フィリピン人街があるのは初めて知りました(中山にあるそうです)
『ファーザーズ』もそうでしたが、今や、アジア映画といえども、アジアンクィア映画祭で上映されていたような、アツくてエモーショナルでウェットなテイストではなく、現代風に洗練されているんだなぁと感じました。
映画『迷い子たちの物語』は、7/15(土)13:45〜@スパイラルホールでも上映されます。
『迷い子たちの物語』
英題:Tale of the Lost Boys
監督:ホセリト・アルタレホス
2017|台湾、フィリピン|90分|英語、タガログ語、中国語、アタヤル語
★日本初上映
※台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター、フィリピン共和国大使館後援作品
INDEX
- 僕らは詩人に恋をする−−繊細で不器用なおっさんが男の子に恋してしまう、切ない純愛映画『詩人の恋』
- 台湾で婚姻平権を求めた3組の同性カップルの姿を映し出した感動のドキュメンタリー『愛で家族に〜同性婚への道のり』
- HIV内定取消訴訟の原告の方をフィーチャーしたフライングステージの新作『Rights, Light ライツ ライト』
- 『ルポールのドラァグ・レース』と『クィア・アイ』のいいとこどりをした感動のドラァグ・リアリティ・ショー『WE'RE HERE~クイーンが街にやって来る!~』
- 「僕たちの社会的DNAに刻まれた歴史を知ることで、よりよい自分になれる」−−世界初のゲイの舞台/映画をゲイの俳優だけでリバイバルした『ボーイズ・イン・ザ・バンド』
- 同性の親友に芽生えた恋心と葛藤を描いた傑作純愛映画『マティアス&マキシム』
- 田亀源五郎さんの『僕らの色彩』第3巻(完結巻)が本当に素晴らしいので、ぜひ読んでください
- 『人生は小説よりも奇なり』の監督による、世界遺産の街で繰り広げられる世にも美しい1日…『ポルトガル、夏の終わり』
- 職場のLGBT差別で泣き寝入りしないために…わかりやすすぎるSOGIハラ解説新書『LGBTとハラスメント』
- GLAADメディア賞に輝いたコメディドラマ『シッツ・クリーク』の楽しみ方を解説します
- カトリックの神父による児童性的虐待を勇気をもって告発する男たちの連帯を描いた映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』
- 秀才な女子がクラスの男子にラブレターの代筆を頼まれるも、その相手は実は自分が密かに想いを寄せていた女子だった…Netflix映画『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』
- 映画やドラマでトランスジェンダーがどのように描かれてきたかが本当によくわかるドキュメンタリー『Disclosure トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』
- 人生のどん底から抜け出す再起の物語−-映画『ペイン・アンド・グローリー』
- マドンナ「ヴォーグ」の時代のボールルームの人々をシビアにあたたかく描く感動のドラマ、『POSE』シーズン2
- 「夢の国」の黄金時代をゲイや女性や有色人種の視点から暴いた傑作ドラマ『ハリウッド』
- ゲイタウンでポルノショップを40年近く経営していたノンケ夫婦の真実の物語『サーカス・オブ・ブックス』
- ルポールとSATCの監督が贈るヒューマンドラマ『AJ&クイーン』
- Netflix視聴者数1位を記録中の衝撃実話『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者!?』
- ゲイのために「いい子ちゃん」から脱却したテイラー・スウィフトの真実を描いた『ミス・アメリカーナ』