REVIEW
映画『僕の世界の中心は』(レインボー・リール東京2017)
7月14日(金)、スパイラルホールで第26回レインボー・リール東京が開幕し、『僕の世界の中心は』が上映されました。フィルというゲイの男の子が主人公で、彼を取り巻く世界のいろいろが鮮やかに描き出されたイマドキのエンタメ作品でした。
2017年7月14日(金)、表参道のスパイラルホールで第26回レインボー・リール東京が開幕しました。『僕の世界の中心は』の上映前に、エスムラルダさん、田亀源五郎さん、映画祭代表の宮沢さんによるトークショーが繰り広げられ、あたたかな拍手が贈られました(オープニングイベントの模様は近日中に公開いたします)。『僕の世界の中心は』は、ゲイの主人公・フィルを取り巻く様々な人間関係(世界)を時にポップに、時にシリアスに描いたエンタメ作品。ドイツって本当にいい国だなぁと思わせられます。レビューをお届けします。(後藤純一)
<あらすじ>
サマーキャンプから帰ってきたゲイの高校生・フィルは、双子の姉(妹?)ダイアンと母・グラスとの間にただならぬ険悪な空気が流れているのを感じ取る。家での居心地が悪くなり、残りの夏休みを女友達のカットと遊び歩くフィル。新学期が始まると、彼らのクラスにイケメンすぎる転入生・ニコラスが入ってきて、フィルは(漫画のように)一目惚れしてしまう。カットの「彼はやめたほうがいい。何かを隠してる」「きっとセックス中毒よ」などという忠告もフィルの耳には入らず、(まさかの)ニコラスのほうからの誘いもあって、恋に落ちていくが…。
途中まで、ゲイの男の子の恋愛を描いた青春モノなのかな、と思いながら観ていたのですが、途中から違う要素もどんどん入ってきて(田亀さんがトークショーで語っていた通り、「え、そっちなの?」とビックリさせられます)ジェットコースター的展開に…。しかし、それらが複雑な家庭環境(ダイアンとグラスの確執)にまつわる秘密でもあったりもするので、ちょっと頭がついていかないかも…と思いながらも、観終わった時には、さわやかだったりほろ苦かったりもするイマドキの青春エンターテイメント作品だなぁと納得、みたいな。ポップな演出(編集の仕方)も含めて、とても面白かったです。
田亀さんによると、原作はヤングアダルト小説(ライトノベルみたいな)だそうですが、それを聞いて、ああ、なるほどなぁと思いました。
フィルは(自分でも言ってますが)典型的なゲイの男の子で、自身がゲイであることに関しては全く後ろめたさを感じておらず、周囲の人たちも全く嫌悪感を示さずに受け容れていて、イマドキだなぁと感じました。初めての恋愛が一目惚れしたイケメンっていう夢のような展開も、もし自分が高校生の時にそんなことになってたら…と想像すると、本当にうらやましいと歯ぎしりしつつ(笑)、もっとうらやましいというか素晴らしいと感じたのは、恋愛に関してもそれ以外の悩みに関しても、フィルには「相談できる大人」がいる、というところなのでした。母親のグラスはちょっと情緒不安定なのであまり頼りにはならないのですが(それでも、初めてのデートに際して、「最初から全部やりなさい」「愛してると言ってはダメ」という素敵なアドバイスをくれます)、グラスとおつきあいするようになる大工のマイケルはとても頼りになる大人ですし、何よりも、テレザとパスカルというレズビアンカップルが身近にいて、同性愛者の先輩としてフィルを全面的に支援してくれているところに感銘を受けました。この映画のいちばんの感動ポイントかもしれません。
ドイツでは最近同性婚が認められたわけですが、もしこの映画で描かれたゲイやレズビアンを取り巻く状況が夢物語じゃなくてリアルなのだとしたら、こんな田舎の小さな町でもゲイやレズビアンが幸せに暮らしていけるのはスゴいこと、なんていい国なんだ…と思わせられました。
個人的には、ドイツのゲイ映画といえば、3年前に映画祭で上映された『フリー・フォール』という、妻が出産間近な警官が同性愛に目覚めてしまい…という「ドイツの『ブロークバック・マウンテン』」的な作品の印象がとても強かったのですが、ガラリと印象が変わりました(ちなみに『フリー・フォール』に出演していたマックス・リーメルトが『センス8』のウォルフガングを演じています)
イケメン系がお好きな方は、フィルとニコラスのベッドシーンにきっと目がハートになることでしょう。フィル役は2015年東京国際映画祭で最優秀男優賞(『ヒトラーの忘れもの』)を受賞したルイス・ホフマン、ニコラス役はドイツの映画界で活躍しているヤニク・シューマンという役者さんです。
監督はオーストリア出身のヤーコプ・M・エルヴァという若手で、ティーン向けの作品を何本か手がけている方です。
決して観てソンはないエンタメ作品です。『僕の世界の中心は』は、7月16日(日)13:40〜@スパイラルホールでも上映されます。
『僕の世界の中心は』
英題:Center of My World
原題:Die Mitte der Welt
監督:ヤーコプ・M・エルヴァ
2016|ドイツ、オーストリア|115分|ドイツ語、英語
★日本初上映
※ゲーテ・インスティトゥート/東京ドイツ文化センター後援作品
INDEX
- 僕らは詩人に恋をする−−繊細で不器用なおっさんが男の子に恋してしまう、切ない純愛映画『詩人の恋』
- 台湾で婚姻平権を求めた3組の同性カップルの姿を映し出した感動のドキュメンタリー『愛で家族に〜同性婚への道のり』
- HIV内定取消訴訟の原告の方をフィーチャーしたフライングステージの新作『Rights, Light ライツ ライト』
- 『ルポールのドラァグ・レース』と『クィア・アイ』のいいとこどりをした感動のドラァグ・リアリティ・ショー『WE'RE HERE~クイーンが街にやって来る!~』
- 「僕たちの社会的DNAに刻まれた歴史を知ることで、よりよい自分になれる」−−世界初のゲイの舞台/映画をゲイの俳優だけでリバイバルした『ボーイズ・イン・ザ・バンド』
- 同性の親友に芽生えた恋心と葛藤を描いた傑作純愛映画『マティアス&マキシム』
- 田亀源五郎さんの『僕らの色彩』第3巻(完結巻)が本当に素晴らしいので、ぜひ読んでください
- 『人生は小説よりも奇なり』の監督による、世界遺産の街で繰り広げられる世にも美しい1日…『ポルトガル、夏の終わり』
- 職場のLGBT差別で泣き寝入りしないために…わかりやすすぎるSOGIハラ解説新書『LGBTとハラスメント』
- GLAADメディア賞に輝いたコメディドラマ『シッツ・クリーク』の楽しみ方を解説します
- カトリックの神父による児童性的虐待を勇気をもって告発する男たちの連帯を描いた映画『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』
- 秀才な女子がクラスの男子にラブレターの代筆を頼まれるも、その相手は実は自分が密かに想いを寄せていた女子だった…Netflix映画『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』
- 映画やドラマでトランスジェンダーがどのように描かれてきたかが本当によくわかるドキュメンタリー『Disclosure トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』
- 人生のどん底から抜け出す再起の物語−-映画『ペイン・アンド・グローリー』
- マドンナ「ヴォーグ」の時代のボールルームの人々をシビアにあたたかく描く感動のドラマ、『POSE』シーズン2
- 「夢の国」の黄金時代をゲイや女性や有色人種の視点から暴いた傑作ドラマ『ハリウッド』
- ゲイタウンでポルノショップを40年近く経営していたノンケ夫婦の真実の物語『サーカス・オブ・ブックス』
- ルポールとSATCの監督が贈るヒューマンドラマ『AJ&クイーン』
- Netflix視聴者数1位を記録中の衝撃実話『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者!?』
- ゲイのために「いい子ちゃん」から脱却したテイラー・スウィフトの真実を描いた『ミス・アメリカーナ』