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REVIEW

映画『Of Love and Law』(TIFF2017)

大阪の弁護士“夫夫”として知られる南和行さんと吉田昌史さんを中心に、彼らのもとを訪れるさまざまな生きづらさを抱えた方たちの姿を捉え、日本という国のある一面を鋭く映し出しながら、愛の素晴らしさ、そして「希望」を感じさせるようなドキュメンタリー映画です。

映画『Of Love and Law』(TIFF2017)

今年も東京国際映画祭(TIFF)では、『アリフ、ザ・プリン(セ)ス』『ジョージ・マイケル:フリーダム』など、何本かのクィアムービーが上映されました。台湾プライドの時期と重なっていたこともあり、個人的には今年観ることができたのは『Of Love and Law』だけだったのが残念でしたが、しかし、この『Of Love and Law』を観ることができただけでも幸せでした。この映画は、大阪の弁護士“夫夫”として知られる南和行さんと吉田昌史さんを中心に、彼らのもとを訪れるさまざまな生きづらさを抱えた方たちの姿を捉え、日本という国のある一面を鋭く映し出しながら、愛の素晴らしさ、そして「希望」を感じさせるようなドキュメンタリー作品です。来年一般公開された暁には、ぜひご覧いただきたく存じます。レビューをお届けします。(後藤純一)
 




『Of Love and Law』は、大阪の弁護士“夫夫”として知られる南和行さんと吉田昌史さんに3年間密着したドキュメンタリー映画で、2017年10月28日と11月1日に東京国際映画祭でワールドプレミア上映されました。
   
 この映画で描かれているのは、ともすると「はみだし者」とか「社会の秩序を乱すような存在」というレッテルを貼られたり、差別やバッシングにさらされたり、社会システムから排除されたり、生きづらさを抱えているような方たちでした。
 例えば、母親が父親のDVに堪えきれず、離婚の手続きもできないまま東京から大阪に逃げてきて、そこで新しい方と出会い、子どもが生まれたものの、出生届を出すことができず、無戸籍のまま成人し、結婚もできなければ、パスポートを取ることもできない、日常のさまざまな場面で苦労を強いられる、という方(日本にはそういう無戸籍の方が1万人以上いらっしゃるそうです。同性愛者以外にも結婚ができない人たちがいたなんて…とショックを受けました)。母親は「離婚してへんのに子どもを作るなんておかしい」「不倫」と言われることもあったそうです。
 例えば、デコマンというアート作品を発表して注目を集め、作品用に自身のヴァギナの型取りをした3Dデータをファンの方にあげたりしていたろくでなし子さんが公然わいせつ罪の疑いで逮捕された事件。
 例えば、生きる希望を見失い、自死を選んだ同性愛者の子ども。
 いろんなことが一本の線でつながっています。それは、愛とか性は本来、多様で自由でどれも素晴らしく、貴賎などないはずなのに、法律というモノサシによって認められたり認められなかったりすることで、世の中に、不道徳だと見なされたり、結婚できなかったり、生きていくことも困難になってしまう人たちを構造的に生み出している、排除が正当化されているということです。
 
 そんな無慈悲で不条理な現実のなかで、自身もゲイというマイノリティ性を抱えているのに、そうした人たちのために(あるいは社会正義のために)弁護士として奔走・奮闘してきた南さんと吉田さんの姿には、胸を打たれます。
 仕事だけでも大変なのに、お二人は、小さい頃から児童養護施設で過ごし、諸事情により行き場を失ってしまった高校生のカズマくんを、自宅で預かることにして、家族同然に暮らしはじめます。カズマくんは、見た目こそちょっとイカツイ感じですが、ゲイカップルと一緒に住むということに対して1ミリも嫌悪感を示さず、(この映画の号泣ポイントだと思うので伏せますが)とても泣かせることを言ってくれます。天使のような子です。このカズマくんのエピソードだけでも、この映画を観る価値があると思います。
 カズマくんだけでなく、南さんのお母さんも本当にいい。ろくでなし子さんのお父さんもいい。井戸まさえさんもいい。南さん&吉田さんの周りには、本当にいい人たちがたくさんいます。みんな笑顔が優しいです。
 
 そして、お二人が、ある面では弁護士というエリート(社会的強者)でありながら、ゲイであり、生身の人間であり、カップルとして、仕事のことでもなんでも自然体で自分が思うことを言い合ったり、時には言い争いもしたり、でもお互いのいいところも「心の穴」みたいなところもよく理解して、支えたり、寄り添ったりというありようが、心底「いいなあ」と思えます。特に、吉田さんが、大学4回生の時にご両親を亡くし、とてもしんどい思いをしたということを泣きながら語る場面などは身につまされました。弱さを正直に映し出しているところが本当に素晴らしく、この作品をかけがえのないものにしていると思いました。
 
 映画を観終わって浮かんだ言葉は、「希望」でした。
 誰も助けてくれない、もうダメだ…と絶望の淵に落ち込んでいる人に対して、手を差し伸べ、救い出そうとしてくれる人、「排除」に抗っていけるような愛とか正義心を持った人が、この国にもいるんだと信じられること。人生をあきらめなくていいと思えること。この映画には本当の意味での希望が描かれていると思いました。 
 
 来年には一般公開も予定されているそうです(後日、公式Facebookに詳細が掲載されると思います)。ぜひ映画館でご覧ください。
 

Of Love and Law
2017年/日本/監督:戸田ひかる/出演:南和行、吉田昌史、南ヤヱほか





 おまけとして、ここからは、上映後に行われたトークセッションを抜粋してご紹介します。
 10月28日の上映の際は南さんとお母様もいらしたのですが、私が観た11月1日の上映の際はお二人は不在で、吉田さんがいらっしゃいました。
 
司会(作品選定に携わった矢田部吉彦さん):監督がこのような魅了的な被写体に出会えたのはすごい。「持ってる」という感じ。どう出会ったのかを教えてください。
監督(戸田ひかるさん):ひょんなことから。前作で知り合いました。カップルとしてのオープンなところ、弱点を受け止めていることの魅力。同調圧力が強い社会で、ゲイの弁護士を捉えることで、日本のある側面が見えると思いました。それで、お声かけをしたのですが、「はいどうぞ」とあっさり(笑)
吉田さん:率直に物事を言う人だなあと思いました。遠慮がない。僕らも、表面的に描くようなものは意味がないと思っていたので。クライアントの諸事情でカメラに写せない部分もあったりするけど、守るべきところは守るということがわかったので、安心もしました。

会場からの質問:日本はまだ人権後進国だと思いますが、これからもそういう面を作品として取り上げる予定ですか?
監督:たぶんこれからも、外から見ておかしいところ、人と人とのつながりを描くと思います。国に限らず。

司会:これは愛の映画であり、家族の話でもあると思いました。
監督:プライベートにも社会がつながっていると思います。日本に来て、特に。カテゴリーのオーバーラップしてる部分に関心があります。

司会:この映画は、吉田さんにとって、どんな意味がありましたか?
吉田さん:自分を客観的に見れたと同時に、忘れていた感情を思い出させてくれた。戸田さんに聞かれて、あふれてきたところもある。反応を聞いていると、いろんな人に共通の気持ちがあるようなので、この映画が、何かを感じるきっかけになってくれたら、と思います。

司会:最後に監督、シメの言葉を。
監督:いろんな人が、いろんな思いを持っている。観終わって、そういう思いを話し合える機会になったらうれしいです。



【追記】11月3日に行われた東京国際映画祭クロージングセレモニーで各賞の発表が行われ、『Of Love and Law』が日本映画スプラッシュ部門作品賞を受賞しました。おめでとうございます!

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