REVIEW
映画『売買ボーイズ』(TOKYO AIDS WEEKS 2017)
ウリ専ボーイやウリ専バーの経営者のリアルな声を伝える映画です。ドキュメンタリー作品ながら、とてもスタイリッシュでエキサイティング、そして、決してウリ専というお仕事をジャッジせず、ニュートラルに描いているところがイイです。
海外で先行上映されて評判を呼び、Web上で知っていた方も多かったと思われる映画『売買ボーイズ』が、TOKYO AIDS WEEKS 2017でジャパンプレミア上映され、驚くほど大勢の方が駆けつけ、熱気あふれる上映会となりました。レビューをお届けします。(後藤純一)
映画を観るために並ぶ人たちの列が建物の外まで続いている…そんな場面に遭遇することは滅多にないことでしょう。11月26日(日)、TOKYO AIDS WEEKS 2017のプラグラムの一環として中野区産業振興センター多目的ホールで映画『売買ボーイズ』が上映されたのですが、おそらく200名以上もの方々が集まって行列をなし、代表の山縣さん自ら人員整理にあたり、順番に会場に入って行き、数十名が立ち見での鑑賞となり(僕も立ち見でした)、それでも中に入りきれず、お帰りいただいた方も50名ほどいらしたようです。
そんな熱気に包まれながらのエキサイティングな鑑賞となりましたが、おそらくWeb上でその内容や評判をご存じだったであろう方たちは、固唾を呑んで、二丁目のウリ専バー(ホストクラブ)で働く方たちの語りを目撃していました。
まず思ったのは、この映画は、海外(主にアメリカ)の方を意識して作られたんだな、ということでした。三味線の音がアレンジされたJAPANイメージな音楽、実写とアニメーションが巧みに融合された、日本ではあまり見ないタイプの独特のテイストが印象的でした。そして、アメリカでは男女問わず売春は違法なので(ネバダ州の一部を除く。2015年、同性婚が実現した2ヵ月後にゲイのオンラインエスコートサービスが摘発されています)、日本で男性どうしの売春が堂々と行われていることに関心を持つ方は多いだろうな、と感じました。
オープニングは、日本の性風俗(江戸時代は蔭間茶屋というのがあって、とか)、二丁目という街(軒数は世界最多で、とか、江戸時代は遊郭で、戦後、赤線地帯になり、とか)の紹介。それから、ウリ専バーで働くボーイさんや経営者の方たちが登場し、語ります。ほとんどがノンケさんで、大人気だろうなと思われる体育会系マッチョな方から、イモ系、普通系、ジャニ系など、いろんな方たちがいました。なぜウリをやるようになったのか、とか、稼ぎはどれくらいなのか、とか、いろんな質問に答えていくのですが、ノンケっぽいというか、あっけらかんと、ちょっとうれしそうにすら見える方が多く、実際にSEXに使われているお部屋(結構狭いです)で撮影されていたことも印象的でした。
正直、昔『バディ』の編集をやっていた関係で、ウリ専のことはよく知っていましたし(ボーイさんをモデルに起用して撮影することも度々ありました)、新鮮さを感じる話はそれほど多くなかったのですが、一点、大きなショックを受けたことがありました。それは、東日本大震災で被災し(津波ですべてを失ったり、放射能の影響を受けたり)、地元に仕事もなく、東京に出てきて、生活のためにウリ専を始めたという東北の方が(10名のうち)2名もいたことでした…せつない気持ちにさせられました(僕も東北出身です)
それから終盤、ノンケの経営者の方の中には、あまり予防の知識がなく、働く人にきちんとセーファーセックスの教育をしていない方もいることがわかりました。セックスワーカーにとって本当に大事なことなのに…と思った方は多いはずです。
ウリ専をよく知らない、知るのが初めてという方にとっては、本当に目が離せない、刺激的な作品だったと思います。それでいてスタイリッシュで、ウリ専というお仕事や、そこで働いている方を決してジャッジしない(発せられる言葉を淡々とニュートラルに受け止めています)、そのおかげで、観る方がいろんなことを感じたり、考えたりできるようになっていて、良い作品だったと思います。
『売買ボーイズ』は2017年5月にドイツで行われたニッポン・コネクションで世界初上映され、7月にはロサンゼルスの「Outfest(Los Angeles LGBT Film Festival)」で北米プレミア上映されました(「Fox Inclusion Outfest Feature」賞を受賞)
製作総指揮を手がけたドキュメンタリー作家のイアン・トーマス・アッシュさんは、日本を拠点にしながら、原発事故直後の福島を取材したドキュメンタリー『A2-B-C』や、乳がんの友人の闘病を追った『-1287』(マイナス1287)など、独自の視点で現代を切り取った作品を製作し、海外の映画祭でも高い評価を得ている方です。
今後、日本で一般公開されるかどうかはまだ決まっていないようですが、またどこかで上映されることと思います。その際はぜひ、ご覧ください。
『売買ボーイズ』Boys for Sale
2017年/日本/監督:板子/出演:コウほか
<上映後のトークセッション>
イアンさん:ここで上映できてうれしく思います。勉強になればいいなという気持ちです。二丁目を撮りたかったんだけど、二丁目ってあまりにも大きくて全体を捉えることができないので、ウリ専というテーマに絞ることにしました。いろんなお店を訪ねました。撮影の許可をもらえるお店を探すのが大変でした。最初は、震災で被災してウリ専をやるようになった人もいるということをいちばん伝えたいと思っていましたが、撮りすすめているうちに、セーファーセックスがちゃんと教育されてないことがわかり、そのことを最後に持って来ようと思いました。
コウさん:僕はゲイで、この映画に登場したノンケさんたちとは違って、ぶっちゃけたくさんの人とセックスできたらいいかなという気軽な気持ちで、ウリを始めました。3年間ウリ専やってましたが、楽しかったです。大変ではなかったですね。この映画では、脚色は一切なかったです。映画の中で、コンドームなしでヤラセてくれたらいくら上乗せするよと持ちかける客がいるという話がありましたが、僕の場合は、そういうことに応じると、噂が広まるし、一度やるとリスキーだし、指名も減るんじゃないかと思って、応じませんでしたね。
岩橋さん:海外での反応はいかがでしたか?
イアンさん:クィア映画祭などで上映され、もっとセックスワーカーのことを知りたいという反応が多かったです。ただ、アメリカでは好意的じゃなかった。というのは、ボーイさんの発言で「男を買う」という箇所があって、そのまま訳したのですが、「人を買うのではなく、サービスを買うんだろ」という言葉遣いへの批判があった。ボーイさんから「商品だ」という発言もあったので、尊重した形なんですけどね。
会場からの質問:いろんな人の中から、特に深刻な人を選んだのですか?
イアンさん:これが撮影した全員です。撮影OKな方と撮影する場所があるお店を探し、実際に買うのと同じ値段を払い、10人の方にお話を聞きました。
会場からの質問:今後もこういう作品を撮っていく予定ですか?
イアンさん:そうですね。たくさん知った方がいいことがあると思います。
INDEX
- 同性と結婚するパパが許せない娘や息子の葛藤を描いた傑作ラブコメ映画『泣いたり笑ったり』
- 家族的な愛がホモフォビアの呪縛を解き放っていく様を描いたヒューマンドラマ: 映画『フランクおじさん』
- 古橋悌二さんがゲイであること、HIV+であることをOUTしながら全世界に届けた壮大な「LOVE SONG」のような作品:ダムタイプ『S/N』
- 恋愛・セックス・結婚についての先入観を取り払い、同性どうしの結婚を祝福するオンライン演劇「スーパーフラットライフ」
- 『ゴッズ・オウン・カントリー』の監督が手がけた女性どうしの愛の物語:映画『アンモナイトの目覚め』
- 笑いと感動と夢と魔法が詰まった奇跡のような本当の話『ホモ漫画家、ストリッパーになる』
- ラグビーの名門校でホモフォビアに立ち向かうゲイの姿を描いた感動作:映画『ぼくたちのチーム』
- 笑いあり涙ありのドラァグクイーン映画の名作が誕生! その名は『ステージ・マザー』
- 好きな人に好きって伝えてもいいんだ、この街で生きていってもいいんだ、と思える勇気をくれる珠玉の名作:野原くろ『キミのセナカ』
- 同性婚実現への思いをイタリアらしいラブコメにした映画『天空の結婚式』
- 女性にトランスした父親と息子の涙と歌:映画『ソレ・ミオ ~ 私の太陽』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 女性差別と果敢に闘ったおばあちゃんと、ホモフォビアと闘ったゲイの僕との交流の記録:映画『マダム』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 小さな村のドラァグクイーンvsノンケのラッパー:映画『ビューティー・ボーイズ』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 世界エイズデーシアター『Rights,Light ライツライト』
- 『逃げ恥』新春SPが素晴らしかった!
- 決して同性愛が許されなかった時代に、激しくひたむきに愛し合った高校生たちの愛しくも切ない恋−−台湾が世界に放つゲイ映画『君の心に刻んだ名前』
- 束の間結ばれ、燃え上がる女性たちの真実の恋を描ききった、美しくも切ないレズビアン映画の傑作『燃ゆる女の肖像』
- 東京レインボープライドの杉山文野さんが苦労だらけの半生を語りつくした本『元女子高生、パパになる』
- ハリウッド・セレブたちがすべてのLGBTQに贈るラブレター 映画『ザ・プロム』
- ゲイが堂々と生きていくことが困難だった時代に天才作家として社交界を席巻した「恐るべき子ども」の素顔…映画『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』
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