REVIEW
優しくて愛おしい胸キュン青春映画『彼の見つめる先に』
目が見えない男の子と、ずっとそばで支えてきた女の子、そして転校生の男の子の3人が織りなす胸キュンな青春映画『彼の見つめる先に』。ベルリン国際映画祭でテディ賞に輝いたほか、世界中で高く評価されました。新たな名作ゲイ映画の誕生です。
<あらすじ>
サンパウロの高校に通うレオ。全盲の視覚障害者であるがゆえに両親もたいそう心配し、学校では(時にいじめっ子にからかわれたりしながらも)先生に守られ、友達のジョヴァンナもケアしてくれて(帰り道も彼女が付き添っています)、ことなきを得ています。でも、どこにでもいる男の子であるレオは、みんなと同じように自由に外を歩いてみたいという思いをつのらせ、親には内緒で海外留学の相談をしてみたり、つい親に反抗したり。そんなとき、ガブリエルという転校生がやってきて、友達がいないガブリエルはレオに急接近、仲を深めていきます。レオはガブリエルのおかげで、今までできなかったこと(映画館に入ったり、自転車に乗ったり)を体験し、自由と楽しさを味わいます。ところが、2人で映画館に行ったことを知ったジョヴァンナは「なんで私を誘わないの」と嫉妬をあらわにし、レオと口をきかなくなってしまいます。一方、カリーナという軽い感じの女子が、ガブリエルを気に入り、アタックをはじめます。果たして、彼らの恋と友情の行方は…。
映画を観た感想は「なんて優しい世界なんだろう…」でした。
定番のいじめっ子も登場したりはするのですが、『ムーンライト』ほどえげつない感じではなく。スパイス的な感じです。
レオも、ジョヴァンナも、ガブリエルも、なんだか高校生というより中学生に見えるような、幼くてピュアな感じです。ジョヴァンナもガブリエルも、レオのことが大好きで(特に、ジョヴァンナの友情は本物です。彼女が最後にとった行動には、シビれました)、それは、レオが「目が見えなくてかわいそうだから」ではなく、一緒にいる時間を心から楽しんでるし、時には秘密も打ち明けたりもします。本当に好きなのです。
前半は、盲目のレオがなんとか自立したい、自由に生きたいともがく姿がメインなのですが、ガブリエルが入ってきてから、盤石だったジョヴァンナとレオの友情関係が少しずつ変わっていき、危機を迎え、恋と友情が前景化してきます。レオが主人公だからということもあるでしょうが、この作品では、恋と友情が等価に描かれていると感じました。どちらも本当に大切で、どちらも愛なのです。
PG12指定ですので、それなりにセクシーなシーンもあるのですが、まるで中学生みたいな「一生に一度でいいからキスしてみたい」というかわいい願いを抱くレオの、もじもじしながら、おずおずと歩み寄って行く感じは、胸キュンものです。全くタイプじゃないのですが、愛しくなりました。
そして、ラストシーン。「プライド」という言葉の意味を、体現していました(拍手!)
恋ってこんなにもピュアなものだったのか!と、すっかり汚れきった心が洗われる思いがしました。
これまで、ろう者のゲイの方にはたくさんお会いしたことがありますが、全盲のゲイの方にはお会いしたことがなく、どんなふうに性的欲求を抱くのか(視覚情報がないぶん、声や嗅覚、触覚が敏感に?)、どんなゲイライフを送っているのか(出会ったりおつきあいしたりできるのか、バーやイベントに出かけたりできるのか)、よくわからず、ともすると(知的障害者がそうであるように)性的なことから切り離されたり、自由を奪われたりということになりがちなのでは…と想像していたのですが、この映画は、そんな心配を吹き飛ばしてくれるような、さわやかさな感動がありました(そこが、世界中で共感を呼んだところなのではないでしょうか)
3人の演技、とてもよかったです。特にレオ役の子は、本当に目が見えない人なのかと思ったら、そうじゃないそうで、スゴい!と思いました。
ベル・アンド・セバスチャンの「トゥー・マッチ・ラヴ」が効果的に使われています(CDがほしくなります)
Youtubeで「ベル・アンド・セバスチャン トゥー・マッチ・ラヴ」で検索すると、『彼の見つめる先に』が使われている動画がたくさん出てきます。映画とともに、この歌もたくさんのファンを得たんだろうなと思わせます。
『彼の見つめる先に』は180の映画祭から招待を受け、第64回ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞とテディ賞(最も優れたクィアムービーに贈られる賞)を受賞したのをはじめ、115もの賞を受賞しています。2015年のアカデミー賞外国語映画賞のブラジル代表作品にも選出されています。
監督のダニエル・ヒベイロのインタビューがこちらに掲載されています。
「僕もサンパウロで生まれ育ったから、自身の高校時代の生活なんかは自然に投影された部分はあると思う。それと、僕自身は両親に自分がゲイであることをなかなかカミングアウトできなかったんだけど、ある時、母のほうから『そうなんじゃない?(あなたはゲイなんじゃない?)』と切り出してくれたんだ。だから、作品中でも、はっきりとした言葉は使っていないけど、母親はレオナルドのセクシュアリティに気づいていることを示す会話を描いているよ」
上映時間96分で、まったく重さを感じさせません。
上映館の1つである新宿シネマカリテは、毎週水曜がサービスデー(1000円)となっていて、お得です。
4月中旬までの上映だそうです。
ぜひご覧ください。
『彼の見つめる先に』
2014年/ブラジル/監督:ダニエル・ヒベイロ/出演:ジュレルメ・ロボ、ファビオ・アウディ、テス・アモリンほか/新宿シネマカリテほかで上映中
INDEX
- 女性と同性愛者を抑圧し、ペストで死ぬ人々を見殺しにする腐敗した権力者への叛逆を描いた映画『ベネデッタ』
- トランスジェンダーへの偏見や差別に立ち向かうために読んでおきたい本:『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』
- 『痛快!明石家電視台』ドラァグクイーン大集合SP
- 殺伐とした世界に心を痛めるすべての人に観てほしいドラマ『THE LAST OF US』第3話
- 3人のドラァグクイーンのひと夏の旅を描いたハートフル・コメディ映画『ひみつのなっちゃん。』
- 40歳のゲイの方が養護施設で育った複雑な生い立ちの20歳の男の子を養子に迎え入れ、新しい家族としての生活を始める姿をとらえたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』
- 貧しい家庭で妹の面倒を見る10歳のゲイの男の子が新しい世界を切り開こうともがき、成長していく様を描いた映画『揺れるとき』
- ゲイコミュニティへのリスペクトにあふれ、あらゆる意味で素晴らしい、驚異的な名作『エゴイスト』
- ドラァグクイーンの夢のようなロマンスを描いたフランス発の短編映画『パロマ』
- 文藝賞受賞、芥川賞候補の注目作――ブラックミックスのゲイたちによる復讐を描いた小説『ジャクソンひとり』
- ドラァグクイーンによる朗読劇『QUEEN's HOUSE〜あなたの知らないもうひとつの話〜TOKYO』
- 伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』
- 謎めいたゲイ・アーティストの素顔に迫るドキュメンタリー映画『アンディ・ウォーホル:アートのある生活』
- 『ボヘミアン・ラプソディ』の感動再び… 映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
- 近年稀に見る号泣必至の名作ゲイ映画『世界は僕らに気づかない』
- ぼくらはシンコイに恋をする――『シンバシコイ物語』
- ゲイカップルやたくさんのセクシャルマイノリティの姿をリアルに描いた優しさあふれる群像劇『portrait(s)』ほか
- TheStagPartyShow movies『美しい人』『キミノコエ』
- Visual AIDS短編集『Being & Belonging』
- これ以上ないくらいヘビーな経験をしてきたゲイの方が身近な人たちにカミングアウトする姿を追ったドキュメンタリー映画『カミングアウト・ジャーニー』
SCHEDULE
- 05.18秋田プライドマーチ
- 05.18An Evening with ALASKA
- 05.18SPECTRUM vol.1
- 05.18GLOBAL KISS
- 05.18PIERROT OKINAWA 19th anniversary