REVIEW
映画『ディヴァイン・ディーヴァ』
ブラジルで1960年代からステージに立ってきた伝説のクイーンたちの生き様を、たくさんの素敵な音楽に乗せて魅せてくれる、まさに笑いあり、涙ありな傑作映画です。
「ショーは私の命。たとえ軍事独裁政権だろうと私の女装をやめさせることはできない」という気概で、1960年代から女装ショーを続け、伝説的存在としてリスペクトされてきた8人の神々しい(DIVINEな)クイーンたちが、70歳を祝う記念のショーで再び集結することになり…「歌に生き、恋に生き」ではないですが、それぞれのクイーンの生き様を、たくさんの素敵な音楽に乗せて魅せてくれる、まさに笑いあり、涙ありな映画です。レビューをお届けします。(後藤純一)
昔、ドラァグクイーンをやっていた頃、警察に「女装罪」で逮捕されたりしたらウケるよね~という話で盛り上がったことがありました。別に女装で外を歩こうが、電車に乗ろうが、人目が気になるだけで(タクシーには乗車拒否されることもありますが)、何らお咎めはありません。平和な日本だからこそ、笑って言える話です。
しかし、軍事独裁政権下にあった1960年代のブラジルでは、冗談じゃなく本当に女装者が逮捕されていたと知って、ビックリしました。彼女たちはやむなく外に出なければいけない時は、タクシーに乗り、ウィッグ(ヅラ)を取って、バレないようにしたと語っていました。実際、警察がクラブに踏み込んできて、全員逮捕されたこともあったそうです。なんと恐ろしい…
それでも、彼女たちは女装することをやめませんでした。その気高さには胸を打たれます。否が応でも「PRIDE」という言葉が思い浮かびます。
そして、彼女たちのショーは、軍事独裁政権下の暗い時代にあって、人々の唯一の楽しみとなっていたそうです(ショー的なものがそれしかなかったなんて…オドロキです)
彼女たち、8人のディーヴァ(クイーン)は、普段は男の格好で過ごしているゲイのドラァグクイーンもいれば、豊胸をしたり女性ホルモンを投与したりしているトランスジェンダーの人もいました。当時のブラジルでは、Travesti(異性装者)などと称されていたようです(看板にそう書かれていました)
日本だと、ドラァグクイーンはゲイカルチャーの一部で、だいたいはGAY MIXのクラブパーティでショーをやったり、フロアに華を添えたりする人、そしてMtFトランスジェンダーでショーをやる人は、主にノンケさん向けのショーパブで毎日働き、たくさん稼いで、手術代を稼ぐ、という住み分けがあったと思いますが、彼女たちはいっしょくたで、キャバレーのようなお店でショーをやっていました。お客さんはテーブル席にいて、ショーを楽しむスタイルで、豪華なステージがあって、という感じです。しかし、そのショーの内容は、ゴージャスだったりコミカルだったり、ああ、日本と同じだなぁ、こういうのって万国共通なんだなぁとしみじみ、感心しました(使ってる曲も同じだったりして)
とある大御所のドラァグクイーンの方が昔、「ドラァグクイーンって、見てる人を幸せな気持ちにさせるものよ」とおっしゃっていて、座右の銘といいますか、深く心に刻んだものですが、この映画を観ていると、本当にそうだなぁ…と思えます。しみじみ、心に沁みてきます。
あまり深いことは考えず、ぜひ、ご覧ください。
きっと、彼女たちの素晴らしい生き様に魅了されるはずです。
『ディヴァイン・ディーバ』 DIVINE DIVAS
2016年/ブラジル/監督・脚本:レアンドラ・レアル/出演:ブリジッチ・ディ・ブジオ、マルケザ、ジャネ・ディ・カストロ、カミレK、フジカ・ディ・アリディ、ホジェリア、ディヴィーナ・ヴァレリア、エロイナ・ドス・レオパルドほか/9/1(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
(c) UPSIDE DISTRIBUTION, IMP. BLUEMIND, 2017
INDEX
- 女性と同性愛者を抑圧し、ペストで死ぬ人々を見殺しにする腐敗した権力者への叛逆を描いた映画『ベネデッタ』
- トランスジェンダーへの偏見や差別に立ち向かうために読んでおきたい本:『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』
- 『痛快!明石家電視台』ドラァグクイーン大集合SP
- 殺伐とした世界に心を痛めるすべての人に観てほしいドラマ『THE LAST OF US』第3話
- 3人のドラァグクイーンのひと夏の旅を描いたハートフル・コメディ映画『ひみつのなっちゃん。』
- 40歳のゲイの方が養護施設で育った複雑な生い立ちの20歳の男の子を養子に迎え入れ、新しい家族としての生活を始める姿をとらえたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』
- 貧しい家庭で妹の面倒を見る10歳のゲイの男の子が新しい世界を切り開こうともがき、成長していく様を描いた映画『揺れるとき』
- ゲイコミュニティへのリスペクトにあふれ、あらゆる意味で素晴らしい、驚異的な名作『エゴイスト』
- ドラァグクイーンの夢のようなロマンスを描いたフランス発の短編映画『パロマ』
- 文藝賞受賞、芥川賞候補の注目作――ブラックミックスのゲイたちによる復讐を描いた小説『ジャクソンひとり』
- ドラァグクイーンによる朗読劇『QUEEN's HOUSE〜あなたの知らないもうひとつの話〜TOKYO』
- 伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』
- 謎めいたゲイ・アーティストの素顔に迫るドキュメンタリー映画『アンディ・ウォーホル:アートのある生活』
- 『ボヘミアン・ラプソディ』の感動再び… 映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
- 近年稀に見る号泣必至の名作ゲイ映画『世界は僕らに気づかない』
- ぼくらはシンコイに恋をする――『シンバシコイ物語』
- ゲイカップルやたくさんのセクシャルマイノリティの姿をリアルに描いた優しさあふれる群像劇『portrait(s)』ほか
- TheStagPartyShow movies『美しい人』『キミノコエ』
- Visual AIDS短編集『Being & Belonging』
- これ以上ないくらいヘビーな経験をしてきたゲイの方が身近な人たちにカミングアウトする姿を追ったドキュメンタリー映画『カミングアウト・ジャーニー』
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