REVIEW
映画『ハード・ペイント』
自宅にひきこもり、ライブチャットでセクシーなパフォーマンスを見せて生計を立てているゲイの若者の、孤独や、恋や、苦悩の日々を、リアルに、アーティスティックに描いた作品です。
ラテンビート映画祭で上映されているブラジル映画で、2018年のベルリン国際映画祭でテディ賞(その年の最も優れたクィア映画に贈られる賞)も受賞した作品です。自宅にひきこもり、ライブチャットでセクシーなパフォーマンスを見せて生計を立てているゲイの若者の、孤独や、恋や、苦悩の日々を、リアルに、アーティスティックに描いています。レビューをお届けします。(後藤純一)
<あらすじ>
閉塞感の漂うブラジル南部の中都市・ポルトアレグレ。瞳に悲しみをたたえる美男子・ペドロは、CAM4(エロいライブチャット)で体に派手な蛍光塗料を塗りたくりながら踊ったり、時には客の要求に応じてセクシーな行為を見せて、お金を稼ぎ、ネオンボーイと呼ばれている。彼は、めったに外に出ないし、人との関わりを避けて暮らしているが、それには事情があった。ペドロの唯一の家族である姉のルイザが遠くの街に行ってしまい、彼は、同じようにネオンボーイをしている青年・レオと会い、意気投合するが……。
20歳くらいの美少年・ペドロは、とある悲しい出来事があって、大学を途中でやめ、引きこもり、自室でネオンボーイとしてダンス・パフォーマンスやそれ以上の行為をビデオチャットで見せて暮らしています。お姉さんと二人暮らしだったのですが、何もかも受け入れたうえで見守ってくれていたお姉さんが、遠くの街に引っ越してしまうことになり、独りで生きることを迫られます。そこで、同じようにネオンボーイをしている青年・レオと(最初は、蛍光塗料ネタをパクリやがって、という怒りで)会うのですが、彼のほうが、堅実というか、しっかり世の中と向き合って、友達をたいせつにしながら、人を思いやる気持ちを持ちながら、生きていて、そして、ペドロのよき理解者となり、ペドロも心(と体)を開き、ものすごく影響を受けます。
事情があるにせよ、人との関わりがダメダメで(見ててハラハラします)、うわー…って思っちゃうような行動を取ったり、つらい現実からすぐに逃げ出してしまったりするペドロですが、とにかく美少年なので、お金を払ってくれる人もいれば、何か力になろうか?と言ってくれる人もいれば、恋も生まれます。でも、いくらモテるといっても、中味に問題がある、人間として未熟なままでは、そのうち誰からも相手にされなくなるし、行き詰まってしまう…といったことが、とてもリアルに描かれています。
絵面はかなり赤裸々ですが、ゲイであることへの偏見や差別意識が全くないからこそ、だと思います。
この映画は、セクシュアリティ自体というよりも、内面や言動に困難を抱えている主人公が、人との関わりのなかで、少しずつ人として成長していく、その心の旅を繊細に描いた作品であると言えるでしょう。
もしかしたら、ライブチャットとは何なのか、わからない方もいらっしゃるかもしれませんので、簡単に補足すると、CAM4という(Chatterbateの次くらいに)世界的な人気を博しているライブチャットのサイトがあって(ノンケとゲイと、カテゴリーが分かれています)、参加者がビデオカメラの前であんなことやこんなことをして、みんな自由にそれを視聴できるようになっています。基本的に無料なのですが、顔出しでやってたり、ものすごくモテ筋だったりする方は、視聴者と交渉して、チップを稼いだり、Private Show(最大で1分あたり約2000円課金することができる)に持ち込むことが可能です。
ペドロやレオが、ブラックライトを使って暗めにした部屋で、体にネオンカラーの塗料を塗りながら、妖艶にダンスするシーンをはじめ、全体的に映像美にこだわった作品だと感じました。特に、ペドロの表情をいかに美しく撮るかというところに腐心しているように感じました。
ところどころ、ハッとさせられるような、美しくも素敵なシーンがあります(逆に、目を覆いたくなるようなシーンもあります)。ラストシーンも感動的です。
この後の上映は、11/23(金祝)18:30-に横浜ブルク13で、ということになります。今後上映されることがあるかどうかわかりません…ので、ご都合のつく方はぜひ、映画館でご覧になってみてください(チケットの詳細はこちら)
ハード・ペイント / Tinta bruta
2018年/ブラジル/監督:フィリペ・マッツェンバシェル、マルシオ・ヘオロン/出演:シコ・メネガチ、ブルーノ・フェルナンデス、ゲガ・ペイショット
第15回ラテンビート映画祭ブラジル映画特集にて上映
新宿バルト9
11/9(土)21:00-
横浜ブルク13
11/23(金祝)18:30-
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