REVIEW
映画『アスリート ~俺が彼に溺れた日々~』(レインボー・リール東京2019)
今となっては懐かしさすら感じさせるような「男同士の恋愛」をエモーショナルに描いた映画です。主演のジョーナカムラさんのセクシーさが際立つ作品です。

<あらすじ>
元競泳選手で今は子どもたちに水泳を教えているコウヘイは、ある日突然、妻に離婚届けを突きつけられる。ショックのあまり、酒に溺れ、迷い込んだ二丁目で気分が悪くなり、ゲイのユタカに介抱され、一緒にゲイバー『プリシラ』に行くが、潰れてしまい、気づくとユタカの部屋に。家族に憧れていたが、結局俺は妻にも娘にも必要とされてなかったのか、とユタカの胸で泣きじゃくったあと、そのままズルズルとユタカの部屋に居候するコウヘイ。一方のユタカは、アニメ作家になることを夢見ており、病に倒れた父親にカミングアウトできずに思い詰めていた。それぞれに大きな悩みを抱える二人は、互いを必要とし支え合うかのように、戸惑いながらも惹かれ合っていく……。
この映画を観た方から「妻子持ちのノンケ男(推定40代)が、いくら離婚届けを突きつけられ、慰さめを必要としているからといって、ゲイとつきあいはじめるか?という点でリアリティを感じない」という意見も聞きましたが、なくはないんじゃないかな?と思います。ノンケとして生きてきた方のなかにも、ニューハーフはイケるとか、若い頃に男と経験したとか、欲望を抑えつけていたけど40代になって目覚めたという方も、結構いらっしゃいます。コウヘイのようなパターンもあるでしょう、きっと。
一方のユタカはバリバリのゲイで、しかも「愛とセックスは別」というタイプなので、ユタカに対して一途な思いをぶつけるコウヘイは、カジュアルにハッテンしたり、友達とキスしたりしてしまうユタカの行動に堪えられなくなっていきます。この辺りは、ゲイのおつきあいの中でもありがちな話なので、リアルに感じたり、身につまされる方もいらっしゃると思います。
たぶん同じ感想の方は多いと思いますが、この映画の最大の見どころは、主演のジョーナカムラさんのセクシーさです。ヒゲがよく似合う、ちょっとワイルド系でマッチョなイケメンの魅力。顔がホントにいいですよね。惚れ惚れします。こんなノンケさんがひょんなことから僕とつきあってくれたりしたら…と想像しながら(ユタカの立場で)観ると、濡れちゃうかも。
ただ、ゲイバー『プリシラ』のママが(個人的には梅垣義明さんは大好きなのですが)あまりにも昔のゲイバーのイメージで、ステレオタイプの謗りを免れないだろうということ、また、コウヘイがこのお店に初めて入ったとき「ここは…ゲイの?」と呟くと、おネエな客が割って入ってきて「せめてLGBTQと言ってちょうだい!」と言ったり、首を傾げてしまうような場面が結構ありました。ちゃんとしたLGBTの団体なり企業なりに監修を頼めばよかったのに…と思いました(あるいは、監修は入ってたけど、頼んだ先がマズかったか…)
全体として、決して悪くはないのですが、今のこの良質なゲイドラマがたくさん世の中にあふれている時代に、まるで90年代で時間が止まっているような感覚の映画に果たしてどんな積極的な意味を見出したらよいのだろうか…という疑問を禁じえませんでした。
たぶん、BLとして楽しむぶんには、とてもいい映画なんだと思います。主演の二人ともイケメンですし。セクシーシーンもちょいちょいありますし。
同じアスリートでも、水泳じゃなくて柔道とか相撲とかラグビー辺りのアスリートで、相手もクマ系の方とかくたびれたおじさんだったりすると、多様性的な意味合い(今までになかったもの)が生まれたのでは?と思ったりしました。
アスリート ~俺が彼に溺れた日々~
監督:大江崇允
2019|日本|89分|日本語
出演:ジョーナカムラ、こんどうようぢ、田崎礼奈(notall)、中村文彦、みなもとらい、いちる(Vipera)、美羽フローラ(KIS)、海崎遥斗、橋本彩花 / 梅垣義明
©映画「アスリート」製作委員会
そんな感じの映画でしたが、上映後、よしひろまさみちさんが司会で、主演のジョーナカムラさん、こんどうようぢさんをはじめ田崎礼奈さん、いちるさん、そして監督の大江崇允さんが登場し、トークセッションを届けてくださったのは、たいへん豪華でした。
結構なボリュームの映画で、二丁目や、海辺でのロケもありましたが、なんと全部で5日間で撮ったそうです(二丁目のシーンは2日間。ちなみに『プリシラ』のロケは歌舞伎町の店舗だそう。二丁目だとあの広さのお店ってないですものね…)
ジョーナカムラさんは、アジア映画にもたくさん登場していますが、今回の映画の段取りが(きちっとしている日本よりも)アジア寄りだった、とおっしゃって笑わせていました。
もう一人の主演であるこんどうようぢさんは、今回が映画初出演、初主演で、キスシーンやラブシーンも初めてだったそうです(その割には堂に入っている、肝が据わってる、と思いました)。「純愛映画だと思います」とコメントしていらっしゃいました。
立ち見が出るほど満員御礼の客席(その多くは女性の方でした)からは熱い拍手が贈られていました。フォトセッションの時間も設けられ、お客さんも写真を撮ることができましたので、これは素敵なファンサービスになったのではないでしょうか。
INDEX
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