REVIEW
映画『ロケットマン』
世界的なスターでありゲイであるエルトン・ジョンの成功と孤独と苦悩を赤裸々に、ファンタジックに、あらゆる面でハイクオリティに描いた大傑作ミュージカル映画です。エルトンのことを全く知らない方でも楽しめますし、きっと感情移入できると思います。

生きるレジェンドであり偉大なゲイのヒーローであるエルトン・ジョン
1947年にロンドン郊外の労働者階級の家庭に生まれたエルトン・ジョンは、1969年にデビューアルバム『エンプティ・スカイ (エルトン・ジョンの肖像)』を発売し、70年の「僕の歌は君の歌(Your Song)」が大ヒットして以降、「Rocket Man」や「Goodbye Yellow Brick Road」など数々の名曲を世に送り出し、現在までコンスタントにヒットを飛ばし、現在までに全世界で3億枚以上のレコード・セールスを記録している世界で最も成功した男性ソロ・アーティストの一人です。グラミー賞は5度受賞し(ノミネートは34回にも上ります)、「ローリングストーン誌が選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」などにも選ばれています。若い頃はライブでド派手な衣装を着たり、コスプレしたりして観客を沸かせてきました。
ダイアナ妃との交友も有名で、彼女が亡くなった時は、葬儀で「キャンドル・イン・ザ・ウィンド」を歌っています。
ディズニー映画『ライオン・キング』では主題歌「愛を感じて(Can You Feel The Love Tonight)」を手がけ、アカデミー賞にも輝きました。
1976年にバイセクシュアルであるとカムアウトし(著名なポップスターがこの時期にカムアウトするって、スゴいことです。世界的に見ても最も早かったのではないでしょうか)、84年に女性と結婚したものの、4年後に離婚し、ゲイでいるほうが本来の自分らしいと認めました。そして、1991年にフレディ・マーキュリーが亡くなった後、エイズ患者の支援やHIV予防啓発などを目的とするエルトン・ジョン・エイズ財団(Elton John AIDS Foundation)を設立し、コンサートで使用した衣装をオークションにかけて売上げをチャリティにしたり、セレブを集めたイベントを開催したり、精力的に活動を続けてきました(寄付金の合計は2億2500万ドル以上に上るそうです)
2005年にはイギリスでシビルユニオンが承認されたのを受けて長年のパートナーであるデヴィッド・ファーニッシュとシビル婚の式を挙げ、2010年には養子を授かり、2014年にはいよいよイギリスで同性婚が正式に認められため、改めて結婚しました。
LGBTイシューについても積極的に発言したり、行動したりしています。2001年、エミネムが同性愛嫌悪的な歌詞で非難を浴びていたことを受けて、グラミー賞のステージでエルトンがエミネムと共演し、彼を抱きしめ、大勢を感動させたのは、エルトンの懐の深さを物語るエピソードとして有名です。
(今回の自伝的な映画の制作に際しても、自らを美化することなく、日本だとバッシング&芸能界追放みたいなことになるような暗部とされる部分もありのままに正直に見せていて、素晴らしいです)
『ボヘミアン・ラプソディ』を超えるゲイ映画であり、人間の孤独や苦悩を『ラ・ラ・ランド』並みのファンタジックな演出でミュージカル化した『ロケットマン』
冒頭、コンサート用のとんでもなく派手な衣装のままリハビリ施設にやってきて、自分はアルコール依存症で、ジャンキーで、セックス依存症で、情緒不安定で(アンガーマネジメントが必要で)…と告白を始めるシーンは、衝撃的であり、この映画の非凡さ(傑作であるということ)を物語ります。
『ロケットマン』は、ちょっと小太りだけど、一度聴いた音楽をすぐにピアノで弾けるという神童が、現代のモーツァルトとも言うべき天才的な作曲家として開花し、リベラーチェよろしく派手な衣装で観客を盛り上げ、一躍スターになり、「世界にある全レコードの数%はエルトン・ジョン」と言われるほどのセールスを記録し、世界に羽ばたいていく様を追った、キラキラでファビュラスなシンデレラ・ストーリー…と言えなくもないですが、それよりは、成功の陰で、親に愛されず、恋愛にも恵まれず、孤独感に苛まれ、クスリ漬けになりながら、ド派手な衣装を着て笑顔でステージをこなす…というエルトンの地獄が「ミュージカル仕立てで」描かれるところこそが、傑作たるゆえんです。一人のゲイのスターの孤独や苦悩を表現する時にこそ、代表的な名曲の数々が使用され、ドラマチックに、壮絶に、しかし、これはスゴい…と思わせる表現になっていて、深く感動させられました(全くありきたりではない、目を瞠るような表現です)。どの楽曲をどの場面でどう使うかということも含め、脚本が見事で、まるで『ラ・ラ・ランド』のようなファンタジックな演出が光ります。タロンの演技も素晴らしいです。あらゆる面でハイクオリティな傑作です。
『ボヘミアン・ラプソディ』に(というより、エルトンがフレディ・マーキュリーに)たいへんよく似ています。ともに英国出身のロックスターとして世界的な成功を収め、女性と結婚していたバイセクシュアルで、つきあっていた恋人をビジネスでもパートナーとしていたものの(金に目が眩んで)裏切られ…孤独を味わい…。その孤独や苦悩が楽曲とシンクロして感動を誘う、そういう音楽映画になっています。
『ボヘミアン・ラプソディ』がライブエイドのシーンに向かって物語が進んでいき、最後のライブで圧倒的な感動が訪れるようになっているのに対して、『ロケットマン』はもっと随所にそのようなシーンがあり、全体としてミュージカルになっています。そして、『ボヘミアン・ラプソディ』では若干、フレディのセクシュアリティや人間関係のところで不満があった(史実と違う部分があった)のに対し、『ロケットマン』は(本人がプロデュースしているだけあって)それがなく、文句なしのゲイ映画になっています。
ゲイだけでなく、アルコール依存や麻薬依存、精神疾患を抱えた人たちをも励ますような作品です。そして、人間にとって「愛されない」ということがどれほどの苦痛であり、心の地獄をもたらし、体をボロボロにするかということを、あの名曲に乗せてドラマチックでファンタジックな映像にして見せてくれているというところもスゴいと思います。
エルトンを演じたのがタロン・エガートン(エジャトン)だったのも本当によかったです。タロンはエルトンに似ているけどもっとイケメンで(髪はわざと生え際を後退させたそうです)、歌も素晴らしいし、演技も上手いし、これがいちばん大事なポイントですが、とてもセクシーです(ちゃんとセックスのシーンもありました)。『キングスマン』も観たくなりました。
それから、長年、コンビを組んで歌を作っていた作詞家のバーニーを演じていたのが、あの『リトル・ダンサー』のビリー少年を演じていたジェイミー・ベルなんです。胸熱です(ビリー少年もイギリスの労働者階級の家に生まれ、バレエの才能があったのに家族に理解されず、苦労しますが、のちに世界的なダンサーに…という、エルトンとよく似た境遇なのです。エルトンは『ビリー・エリオット・ザ・ミュージカル』の音楽を手がけています)
監督を務めたのは、『ボヘミアン・ラプソディ』のデクスター・フレッチャー。
脚本は、『リトル・ダンサー』でアカデミー賞脚本賞にノミネートされたリー・ホール。
プロデュースサーは、『キングスマン』を監督したマシュー・ヴォーン(『白鳥の湖』のマシュー・ボーンではありません)。エルトン自身もプロデュースに参加しています。
エルトン・ジョンのファンの方はもちろん、そうでない方も、ミュージカルが好きな方も、そうでない方も、『ボヘミアン・ラプソディ』または『ラ・ラ・ランド』にハマったという方も、そうでない方も、ぜひご覧ください。
『ロケットマン』ROCKETMAN
2019年/イギリス・アメリカ合作/監督:デクスター・フレッチャー/出演:タロン・エガートン、ジェイミー・ベル、ブライス・ダラス・ハワード、リチャード・マッデンほか
(C)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
INDEX
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