REVIEW
映画『Weekends』
ソウルの合唱団「G-Voice」に密着したドキュメンタリーです。韓国のゲイをとりまく状況の苛烈さが容赦なく描かれているとともに、まるで『パレードへようこそ』や『キンキーブーツ』のように、ストレートの方たちとの熱い友情に涙させられたりもする名作です。

2011年のアジアンクィア映画祭で、『チョンノの奇跡』をご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。ソウルのゲイタウン・鍾路(チョンノ)に生きる4人のゲイの姿を追ったドキュメンタリーで、涙あり、笑いあり、さまざまな驚きありの、本当にいい映画でしたが、その中にゲイの合唱団に参加する方が登場していました。正直、軍隊に入るときに同性との経験があると告げたために強制的に1年間精神病院に入れられた方や、HIVの治療薬がすべて効かなくなり、命を賭けて国や製薬会社に抗議している方のエピソードがとてもインパクトが強くて、合唱団についてはそれほど…ああ、韓国にも合唱団があるんだなぁ、たぶんみんなリーマンだろうけど顔出ししててえらいなぁ、くらいの印象でした。
映画『Weekends』は、その合唱団「G-Voice」に密着したドキュメンタリーです。どこにでもいるようなゲイたちのリアルな生き様、思い、そして仲間との友情や愛を歌に込めた、コミュニケーション・ドキュメンタリーです。
「G-Voice」は今年4月に中野ゼロ大ホールで開催されたLGBTコーラスイベント「Hand In Hand TOKYO 2019」にも出演していて、合唱の経験がある方なら爆笑モノの(でも泣いちゃったりもする)素晴らしいオリジナル曲を披露してくれて、個人的にはいちばん素晴らしい演奏だったと感じ、彼らのファンになりました。そんな「G-Voice」は、こちらの記事にも書かれているように「チングサイ」というLGBT団体のオフィスの中で練習していて、たぶんメンバーの多くが「チングサイ」にも参加していると思います(今年のソウル・パレードで「チングサイ」のフロートに乗って盛り上げていた男の子たちも「G-Voice」のメンバーでした。かわいかったです)
『Weekends』は、「G-Voice」結成10周年の2013年から2016年までを追っていて、元メンバーで映画監督のキム=ジョ・グァンスが2013年に韓国で初めて同性結婚式を挙げた時の様子(信じられない出来事がありました)や、2014年のパレードで狂信的なアンチ同性愛の妨害者たちが道路を占拠して長時間パレードが中断された様子なども収められていて、いかに韓国のゲイをとりまく環境が苛烈なものか、ということを否応なしに思い知らされます。そのように厳しい状況があるからこそ、なかなか自分のセクシュアリティを受け入れられず、「G-Voice」に入って初めて自分を肯定できたとか、初めてゲイの友人ができたという方も多いのです。
そんなメンバーの声が、たくさん収められています。パートナーとのなれそめを聞いたり、家で一緒に過ごしている様子を写したり(ケンカしてたり)、仕事のことだったり、ゲイライフについてのいろいろだったり。彼らが自分で体験したことが、オリジナルの歌となり、「G-Voice」で歌われているのは、とても素晴らしいです。合唱未経験者も多いため、練習で厳しいことを言われる場面もあったり、苦労しただけにコンサートが盛り上がって感動したり、うれしいことや悲しいことが、たくさんの歌とともに描かれていきます。人を感動させる音楽って上手い下手じゃないんだな、と思い知らせてくれます。
ちょうど『パレードへようこそ』と同じなのですが、先の見えないストライキをしている労働者の人たちを応援するために、「G-Voice」のメンバーが真冬に出かけて行って(めっちゃ寒そうでした)、クリスマスソングを歌うという心温まる場面があり、その後、その労働組合の方たちが恩返しをしてくれる…というシーンが、ちょっと涙なしには観ることができない、感動エピソードでした。
映画には、しょっちゅう出てくるバーがあり(主要なメンバーの熊系な方が、そこで働いています)、「Friends」というお店なのですが、今年ソウルに行った際、「Friends」にも行ってて、隣のテーブルに「G-Voice」のメンバーの方もいらっしゃったので(その時はわかりませんでした)、先にこの映画を観れてたらよかったのに…残念、と思いました。
観終わって、愛する人や友達をもっと大切にしたいと思いました。どこかに置いてきてしまった、いつの間にか忘れてしまっていた感情を、取り戻せた気がしました。寒い日でしたが、あたたかい気持ちで帰ることができました。
『Weekends』はこのような映画です。
『Weekends』は2016年のベルリン国際映画祭に出品され、パノラマ観客賞の3位に選ばれています。世界が認める名作です。しかし、日本では全くと言っていいほど取り上げられず、上映の機会は極めて限られていました。昨年GWに「Normal Screen」が東京レインボーウィーク関連で上映会を開き、今年11月に「QUEER TOKYO FAIR」と「そらにじひめじ」で上映会が催されましたが、果たして今後、上映される機会があるのかどうか…定かではありませんが、しかし、きっといつかまた、どこかで上映されると信じます。その時は、このレビューを思い出していただければ幸いです。
『Weekends』
監督:イ・ドンハ|韓国語|日本語、英語字幕|98min|2016年|韓国
INDEX
- これまで見捨てられがちだった人々をも包み込んで慈しむような素晴らしいゲイ映画『老ナルキソス』
- 驚くべき魂を持った人間の崇高な最期を描いた映画『ザ・ホエール』
- ゲイと女性2人の美大同級生たちの人生模様を料理とともに描くドラマ『かしましめし』
- ゲイである父、娘たち、元彼の人間模様を描き、人間の「尊厳」や「愛」を問う映画『すべてうまくいきますように』
- レビュー:リン・モンホワン『同棲時間』公演記録映像上映+アフタートーク
- レビュー:リン・モンホワン『赤い風船』『アメリカ時間』
- 大興奮!大傑作!本当に面白いクィアSFアクションムービー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
- 実にポップでインテレクチュアルでエモーショナルで画期的な『極私的梅毒展』@akta
- 女性と同性愛者を抑圧し、ペストで死ぬ人々を見殺しにする腐敗した権力者への叛逆を描いた映画『ベネデッタ』
- トランスジェンダーへの偏見や差別に立ち向かうために読んでおきたい本:『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』
- 『痛快!明石家電視台』ドラァグクイーン大集合SP
- 殺伐とした世界に心を痛めるすべての人に観てほしいドラマ『THE LAST OF US』第3話
- 3人のドラァグクイーンのひと夏の旅を描いたハートフル・コメディ映画『ひみつのなっちゃん。』
- 40歳のゲイの方が養護施設で育った複雑な生い立ちの20歳の男の子を養子に迎え入れ、新しい家族としての生活を始める姿をとらえたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』
- 貧しい家庭で妹の面倒を見る10歳のゲイの男の子が新しい世界を切り開こうともがき、成長していく様を描いた映画『揺れるとき』
- ゲイコミュニティへのリスペクトにあふれ、あらゆる意味で素晴らしい、驚異的な名作『エゴイスト』
- ドラァグクイーンの夢のようなロマンスを描いたフランス発の短編映画『パロマ』
- 文藝賞受賞、芥川賞候補の注目作――ブラックミックスのゲイたちによる復讐を描いた小説『ジャクソンひとり』
- ドラァグクイーンによる朗読劇『QUEEN's HOUSE〜あなたの知らないもうひとつの話〜TOKYO』
- 伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』
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