REVIEW
映画『ソン・ランの響き』
『さらば、わが愛/覇王別姫』に通じるようなベトナムの伝統歌舞伎にオマージュを捧げる作品です。素晴らしく美しく、そして大いに感情を揺さぶられる名作です。
号泣しました。
以前、アジアン・クィア映画祭が開催されていた頃は、アジア映画ならではのエモーショナルな作品によく泣かされていましたが、こんな名作に出会えたのはずいぶんとひさしぶりかもしれません。
『さらば、わが愛/覇王別姫』にも似て、伝統演劇へのオマージュが捧げられた作品でもあります。
ベトナムの街の異国情緒も味わえます。
惹かれ合う二人には、そうなるだけの必然性があり(物語がしっかりしています)、途中のロマンチックなシーンで登場するエピソードが、ラストシーンを盛り上げます(脚本が巧みです)
1つ1つの「絵」がハッとさせられるような美しさで、1カットたりとも無駄がないような、完璧な作品でした。
容赦ない借金の取り立てで「雷」の異名をとるユンは、取り立てに行った先で、両親が不在ななか、無垢な子どもたちについ心を許し、グアバを剥いてあげたり、遊んであげたりします。実はいい奴なのでした。近所の子どもたちにも懐かれています。そんなユンが、借金の取り立てに行った芝居小屋の楽屋で、花形役者のリン・フンと出会います(一目惚れします)。出会いは最悪だったものの、町の居酒屋でチンピラにからまれたフンを、ユンが助けたことがきっかけで、フンは心を許します。ユンは、ヤクザ者ではありますが、実は知的で繊細なところもあり、意外な共通点もあり、フンは恋に落ちるのです。
言ってみれば、ヤクザな一匹狼と、花形役者の儚い恋です。こう書くと、昭和の日本映画のようなイメージを与えるかもしれませんが、実はヨーロッパの文芸映画のような文法で作られています。(ベトナムという国がそもそもそうであるように)アジア的な趣とヨーロッパ的な趣がブレンドされて、今まであまり観たことがないようなタイプの名作が誕生したという印象です。
カイオルンという南ベトナムの伝統歌舞伎(中国の京劇のようでもあり、日本の大衆演劇のようでもある)がフィーチャーされています。舞台の下のオーケストラピットのようなところで、ベトナム独自の楽器の生演奏で、芝居の伴奏が行われるのですが、歌舞伎や京劇ほどクラシックではなく、ポップス的な要素もあり、実に独特です(客出しの時には軽快に「蛍の光」が演奏され、まるでドリフのようです)。歌のメロディも、インドやアラビアの音楽のような微分音(十二音からはみ出す音)が含まれていたりして、独特です。
このカイオルンで用いられる、ベトナム独自の楽器の一つがソン・ランで、芝居の音楽にアクセントをつける、重要な打楽器です(ソン・ランは「二人の男」という意味なんだそう)
観たらきっと、ベトナムに行きたくなる映画です。逆に、ホーチミンとかに行ったことがある方は、親しみが持てるのではないでしょうか。
恋ってこういうことだよね、セックスだけじゃないよね、という、(自分も含めて)遠い昔に置いてきてしまったような感情を取り戻すことができる、心洗われる作品でもあります。
ぜひ、映画館でご覧ください(あの映像美は、大きなスクリーンで観ないと、もったいないと思います)
ソン・ランの響き
原題:The Tap Box[Song Lang]
2018年/ベトナム/監督:レオン・レ/出演:リエン・ビン・ファット、アイザック、スアン・ヒエップほか/2月22日より新宿K's cinemaほか全国順次公開
INDEX
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