REVIEW
映画『私の少女』(GYAO!で期間限定配信)
暴力や差別・偏見にまみれた村社会の中で、孤独な女性と少女が共に手を携え、体を張って、男たちと戦っていく物語です。3月20日(金)までGYAO!で配信中!
理由あって田舎町に左遷された交番所長の女性が、クズな継父からひどい虐待を受ける少女を保護し、継父の恨みを買い、少女への性的虐待の疑惑をかけられ…。暴力や差別・偏見にまみれた村社会・男社会の中で、孤独な女性と少女が共に手を携え、体を張って、同性愛嫌悪や女性嫌悪と戦っていくという、力強く、感動的な作品です。3月20日(金)までGYAO!で配信中ですので、この機会にぜひ!
<あらすじ>
海辺の村にソウルから交番所長として赴任してきた若い女性警官ヨンナムは、14歳の少女ドヒと出会う。ドヒは、実の母親が家を出て行ったあと、血のつながりのない継父ヨンハとその母(継祖母)と暮らし、日常的に暴力を受けている。若くして事業を営み、村で力を持つヨンハの横柄な態度を、村人たちも、警官までもが容認し、ドヒに対する暴力も見て見ぬふりという現状に、所長は独りで立ち向かっていく。ドヒは、初めて自分を守ってくれる大人に出会い、所長に心を許す。女性との交際を咎められ、この村に左遷され、辛い思いを抱えていたヨンナムも、次第にドヒの無垢な笑顔に癒されるようになるが、やがて激しく自分に執着するようになってきたドヒに、戸惑いを覚える。そんな時、運悪く、所長がこの村に左遷された理由がヨンハにバレてしまい……
継父のヨンハは継祖母と一緒になって毎日のようにドヒを罵り、ボコボコに殴りまくります。ヨンハの罪はそれだけでなく、悪どいビジネスをしている正真正銘のクズ野郎です。しかし、老人ばかりでろくな産業もないこの村で、ヨンハは村の有力者として振る舞い、天狗になっています。誰も逆らえません。腐っています。そこに所長さんが初めて、正面から不正を問いただし、いたいけな少女を暴力から守り、保護し、所長としてまっとうな仕事をしますが、それが気にくわず、逆恨みしたヨンハは、偶然知った所長さんのセクシュアリティを盾に、卑劣な反撃に出るのです。「同性愛者だから」と疑いの目を向けられる所長さん…なんという不条理でしょう。男社会がレズビアンに対してどんなに残酷で非道になれるかということが痛いくらいに伝わってきます。これがホモフォビアというものです。
「女のくせに」というセリフもありました。ホモフォビアとミソジニー(女性嫌悪)のダブルパンチです。幸いにも、所長という地位を持ち、男性にも腕力で負けない人だったから、立ち向かえたものの、そうでなければ、すぐに挫折し、尊厳を踏みにじられていたことでしょう。所長さんは、暴力や不正が横行する腐った村社会、そして男尊女卑で同性愛嫌悪な男社会に孤独な戦いを挑み、少女を暴力から守ろうとします。そして少女もまた、大好きな所長さんを守るべく、行動を起こすのです……。
実は、村人が加害者であり悪(ヴィラン)、所長さんとドヒは被害者であり善(ヒーロー)と単純に言い切れるかというと、そこまで図式的ではなく、それぞれ、弱かったり、怖い面も描かれています(詳しくは申し上げません。ぜひ作品をご覧ください)。だからこそ人間らしいし、世の中の複雑さやリアリティが描かれ、作品のクオリティが担保されていると感じます。
そこを割り引いても、この作品は、孤独な魂を抱えた女性と少女が出会い、愛とも友情とも呼べるような絆で結ばれ、共に手を携えて、ボロボロになりながら男たちと戦う物語だと言えます。その気高さに、愛に、強さに、胸を打たれます。
所長さんを演じるのは、『クラウドアトラス』や『センス8』に出演したウォシャウスキー姉妹※のミューズ、ペ・ドゥナです。あまり感情を表に出さなかったり、格闘技に長けた強い女性の役だったりすることが多いのですが、国際的にたいへん評価が高く、この『私の少女』でも(『紙の月』の宮沢りえさんらを押さえて)アジア・フィルム・アワード主演女優賞に輝いています。
なお、『私の少女』はカンヌ国際映画祭に正式出品されているほか、世界の様々なアワードで受賞しています。
※『マトリックス』を監督した時はウォシャウスキー兄弟でしたが、二人ともトランスして、現在は姉妹と称しています。たいへん珍しいケースです。そんなウォシャウスキー姉妹がペ・ドゥナを高く買っているのは、彼女が男に媚びない強い女性のイメージであり、独特の不思議な空気感(誤解を恐れずに言えば、クィアな感じ)を持っているからではないでしょうか。
おそらくまだご覧になっていない方も多いと思われるこの作品、3月20日(金)までGYAO!で無料配信中ですので、この機会にぜひ、観てみてください。
私の少女
原題:A Girl at My Door/2014年/韓国/119分/監督:チョン・ジュリ/出演:ペ・ドゥナ、キム・セロン、ソン・セビョクほか
2020年3月20日(金)23:59までGYAO!で無料配信中
INDEX
- 『ボーイフレンド』のダイ(中井大)さんが出演した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』第2話
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
- 映画上映会レポート:【赤色で思い出す…】Day With(out) Art 2024
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
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- アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
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- アート展レポート「MASURAO GIGA -益荒男戯画展-」
- アート展レポート:THE ART OF OSO ORO -A GALLERY SHOW CELEBRATING 15 YEARS OF GLOBAL BEAR ART
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