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REVIEW

ゲイタウンでポルノショップを40年近く経営していたノンケ夫婦の真実の物語『サーカス・オブ・ブックス』

事実は小説より奇なりとはこのこと…LAで40年近くもゲイポルノショップを経営したノンケ夫婦の真実に迫るドキュメンタリー映画です。驚きの連続。そして泣けます。

ゲイポルノショップを40年近く経営したノンケ夫婦の真実『サーカス・オブ・ブックス』

 LAのゲイタウンで37年もの長きにわたってゲイピープルにポルノ雑誌やビデオ、コックリングなどのアダルトグッズを提供し続け、暗黙のハッテンスペースも併設されていたというショップ「サーカス・オブ・ブックス」。LAに住んでいるゲイなら誰もが知っているというポルノショップを経営していたのは、なんとノンケの夫婦だった…という驚愕の事実。二人がなぜそんなお店を始めたのか、お客さんはどう思っていたのか、子どもたちはどう思っていたのか、といったお話を、夫婦の実の娘さんがインタビューし、ドキュメンタリー映画に仕上げたのが、この『サーカス・オブ・ブックス』です。4月22日からNetflixで配信がスタートしました。お話が進んでいくにつれて、思わぬ展開になり、最後はまさかの号泣…。予想の何倍も濃い、素晴らしい映画体験でした(PCでネトフリ見ながら号泣するって初めてかも…)
 




 カレンは活発なタイプの女性で、もともと新聞記者をしていました。バリーは映像技師で、あの『2001年宇宙の旅』や『スタートレック』の特殊効果を担当していたというスゴい人でした。二人はユダヤ教徒の若者たちが集まるパーティで出会い、意気投合し、結婚します。子どもも生まれ、幸せな家庭を築いていましたが、バリーの事業がうまくいかなくなり、カレンは、記者時代にインタビューしたことのあるラリー・フリント(ロコツに女性の性器を掲載したことで物議を醸した『ハスラー』誌を出版した人)の縁で、『ハスラー』誌をはじめ様々な雑誌を売り始めます。子どもたちの養育費を賄うためもあり、いつしか書店はゲイポルノショップに…。
 時代はインターネットなど無い80年代初期。まだまだ出会いの機会が限られていて、まだまだゲイに対する風当たりも強かった頃でした。『サーカス・オブ・ブックス』を訪れるゲイのお客さんたちのなかには、ここでしか見ることができないゲイポルノに囲まれて「プライドを持つことができた」と語る人もいました。
 お店は、誰でも入れる表のエリアと、カーテンで仕切られたハードコア・ポルノのゾーン(ちん○モロ出しビデオがズラリと並んでます)、そして、狭い階段を登った2階の薄暗い小さな部屋もあり、そこではハッテン行為も行われていました。カレンもバリーも別になんとも思っていない様子でした(以前、ゲイ雑誌か何かで、おばちゃんがハッテン場の店員をしてて店内を掃除してたりする漫画を見たことがある気がするのですが、実際に存在してたのです。しかも40年近く前に…)
 カレンは敬虔なユダヤ教徒で、他の人たちと同じくらいには保守的だと思いますし、女性としてポルノ雑誌やビデオが並ぶところで働くことに抵抗もあったと思いますが、それでも、目の前にいる(生活を支えてくれている)ゲイの人たちに分け隔てなく接し、従業員にも親切にしていました。ちなみに従業員のなかには『ルポールのドラァグレース』で有名になったドラァグクイーンのアラスカなどもいました(地味めな登場人物の中でひときわ異彩を放ってます)
 ただそういうゲイ向けのポルノショップを経営するだけでなく、二人はもっとスゴいことに手を出すようになります。甘いマスクと人並み外れた巨根で一斉を風靡したポルノ男優、ジェフ・ストライカーが関係しています(ジェフのインタビューもありました)
 映画はさらに驚愕の事実を、少しずつ伝えていきます。一枚、また一枚と服が脱がされるように、真実が裸になっていくのです。
 
 「事実は小説より奇なり」とはまさにこのこと、と実感させてくれるエピソードの連続で、予備知識なしに見たおかげで、本当にエキサイティングで、ラストはまさかの号泣…という映画体験になりました(『タイガーキング』とは真逆の意味でヤバい映画でした)。後半の展開については、ここでは伏せることにしますが、一点だけ、主要なストーリーラインとは別のエピソードについてお伝えすると、夫(お父さん)のバリーが、ふだんから本当にニコニコしていて、いつも笑顔な人なのですが、あるとき、従業員がエイズを発症して入院し、見舞いに行くと、親に見放されたと言い、バリーが親に電話すると、そっけなくされ…というシーンがあって、「あなたの息子じゃないか」と語る、その時だけは、いつも笑ってるバリーが真顔で、悲しそうでした。本当にいいひとだなぁと思いました。カレンもそんな感じでした。二人とも本当にいい人だなあって、だんだん親しみを覚えるようになっていきます。二人は、もちろん自分の家族も大事にしつつ(子どもたちには、どんな本屋を経営してるのかは決して教えず「ひた隠し」にしていましたが)、従業員にも、お店を訪れるゲイたちにも親切で、ある意味、家族的というか、自然な愛情をもって接していたように感じます。生来の人柄なんでしょうね。
 
 ネトフリで映画やドラマを観るのも飽きてきたなぁと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、まだこんなスゴい映画があったのか!と驚かされるとともに、人生捨てたもんじゃないなぁ、とか、世界はこんなに美しい、とか、心洗われるような、気持ちが救われる思いをすることでしょう。騙されたと思って、観てください。超名作です。
 
 
 
サーカス・オブ・ブックス
2019年/アメリカ/監督:レイチェル・メイソン/出演:ジェフ・ストライカー、ラリー・フリント、アラスカほか

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