REVIEW
女性にトランスした父親と息子の涙と歌:映画『ソレ・ミオ ~ 私の太陽』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
トランスジェンダーとその家族が直面するシリアスな状況や複雑な感情を描きつつも、中心に明るさと「愛」があるおかげで、救われるし、感情移入できます。いい映画でした。
1/15〜2/15にオンラインで開催中の「マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル(MyFFF)」。「若手映画制作者によるフランス映画のショーケース」というコンセプトで実施され、クィア作品もたくさん盛り込まれています。1000円ちょっとで全部まとめて視聴できます。
その第3弾として、家を出て4年間音信不通だった父親が、女性にトランスしていて、ひさしぶりに息子に会う、という状況を描いた短編『ソレ・ミオ ~ 私の太陽』をご紹介します。
<あらすじ>
父親からの連絡が途絶え、打ちひしがれる母親をなだめるダニエル。ある日、リザという女性として生まれ変わった父親が、性転換手術を控え、ダニエルの元に。ダニエルは母親に真実を話すよう、リザに迫り…。
映画にもいろいろありますが、なにげない小品や短編でも、映画だからこそ表現できる、心躍る瞬間、一度観たら忘れられないような素敵なシーンに出会って、ああ、観てよかったなぁと思えるような作品があります(そういうシーンと出会えることが、映画の醍醐味の一つだと思います)。これはそういう作品でした。印象的なシーンがいくつもありました。
短編ですし、ストーリーを細かく書いてしまうと、観る楽しみがなくなってしまうので、できるだけそうならないようにお伝えすると、トランスジェンダーとその家族が直面しがちなシリアスな状況や、抱きがちな複雑な感情を描きつつも、その中心に太陽のような明るさや「愛」があるおかげで、救われるし、感情移入しやすくて、よかったです。
グザヴィエ・ドランが『わたしはロランス』で描いたのと同じようなテーマですが、『わたしはロランス』は性別移行していく主人公のパートナーの苦しみをものすごくリアルに描き、観客がしんどい思いをするような作品だったのに対して、この映画は、さらっと軽やかで、切なく、余韻を残す感じです。
じっくり描くと1時間くらいの映画になると思うのですが、それを22分に凝縮して、あまり説明せずに、大胆にいろいろカットして、エモーショナルなシーンだけを見せている印象です。観る人の想像に委ねている部分もあります。
タイトルは『ソレ・ミオ』(オーソーレミオ〜♪っていうあの歌です)以外にありえないです。それくらい、歌が重要です。中森明菜さんの歌に「原始、女は太陽だった」という歌がありますが、「ソレ・ミオ」(私の太陽という意味)が使われているのは、リザを太陽のような女性として描きたくて、その象徴としてこの歌を選んでいるんだろうな、と思います。
当分、オーソーレミオ〜♪ってどこかで聞こえてきたら(あまり聞くこともないかもしれませんが)この映画を思い出すと思います。
ソレ・ミオ ~ 私の太陽
2019年/22分48秒/監督:Maxime Roy/脚本:Maxime Roy, Gall Gaspard/出演:Gall Gaspard, Jackie Ewing, Marie Desgranges
INDEX
- 絶望の淵に立たされた同性愛者たちを何とか救おうと奮闘する支援者たちの姿に胸が熱くなる映画『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』
- スピルバーグ監督が世紀の名作をリメイク、新たにトランスジェンダーのキャラクターも加わったミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』
- 同性愛者を含む4人の女性たちの恋愛やセックスを描いたドラマ『30までにとうるさくて』
- イケメンアメフト選手のゲイライフを応援する番組『コルトン・アンダーウッドのカミングアウト』
- 結婚もできない、子どももできないなかで、それでも愛を貫こうとする二人の姿を描いたクィアムービー『フタリノセカイ』
- 家族のあたたかさのおかげで過去に引き裂かれた二人が国境を越えて再会し、再生する様を描いた叙情的な作品――映画『ユンヒへ』
- 70年代のゲイクラブ放火事件に基づき、イマの若いゲイと過去のゲイたちとの愛や友情を描いた名作ミュージカル『The View Upstairs-君が見た、あの日-』
- 何食べにオマージュを捧げつつ、よりゲイのリアルを追求した素敵な漫画『ふたりでおかしな休日を』
- ゲイの青年がベトナムに帰郷し、多様な人々と出会いながら自身のルーツを探るロードムービー『MONSOON モンスーン』
- アウティングのすべてがわかる本『あいつゲイだって ――アウティングはなぜ問題なのか?』
- ホモソーシャルとホモセクシュアル、同性愛嫌悪、女性嫌悪が複雑に絡み合った衝撃的な映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
- 世紀の傑作『RENT』を生んだジョナサン・ラーソンへの愛と喝采――映画『tick, tick… BOOM!:チック、チック…ブーン!』
- 空を虹色に塗ろう――トランスジェンダーの監督が世界に贈ったメッセージとは? 映画『マトリックス レザレクションズ』
- 人種や性の多様性への配慮が際立つSATC続編『AND JUST LIKE THAT... セックス・アンド・ザ・シティ新章』
- M検のエロティシズムや切ない男の恋心を描いたヒューマニズムあふれる傑作短編映画『帰り道』
- 『グリーンブック』でゲイを守る用心棒を演じたヴィゴ・モーテンセンが、自らゲイの役を演じた映画『フォーリング 50年間の想い出』
- ショーや遊興の旅一座として暮らすクィアの生き様を描ききったベトナム映画『フウン姉さんの最後の旅路』
- 鬼才ライナー・ベルナー・ファスビンダー監督の愛と性をリアルに描いた映画『異端児ファスビンダー』
- ぜひ映画館で「歴史」を目撃してください――マーベル映画初のゲイのスーパーヒーローが登場する『エターナルズ』
- 等身大のゲイの恋愛を魅力的なキャストで描いたラブリーな映画『クロスローズ』
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