REVIEW
同性婚実現への思いをイタリアらしいラブコメにした映画『天空の結婚式』
イタリアのゲイカップルの結婚をめぐるドタバタを描いたコメディ作品です。あまり深く考えずに、気軽に観て笑って楽しんでください。クマ系の彼氏がセクシーです。

イタリアのゲイカップルの結婚をめぐるドタバタを描いたコメディ作品としてオフ・ブロードウェイでロングラン上演された『My Big Gay Italian Wedding』を、『天空の城ラピュタ』のモデルとなった村「チヴィタ・ディ・バニョレージョ」を舞台に映画化した作品です。レビューをお届けします。
原作はアンソニー・J・ウィルキンソンが書いた『My Big Gay Italian Wedding』で、2003年にオフ・ブロードウェイで上演され、ロングランヒットを記録しました。ニューヨークだけでなく、英国やシドニー、香港などでも上演され、同性婚運動の支援や若者の自殺防止プログラムのチャリティとしてメジャーなセレブが出演協力したこともありました。欧米のゲイコミュニティに愛された作品だったのです。
この舞台作品を、イタリア・コメディ映画界の旗手、アレッサンドロ・ジェノヴェージ監督が2018年、イタリアで有名な俳優サルヴァトーレ・エスポジトを主演に迎え、『天空の城ラピュタ』のモデルともなった観光地「チヴィタ・ディ・バニョレージョ」をロケ地に選んで映画化したのが『Puoi Baciare Lo Sposo(You can kiss the groom)』です。イタリアで大ヒットを記録し、こうして日本でも公開されることになりました。
アレッサンドロ・ジェノヴェージ監督は、「私たちが脚本を書き始めたとき、イタリアにはまだ同性婚を認める法律がなかったので、初稿はその状況を反映したものでした。なんとかして、私たちの国の不条理な状況を明らかにしたいという声明だったのです」と語っています。2016年にシビルユニオン(準同性婚)が認められ、脚本を修正したといいます。「日本の観客の皆さんがこの映画を熱く歓迎してくれることを願っています」(映画ナタリー「同性婚をテーマにした「天空の結婚式」監督コメント到着、本編の一部も公開」より)
<あらすじ>
ベルリンで俳優として活躍しているアントニオは、ある朝、愛するパオロにプロポーズ。結婚を決意した二人が直面する問題は、故郷に住む互いの親に了解を得ること。アントニオは復活祭にパオロや同居人を連れて故郷の村「チヴィタ・ディ・バニョレージョ」へ帰省し、カミングアウト。母・アンナには受け入れてもらえたものの、村長を務める父・ロベルトは「冗談だろ?」と一笑に付し、猛反対。アンナは「結婚を認めないなら離婚よ」とタンカを切り、息子たちのために最高の結婚式を計画する…。
思った以上にラブコメでライトなタッチの映画でした。
イタリアで同性婚が実現しない最大の理由は、バチカン(カトリックの総本山)の影響が強いことで、この映画でもきっとその辺りが描かれているのだろうな…と思ったのですが、いえいえどうして、飄々としたキャラの修道士さんがとてもゲイフレンドリーで、楽しませてくれました。アントニオの母・アンナの「肝っ玉母さん」っぷりも素敵でした。昔気質のアントニオの父親やパオロの母親だけは、頑なに結婚を認めなかったのですが、それすらもシリアスにはならない、イタリアのカラッとした陽気さ。ドナートというトリックスターをはじめヘンなキャラクターがたくさん登場し、アントニオの帰省は「珍道中」的な趣に。唐突なミュージカル展開もあり(面食らう方もいらっしゃるかもしれませんが、それもまた楽しということで)、唐突なアクション映画的な展開もあり、全体としてドタバタのコメディです。復活祭の村祭りの恒例行事でアントニオが十字架を背負ったイエスキリストの役を演じているシーンなどもきっと、イタリア人が観たらゲラゲラ笑える「あるある」なんだと思います。そういうイタリアン・ギャグがてんこ盛りな作品なのでしょう。
あまり深く考えず、観て楽しめると思います。
ゲイカップルを演じる主演の二人が、とてもいいです(この映画の要ですからね。要といえば、アントニオは要潤さんに似てるなぁと思いました)
特にパオロが、体重100kg超えであろうプロレスラーのようながちむち体型のヒゲクマ系というところが素晴らしい。個人的にはパオロ役のサルヴァトーレ・エスポジトのセクシーさを堪能する映画だな、と思いました(シャワーシーンあり)
これまでにもゲイ映画は山ほどありましたが、そのほとんどは若くて細身なイケメン(美少年、美青年)が主役です。現実世界のゲイは若くも細くもない方がたくさんいるのに(そっちのほうが多いくらいなのに)どうしてもBearタイプは置き去りにされがち(出ても脇役とか)で、Bearなキャラクターを主人公の「王子様」に据えているのは画期的です(もしかしたらそれすらもコメディ的な意図なのでは…と勘繰ってみたりもするのですが、ちゃんと「王子様」してるのでOKです)
最後に、予告編でも使われているこの映画のテーマソング「Don't Leave Me This Way」について。この曲はもともとR&BのHarold Melvin & The Blue Notesというグループが1975年にリリースした曲なのですが、1976年にテルマ・ヒューストンがカバーし、また、UKのゲイのシンガーソングライター、ジミー・ソマヴィル(当時はコミュナーズというユニット)が1986年にHi-NRGバージョンでカバーして大ヒットし、いずれもゲイアンセムとなりました。特にテルマ・ヒューストンのバージョンは、「こんなふうに去らないで。私を独りにしないで」と歌う切ないメロディが、エイズでパートナーや友人たちがバタバタと亡くなっていったゲイたちの心の琴線に触れ、80年代〜90年代のエイズ禍の時代の「非公式なテーマソング」とも称されています(オーストラリアでは90年代に「Don't Leave Me This Way – Art in the age of AIDS」という展覧会も開催されています)
この映画では、欧州での大人気のゲイアンセムとして、あくまでもカラッと、ハッピーに使われていますが、そういうバックボーンの曲であることを踏まえて聴くと、また違った感慨があるかもしれません。
天空の結婚式
原題:Puoi Baciare Lo Sposo(You can kiss the groom)
2018年/イタリア/90分/監督:アレッサンドロ・ジェノヴェージ/出演:ディエゴ・アバタントゥオーノ、モニカ・グェリトーレ、サルヴァトーレ・エスポジト、クリスティアーノ・カッカモほか
2021年1月22日(金)より YEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテほか全国順次公開
INDEX
- 家族的な愛がホモフォビアの呪縛を解き放っていく様を描いたヒューマンドラマ: 映画『フランクおじさん』
- 古橋悌二さんがゲイであること、HIV+であることをOUTしながら全世界に届けた壮大な「LOVE SONG」のような作品:ダムタイプ『S/N』
- 恋愛・セックス・結婚についての先入観を取り払い、同性どうしの結婚を祝福するオンライン演劇「スーパーフラットライフ」
- 『ゴッズ・オウン・カントリー』の監督が手がけた女性どうしの愛の物語:映画『アンモナイトの目覚め』
- 笑いと感動と夢と魔法が詰まった奇跡のような本当の話『ホモ漫画家、ストリッパーになる』
- ラグビーの名門校でホモフォビアに立ち向かうゲイの姿を描いた感動作:映画『ぼくたちのチーム』
- 笑いあり涙ありのドラァグクイーン映画の名作が誕生! その名は『ステージ・マザー』
- 好きな人に好きって伝えてもいいんだ、この街で生きていってもいいんだ、と思える勇気をくれる珠玉の名作:野原くろ『キミのセナカ』
- 同性婚実現への思いをイタリアらしいラブコメにした映画『天空の結婚式』
- 女性にトランスした父親と息子の涙と歌:映画『ソレ・ミオ ~ 私の太陽』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 女性差別と果敢に闘ったおばあちゃんと、ホモフォビアと闘ったゲイの僕との交流の記録:映画『マダム』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 小さな村のドラァグクイーンvsノンケのラッパー:映画『ビューティー・ボーイズ』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 世界エイズデーシアター『Rights,Light ライツライト』
- 『逃げ恥』新春SPが素晴らしかった!
- 決して同性愛が許されなかった時代に、激しくひたむきに愛し合った高校生たちの愛しくも切ない恋−−台湾が世界に放つゲイ映画『君の心に刻んだ名前』
- 束の間結ばれ、燃え上がる女性たちの真実の恋を描ききった、美しくも切ないレズビアン映画の傑作『燃ゆる女の肖像』
- 東京レインボープライドの杉山文野さんが苦労だらけの半生を語りつくした本『元女子高生、パパになる』
- ハリウッド・セレブたちがすべてのLGBTQに贈るラブレター 映画『ザ・プロム』
- ゲイが堂々と生きていくことが困難だった時代に天才作家として社交界を席巻した「恐るべき子ども」の素顔…映画『トルーマン・カポーティ 真実のテープ』
- ハッピーな気持ちになれるBLドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(チェリまほ)
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