REVIEW
ラグビーの名門校でホモフォビアに立ち向かうゲイの姿を描いた感動作:映画『ぼくたちのチーム』
Netflixで配信されているアイルランドのゲイ映画(コメディドラマ映画)です。長くないですし、難しくないですし、気楽に観れます。爽やかな感動をもらえる名作です。
Netflixで配信されているアイルランドのゲイ映画『ぼくたちのチーム』。長くないですし、難しくないですし、気楽に観れるコメディドラマ映画で、爽やかな感動をもらえる名作です。レビューをお届けします。
<あらすじ>
ラグビーの名門校である寄宿制男子高校に入ることになったネッドは、すぐにゲイだといじめられ、憂鬱な日々を送っていた。そんなある日、ラグビーのスター選手であるコナーが転校してくる。相部屋となったネッドとコナーは、文字通り壁を作っていたものの、やがて、音楽を通じて友情を深めていく。新任の国語教師シェリーの提案で二人はコンテストで弾き語りをすることになるが、ラグビーのコーチがそれを邪魔する。二人の友情を引き裂かれたネッドは…。
なぜこんな名作を今まで見逃していたんだろう…と後悔しました。2019年のラグビーW杯の時、この映画を観ようムーブメントが盛り上がり、100万人くらいに観てもらえたらどんなによかっただろう…と。
今からでも遅くないので、ぜひ多くの人たちに観ていただきたいです。「スポーツとLGBT」について語る方は必ず観るべきでしょう。教育的な側面も強いので全国の学校で上映されるべきだとも思います。
ストーリーは割とシンプルですが、ずっと世界中で問題になっている「スポーツ界のホモフォビア」ということが見事に、明快に描かれています。ラグビーのスピリットにふさわしいのはゲイを追い出すことなのか、チームメイトとして受け容れることなのか、一体どちらなんだ?と観る者に問います。そして、自分に嘘をつかず、正直に自分を表現することの大切さ、チームでこそ人は強くなれるということを、爽やかな感動とともに教えてくれます。
日本だとゲイの生徒は簡単に孤立無援状態に陥り、絶望してしまいそうなものですが、この映画では、立派な教育者である国語の先生が守り、励まし、導いてくれます(寄宿舎学校に赴任してくる国語の教師という意味では、『いまを生きる』のロビン・ウィリアムズを彷彿させるものがあります)。そして大人たちもまた、気づきを得て、成長していく、ゲイの生徒に教えられるのです。なんと成熟した社会でしょう。さすがは国民投票で同性婚を実現したアイルランドです。
もう一つ、この映画の特筆すべきポイントは、アンダー・トーンズ「My Perfect Cousin」、プリファブ・スプラウト「Desire As」、ハウスマーティンズ「Think For A Minute」、トラッシュキャン・シナトラズ「Obscurity Knocks」といった、UK ROCK(BRIT POP)の良質な音楽がたくさん使われていて、映画を印象的に、効果的に彩っているところです。ネッドのセリフの中に「modern life is rubbish(今の世の中はクソだから)」というセリフもあって(『Modern Life is Rubbish』はブラーのアルバムの名前)、UKロック・ファンをニヤリとさせます。音楽愛にあふれた映画でもあるのです。
原題は『Handsome Devil』ですが、ラグビーのスター選手・コナーを演じたニコラス・ガリツィンは万人受けするような文句なしのハンサム・ガイです。一応、シャワーシーンとかもあったりします。
国語の先生役のアンドリュー・スコットは、『パレードへようこそ』でミーティング会場となった書店のゲイの店主を演じていた方です(英国インディペンデント映画賞で最優秀助演男優賞を受賞しています)
94分と短めですし、とてもわかりやすいストーリーですし、いつでも気軽にご覧ください。
ぜひたくさんの方に観ていただきたいです。
ぼくたちのチーム
原題:Handsome Devil
2016年/アイルランド/94分/監督:ジョン・バトラー/フィオン・オシェイ、ニコラス・ガリツィン、アンドリュー・スコット、モー・ダンフォード、マイケル・マケルハットンほか
Netflixで配信中
INDEX
- 絶望の淵に立たされた同性愛者たちを何とか救おうと奮闘する支援者たちの姿に胸が熱くなる映画『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』
- スピルバーグ監督が世紀の名作をリメイク、新たにトランスジェンダーのキャラクターも加わったミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』
- 同性愛者を含む4人の女性たちの恋愛やセックスを描いたドラマ『30までにとうるさくて』
- イケメンアメフト選手のゲイライフを応援する番組『コルトン・アンダーウッドのカミングアウト』
- 結婚もできない、子どももできないなかで、それでも愛を貫こうとする二人の姿を描いたクィアムービー『フタリノセカイ』
- 家族のあたたかさのおかげで過去に引き裂かれた二人が国境を越えて再会し、再生する様を描いた叙情的な作品――映画『ユンヒへ』
- 70年代のゲイクラブ放火事件に基づき、イマの若いゲイと過去のゲイたちとの愛や友情を描いた名作ミュージカル『The View Upstairs-君が見た、あの日-』
- 何食べにオマージュを捧げつつ、よりゲイのリアルを追求した素敵な漫画『ふたりでおかしな休日を』
- ゲイの青年がベトナムに帰郷し、多様な人々と出会いながら自身のルーツを探るロードムービー『MONSOON モンスーン』
- アウティングのすべてがわかる本『あいつゲイだって ――アウティングはなぜ問題なのか?』
- ホモソーシャルとホモセクシュアル、同性愛嫌悪、女性嫌悪が複雑に絡み合った衝撃的な映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
- 世紀の傑作『RENT』を生んだジョナサン・ラーソンへの愛と喝采――映画『tick, tick… BOOM!:チック、チック…ブーン!』
- 空を虹色に塗ろう――トランスジェンダーの監督が世界に贈ったメッセージとは? 映画『マトリックス レザレクションズ』
- 人種や性の多様性への配慮が際立つSATC続編『AND JUST LIKE THAT... セックス・アンド・ザ・シティ新章』
- M検のエロティシズムや切ない男の恋心を描いたヒューマニズムあふれる傑作短編映画『帰り道』
- 『グリーンブック』でゲイを守る用心棒を演じたヴィゴ・モーテンセンが、自らゲイの役を演じた映画『フォーリング 50年間の想い出』
- ショーや遊興の旅一座として暮らすクィアの生き様を描ききったベトナム映画『フウン姉さんの最後の旅路』
- 鬼才ライナー・ベルナー・ファスビンダー監督の愛と性をリアルに描いた映画『異端児ファスビンダー』
- ぜひ映画館で「歴史」を目撃してください――マーベル映画初のゲイのスーパーヒーローが登場する『エターナルズ』
- 等身大のゲイの恋愛を魅力的なキャストで描いたラブリーな映画『クロスローズ』
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