REVIEW
愛と笑顔のハッピームービー『沖縄カミングアウト物語〜かつきママのハグ×2珍道中!〜』
二丁目の「九州男」のマスター・かつきさんのカミングアウトをめぐるドキュメンタリー映画『沖縄カミングアウト物語〜かつきママのハグ×2珍道中!〜』がついに公開! 笑顔だらけで、ちょっと涙の、愛情あふれる作品でした。

カラッと明るくて、こんなに笑顔が多いドキュメンタリーも珍しいと思いました(ドキュメンタリーってシリアスな社会問題を扱うことが多いので)。かつきさん、ほとんど笑ってるんじゃないでしょうか。幸せいっぱいって感じです。でも、そんな今の幸せに至るまでには、苦悩もあり、涙もありました。
この映画は、「二丁目ゲイバーマスターのカミングアウトストーリー」でかつきさんご自身がお店で語っていたお話(最初に仲のいい女の子の友達にカミングアウトして、それから、切羽詰まった状況で妹さんにカミングアウトして、そのあと、ゲイに理解がないと思っていた(TVに出てたトランスジェンダーの競艇選手のことを気持ち悪いと言っちゃうような)お兄さん…そのお兄さんが、かつきさんからのカミングアウトを受けて「ずっと気づかずにいてごめんね」と言って靖国通りで号泣したという話。そして、かつきさんの彼氏さんのお母さんの厳しい反応…)を、沖縄に飛んで、実際にカミングアウトを受けた友人たちや、妹さん、お兄さん、そしてご両親にお話を聞いていく旅を描いています(いわば先行するシリーズの「劇場版」なので、「二丁目ゲイバーマスターのカミングアウトストーリー」を先にご覧いただいたほうが、観る喜びが増すかもしれません)
それだけでなく、え?この人がこんなことしてくれるの?っていうサプライズがあって、ジーンときました。
「故郷を帰れる街に」と青森レインボーパレードの翔子さんは掲げましたが、那覇市は「帰れる街」だとみなさん思えたことでしょう。素晴らしい市長さんです。市庁舎に大きなレインボーフラッグがありました。ピンクドット沖縄(ホテルパームロイヤルNAHA)の高倉さんがつないでくれたようです(拍手)
自分自身が体験した本当のストーリーだからこその説得力やリアリティがあります。いろんな真実が詰まっています。
ゲイを理解しない人は"悪"というような決めつけ(ジャッジ)がなく、ありのままに事実を伝えているのもいいと思います。
大好きな家族にさえなかなかカミングアウトできないゲイの切実な心情を、ノンケさんたちもよくわかってくれるでしょうし(ゲイのみなさんの多くは共感を覚えることでしょう)、逆に、僕らのほうも、カミングアウトされたお母さんたちのなかには、こんなに激しい感情を抱き、こんなに苦しむ人がいるのか、と思い知らされたりします。共感する親御さんも多いことでしょう。言われたほうだって悩むし、つらいんだよっていう。
決して一方的じゃない、観る人の立場によっていろんな感じ方や受け止めがありえるところがいいと思います。
たとえいま親兄弟との関係がうまくいってない(もちぎさんのように親が全く理解を示さない)方や、誰にもカミングアウトできないと感じる方などは、もしかしたら、あたたかい沖縄で、この家族で、かつきさんのこのキャラだからこんなにうまくいって幸せでいられるんだって思うかもしれませんが、かつきさんも(ずっと笑顔で語ってはいますが)かつて、「この街では生きていけない」と思って逃げるように故郷を出て行ったわけだし、修羅場もくぐり、紆余曲折あって(決してうまくいく保証などなく)カミングアウトした結果、いまの奇跡があるんですよね。お兄さんが「覚悟」という言葉をおっしゃっていましたが、少なからず(家族と縁を切られるかもしれないというような)覚悟や勇気が要ったと思います。お母さんも理解するのにずいぶん時間がかかったとおっしゃっていました。
日頃から良好な関係を築けているかどうかっていうことも大切だし、「感謝の気持ち」を忘れないことが、より良い人生を生きる秘訣なんだなとあらためて思いました。
あの下地正晃さんが作ってくださった主題歌『いちばん悲しくて、いちばん嬉しい日』が、この映画のラストを、とても感動的なものにしてくれています。映画自体は笑顔あふれるハッピーな沖縄ムービーでしたが、下地さんの歌が、笑顔の奥の「心で泣いて」的な部分を素晴らしくエモーショナルに掬い上げていて、感情を揺さぶられます。この歌以外には考えられない、最高の主題歌です。
余談ですが、個人的には、お父さんの独特の佇まいが素敵だなあと感じました。偉そうにふんぞり返ったり、持ち上げられていないと不機嫌になったりするようなところが全くなくて、息子のことを「かわいいよ」と素直に言える人です(そう言えるお父さんがかわいい)
お兄さんが、髪型とか体型とか話し方とかキャラとか全然違うのに、眉毛と眉間のシワの入り方は見事にかつきさんとそっくりです(そう言えばかつきさんもお兄さんのことを「かわいい」って言ってました。かわいい家族ですね)
あと、キッチンのいろいろ貼り紙がしてあるスペースに、お客(映画を撮る人)の名前が大きく書かれていて(ちょっと字が違ってたりして)ほほえましかったです。
2時間近くあるとは思えない、あっという間に感じる映画です。外国の方、耳が聞こえない方などのために、英語と日本語の字幕がついていますので、いろんな方におすすめできます。
ぜひご覧いただき、SNSなどでお友達などにも知らせてあげてください。余裕があれば、投げ銭やクラウドファンディングにもご協力いただければ幸いです。
INDEX
- 「すべての愛は気色悪い」下ネタ満載の抱腹絶倒ゲイ映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』
- 『ボーイフレンド』のダイ(中井大)さんが出演した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』第2話
- 安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
- 映画上映会レポート:【赤色で思い出す…】Day With(out) Art 2024
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
- 一人のゲイの「虎語り」――性的マイノリティの視点から振り返る『虎に翼』
- アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
- ラベンダー狩りからエイズ禍まで…激動の時代の中で愛し合ったゲイたちを描いたドラマ『フェロー・トラベラーズ』
- 女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』