REVIEW
等身大のゲイの恋愛を魅力的なキャストで描いたラブリーな映画『クロスローズ』
この夏話題になった映画『クロスローズ』が、ついにYouTubeにアップされました。愛を込めてレビューをお届けします。

YouTubeで『すいか』や『TIME』といったゲイの恋愛を描いた素敵な短編映画や、たくさんのセクシーな動画を発表し、世界中にファンを獲得しているちくわスタジオが、RainbowEventsとコラボし、GOGOさんなどもキャストに加え、クラウドファンディングによって本格的な自主制作映画『クロスローズ』を製作、8月に2日間限定で、出演者にも会えるしライブもあるというファンミーティング的な上映イベントが開催されました。この夏のゲイシーンの話題のひとつだったと思います。その後、世界に向けて(有料で)オンライン配信されたのち、この11月3日にYouTubeに(編集を加えて)アップされました。
YouTube版は(カットされたシーンもあるそうですが)オープニング〜第1話、第2話、第3話〜エンディングという3つのパートに分けてアップされています。
第1話 Forget me not
オープニングのクオリティの高さはスゴいです。ちゃんとした映画です。それでいて、ものすごくゲイテイスト。素敵です。
第1話は、ゲイの世界にありがちなリアルなストーリー。せつなくなったり、笑えたり、幸せな気持ちになれたりするお話でした(現実にKO-SKさんクラスのイケメンと出会えることってそうそうないでしょうけど、そこは映画なので)。貫太さんとGOGOのKO-SKさん、それぞれの魅力が最大限に引き出されていたと思います。貫太さんは『すいか』の時からそうでしたが、「隣のお兄ちゃん」的な愛嬌があって、表情豊かで、ラブリーですよね。ゲイバーのシーンのお客さんたちのオネエっぷりもよかったです。
第2話 二番星
ゼンタイヒーロー「ゲンキマン」や熊蔵さんのセクシーさ(特に脇毛)に悩殺されます。お話は3本の中でいちばんシリアスで、せつない気持ちにさせられます。GOGO/DJとして活躍する(引く手あまたであろう)NORIさんというマッチョなイケメンがこの役をやっているところの意外性。あと、ちょい役の野球選手の役の方の肉感的な感じもよかったです(ちくわスタジオ作品全体に通じますが、「ムチムチは正義」というスタンスに貫かれていて、「よき」です)
第3話 バースデイプレゼント
みかんが食べたくなる作品です。YUKIYAさんのセクシーさと若さ、雄太さんのおじさん的なキャラの絶妙な掛け合いが生む「おかしみ」が微笑ましかったです。モテ筋な若い子って自由で奔放だったりするけどかわいいから許されるよね、的な。でもそんな若い子だって意外と深刻な問題を抱えてたりするかもよ、的なお話です。
そしてDICEさんの歌をフィーチャーしたエンディングには、『クロスローズ』を象徴するようなシーンが描かれます。
映画「クロスローズ」主題歌、Dice「Your film」プロモーション動画
エンディングで感動した方はぜひ、主題歌のPVをご覧ください。「Your film」という曲の世界観を表現しつつ、『クロスローズ』のアナザーストーリー的なイメージにもなっています。貫太さんって本当にいい表情を見せる方だなぁと、その魅力を再確認しました。
細かいところでのツッコミはいろいろあるかもしれませんが(ちなみに吹き込んだセリフと口の動きが合ってないのは、昭和の日活ロマンポルノのような雰囲気をねらって、あえてそうしてるんだそう)、ゲイによるゲイのためのゲイの映画として、とても良かったです。誰にでもわかる、そして多くの人が共感できるような作品。ひとりも置いてけぼりにしない、優しい映画です。ひとことで言うと、とってもラブリー。
ちくわ勢の熊さん系俳優と、RainbowEventsのGOGO系俳優がうまくミックスされ、ちくわフィルムの良さをそこなわずに、さらにファン層を広げるような映画になっていたと思います。
この夏、最もコロナ禍が深刻だった頃に、この映画のことがTwitterで話題になっていて、熱狂的なファンのツイートを目にしました。どこにも遊びに行けない閉塞的な状況のなかで、推しメンたちが出演する映画や上映イベントに元気をもらい、励まされたりした方も多かったのではないかと思います。
出演者の方のなかには「ちくわ」に入ったりしている方もいらっしゃいますし、ある意味、ゲイシーンの中の「会いに行けるアイドル」なんですよね。今回の映画によって、ちくわ俳優たちがスター性を高めることにつながったと思いますし、GOGOやビデオモデルだけじゃない、ゲイシーンでの新しい「スター誕生」の道が開かれたのではないでしょうか。
こちらの動画で映画製作の舞台裏が語られています。監督のまちょさんがプロデューサーのKohさん(RainbowEvents)とぶつかったりしながらも、力を合わせてやりきったという「青春」を感じさせるお話です。そんな「生みの苦労」や、お二人の「思い」が、きっと映画の端々にも表れていると思います。
以前、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭のコンペ(作品を募集して表彰する企画)で、ゲスト審査員のシモーヌ深雪さんが「(映画自体のクオリティよりも)心意気を感じさせる作品が観たい」とおっしゃっていましたが、『クロスローズ』はまさにそういう作品だったのではないでしょうか。
リプレゼンテーションということが最近、映画界でも叫ばれていますが、『クロスローズ』はBLとかノンケさんが作る映画には期待すべくもない、「これは僕だ」「こういう人身近にいる」と思えるようなゲイのキャラクター造形がなされている(というか、そういう人しか出てこない)ところが魅力だし、リプレゼンテーション的な意味でも最強だと思います。YouTube版は海外の方も含めて3日間で1万人超が観てくれていますが、そういうところが熱い支持を得る理由の一つであることは間違いないと思います。
現在、『プレップマン』という新作映画も作られているそうですが(楽しみですね)、今後もちくわらしいキャスティング、ちくわらしいテイストでぜひ、どんどん素敵な作品を撮り続けていただきたいです。
なお、12/18開催の「VITA」では『クロスローズ』のキャストの方々が再集結…という企画が進行中だそう。続報を待ちましょう。
INDEX
- アート展レポート:MORIUO EXHIBITION「Loneliness and Joy」
- 同性へのあけすけな欲望と、性愛が命を救う様を描いた映画『ミゼリコルディア』
- アート展レポート:CAMP
- アート展レポート:能村 solo exhibition「Melancholic City」
- 今までになかったゲイのクライム・スリラー映画『FEMME フェム』
- 悩めるマイノリティの救済こそが宗教の本義だと思い出させてくれる名作映画『教皇選挙』
- こんな映画観たことない!エブエブ以来の新鮮な映画体験をもたらすクィア映画『エミリア・ペレス』
- アート展レポート:大塚隆史個展「柔らかい天使たち」
- ベトナムから届いたなかなかに稀有なクィア映画『その花は夜に咲く』
- また一つ、永遠に愛されるミュージカル映画の傑作が誕生しました…『ウィキッド ふたりの魔女』
- ようやく観れます!最高に笑えて泣けるゲイのラブコメ映画『ブラザーズ・ラブ』
- 号泣必至!全人類が観るべき映画『野生の島のロズ』
- トランス女性の生きづらさを描いているにもかかわらず、幸せで優しい気持ちになれる素晴らしいドキュメンタリー映画『ウィル&ハーパー』
- 「すべての愛は気色悪い」下ネタ満載の抱腹絶倒ゲイ映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』
- 『ボーイフレンド』のダイ(中井大)さんが出演した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』第2話
- 安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
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