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REVIEW

ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』

7/8に1日限り上映される『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』。世界のスターダムにのし上がったジョージ・マイケルの光と影、音楽界の常識やルールを覆すべく自由を求めて闘い、真実の愛を希求し、苦悩・葛藤した姿が描かれた、本人のナレーションによる完璧なドキュメンタリーです。

ジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』

7月8日(金)、1日限り上映されることが決定した『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』のレビューを、ジョージ・マイケルの誕生日である6月25日にお届けします。世界のスターダムにのし上がったジョージの光と影が、音楽界の常識やルールを覆すべく自由を求めて闘い、真実の愛を希求し、苦悩・葛藤した姿が描かれ、本人のナレーションによって完璧なドキュメンタリー映画になっています。ファンの方はもちろん、若い方などもぜひ、不世出のゲイのスーパースターの生涯に触れていただきたいです。
(文:後藤純一)

 
 1963年6月25日、ロンドンに生まれたジョージ・マイケルは、幼なじみのアンドリュー・リッジリーと1981年にワム!を結成、80年代前半に「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」「フリーダム」「ケアレス・ウィスパー」「ラスト・クリスマス」などを大ヒットさせ、世界的なポップスターになりました(83年には『ザ・トップテン』に出演、85年には初来日公演を果たし、日本でもかなりの人気でした)。86年にワム!を解散して以降、ジョージはソロに転向し、ソロデビューアルバム『FAITH(フェイス)』は2500万枚の大ヒットを記録し、グラミー賞のアルバム・オブ・ザ・イヤー、(白人として初めて)アメリカン・ミュージック・アワードの最優秀R&B男性アーティストと最優秀R&Bアルバムも受賞、そのほかブリット・アワードやMTVアワードなど数々のアワードに輝き、世界的なビッグ・アーティストとして評価されるようになりました。2枚目の『LISTEN WITHOUT PREJUDICE Vol.1』はワム!時代の虚像と訣別するような「Freedom 90」や「Praying For Time」「Mother's Pride」といったプロテスト・ソングを含むメッセージ性の強いアルバムで、本国では前作を凌ぐ売上を記録しています。3枚目のアルバム『Older(オールダー)』は、亡くなった恋人アンセルモに捧げる「Jesus to a Child」をはじめ2年間でリリースされたアルバムからのシングル曲が英国で全てトップ3入りという記録を打ち立て、全世界で1500万枚超というセールスを記録しています。アレサ・フランクリンやホイットニー・ヒューストン、クイーン、エルトン・ジョン、トニー・ベネットなど大御所アーティストとのデュエットも話題になりました。2012年ロンドン五輪の閉会式では「Freedom'90」と「White Light」を歌いました。30年超にわたるキャリアでの通算売上枚数は1億2000万枚を超えています。

 若い方の間ではワム!がどれだけ人気だったかということや、ボーイズバンド(アイドル)出身でソロのシンガーソングライターとして評価され、セールスもクオリティもトップクラスのアーティストとしてスターダムに上りつめたという、世界的に見ても稀有な成功を収めたということなどもあまり知られていないのでは?と思うのですが、そんな音楽界のレジェンドであるジョージ・マイケルというアーティストが、ゲイであり、最愛の恋人をエイズで失うという経験をしてきた人であり、ハッテントイレで逮捕されたけどそれを逆手にとったPVを発表したり、恥じることなくゲイとしてのPRIDEを貫いた偉人であるということをぜひ知っていただきたいと思います。



 この映画では、エルトン・ジョンやスティービー・ワンダー、トニー・ベネット、メアリー・J・ブライジ、リアム・ギャラガー、マーク・ロンソンといった大物アーティストが登場し、ジョージの音楽の才能を口々に称えている一方、ジョージ・マイケル自身がナレーションをつとめながら、若くして名声を手に入れた者にありがちな孤独感に悩まされ、疲れきってしまったり(あるときステージ上で大歓声を浴びながら涙を浮かべ、「無理だと思った」といいます)、あれだけ音楽の才能に恵まれていながら、自分にはマドンナやマイケル・ジャクソンのような魅力やカリスマ性がないと悩んでいたり、ということが正直に語られています。ジョージはアルバムのPRの仕事の厄介さにほとほと嫌気がさし、レコード会社と闘ったり、「Freedom'90」では、本人が一切登場しない代わりにナオミ・キャンベルやケイト・モスやシンディ・クロフォードら5人のスーパーモデルがリップシンクするという革新的であまりにもゴージャスなPVを発表したりしました(「Too Funky」でもランウェイをフィーチャー。衣装はティエリー・ミュグレーというゴージャスさでした)。自由を求め、音楽業界を相手に立ち上がったのです。 
 
 もう一つ重要なのは、ジョージ・マイケルがゲイとしての経験を、真実を語っていることです。最初の恋人だったアンセルモとの出会いや、天使のようなアンセルモがどれだけジョージにとって大切な人だったかということ、そして、そんな幸せが長く続かず、彼がHIVに感染していることがわかり、ジョージ自身も感染しているかもしれないという不安を抱えながら、クイーンのフレディ・マーキュリーの訃報にショックを受け、号泣し…というくだりは、ゲイとしてとても他人事とは思えません。身につまされます。フレディの追悼コンサートでジョージが熱唱した「Somebody to Love」はそれこそ伝説として語り継がれているくらい素晴らしかったのですが、このライブにジョージがどれだけ思いを込め、心血を注いだかということも描かれています。
 同時に、【追悼記事】ミュージシャンとしてもゲイとしても破格の素晴らしさだったジョージ・マイケルでもお伝えした、98年のLAのハッテントイレ逮捕事件と、そのことを恥じるのではなく、『OUTSIDE』のPVでこの事件のことを自らパロディにしてみせたような堂々とした姿(PRIDE)にも感銘を覚えます。実はその後、ロンドンでも似たような事件を起こすのですが(劇中に出てくるハムステッド・ヒースというのはロンドン北部のハッテン公園のことです)、英国のコメディ番組にカメオ出演して自らそのネタで笑いをとったりしています。
 映画では特に語られていませんが、ジョージ・マイケルはカムアウトした年にHIVに感染した若者6人を追ったドキュメンタリーの製作に参加したり、HIV/エイズ基金「テレンス・ヒギンズ・トラスト」の主要な支援者にもなっています(詳細はこちらをご覧ください)
 また、これも映画では特に語られていませんが、2011年末に急性肺炎で入院し、一時は危篤だと伝えられたのですが、その際、アメリカの超保守派キリスト教団体が「ジョージが死んでしまうように」と“祈って”(呪って)いたというひどい話もありました(詳細はこちら)。忌まわしいホモフォーブ(同性愛嫌悪者)に負けず、神のご加護もあり、奇跡的な回復を遂げたジョージでしたが、2016年12月25日(全世界に「ラスト・クリスマス」が流れている日)、地上での使命を終え、天に召されました。『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』の編集を終えた数日後のことでした――。
 
 ミュージシャンとしてもゲイとしても破格の素晴らしさだったジョージ・マイケルというレジェンドの生涯を、自身も監督しながら完璧な状態で描いた最後のドキュメンタリーを、ぜひ劇場でご覧ください。きっとジョージ・マイケルの素晴らしい音楽の数々に酔いしれ、もう一度その音楽を聴き直したくなることと思います。

 7月8日(金)はぜひ『ジョージ・マイケル:フリーダム<アンカット完全版>』へ。入場者限定特典として、劇場にて以下のようなポストカードがプレゼントされるそうです(無くなり次第終了となります)



(なお、映画が上映される7月8日、1996年発表の名盤Older(オールダー)』のリミテッド・コレクターズ・エディションもリリースされるそうです)

 

ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>
原題:George Michael Freedom Uncut
2022年製作/119分/イギリス・アメリカ合作/監督:ジョージ・マイケル デビッド・オースティン/出演:ナオミ・キャンベル、クリスティ・ターリントン、シンディ・クロフォード、タチアナ・パティッツ、リンダ・エバンジェリスタ、ケイト・モス、スティービー・ワンダー、エルトン・ジョン、ナイル・ロジャース、マーク・ロンソン、リアム・ギャラガー、トニー・ベネット、メアリー・J・ブライジ、リッキー・ジャーベイス、ジェームズ・コーデン、ジャン=ポール・ゴルチエほか
7月8日(金)、1日限り上映(上映館はこちら

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