REVIEW
父娘の葛藤を描きながらも後味さわやかな、美しくもドラマチックなロードムービー『海に向かうローラ』
映画『海に向かうローラ』は、トランスジェンダーの娘と父親の葛藤を描きながらも後味さわやかな、美しくもドラマチックな素敵ロードムービーです。「EUフィルムデーズ202」で無料オンライン配信されています。

とてもショッキングな出来事があった日、ちょうどオンライン上映が始まっていたので、気持ちを落ち着かせようと思い、観たのですが、予想以上に素敵な、いい映画でした。オススメです。レビューをお届けします。(後藤純一)
母の遺灰を撒くために、父親と海岸へと旅立つローラ。しかし彼女はかつて、少年“リオネル”だった──。『Even Lovers Get the Blues (2016)』でナミュール国際映画祭・批評家賞を受賞したローレント・ミケーリ監督が、外見の裏側にあるものを描く、繊細なロードムービー。父親のフィリップは、“息子”がトランスジェンダー女性であるという事実を受け容れられず、ローラと衝突してしまうのですが、過去の記憶や、道中での出来事を経て、ゆっくりと二人の関係が再構築されていくというのが、この映画の見どころです。「EUフィルムデーズ202」という映画祭で、7月8日〜31日にオンライン配信されます。
<あらすじ>
ローラは18歳のトランスジェンダーの少女。唯一の友人であるサミールとシェルターハウスで暮らしている。ある日、母親が亡くなってしまったが、父親のフィリップは葬儀にローラを参列させようとしない。フィリップはローラのことを恥じ、彼女がもう”リオネル”ではない現実を受け入れることができない。5週間後に性別適合手術が予定されているローラ。その費用は母親が内緒で出してくれるはずだったが、彼女の手元にはそれもない。そればかりか母親の遺灰を盗んでしまうローラ。フィリップは「ベルギーの北海沿いの砂丘に散骨してほしい」という妻の希望を叶えるために、その遺灰を取り戻す。しかしローラは母とは決して離れないと誓う。やがて、父と娘は共に海岸に向かって車を走らせることになる。母の遺灰が入った壷と、問題のあった過去を抱える二人。悲しみと、互いの想いに向き合う時が来る…。




これまでトランス女性を描いた映画って、『わたしはロランス』しかり、『Girl/ガール』しかり、『ナチュラルウーマン』しかりなのですが、重かったり、痛かったり、苦しかったりする作品が多かったと思うのですが、このイマドキの18歳のトランス女子とその父親の旅を描いた映画は、確かにシビアな現実も描かれているけど、さわやかな後味でした。主人公がちゃんとトランス女子だったのもよかったです。
父親の戸惑いや混乱、子どもが「困らせる」「理解を超えてる」と正直に心情を吐露するシーンも描かれていて、実は世間の多くの人々はこの父親のフィリップに感情移入したかもしれない、この映画の本当の主人公はフィリップだったかもしれないとも思いました。
(ちなみに父親役を演じたのは、ミヒャエル・ハネケの映画『ピアニスト』でカタブツの年上女性(イザベル・ユペール)をメロメロにしてしまう美青年を演じていたブノワ・マジメルです。もうこんな父親の役をやれるくらいになったんだなぁ…という感慨を覚えました)
トランスのことなど理解できない、物分かりの悪いフィリップと、父に突っかかってばかりいるローラが、二人だけだったら煮詰まってしまい、ケンカ別れしていただろうと思うのですが、周囲の人間関係(社会)のなかで変わっていくのもよかったです。目の前で子どもが差別や暴力に直面しているのを見て、守ろうとしない父親はいないですよね。
個人的にとても好きだったのは、娼館のシーンです。慈愛と優しさに満ちた、安らぎの場でした。女性たちのシェルターでもありました。
あまり出演時間は長くないのですが、サミールという、アラブ系の、男の子と一緒にいたところを見つかって親に殺されそうになったゲイの男の子が親友として出演しているところもよかったです。もう一人の黒人の男の子も同様の境遇だと思います。
映画的なシーンがたくさんありました。音楽もすごくいいです。
稲妻が光る夜道でマリア・カラスの「歌に生き恋に生き」(『トスカ』)が鳴り響くシーンとか、シビれます。カルチャー・クラブの「カーマは気まぐれ」とか、トランスジェンダーのシンガー、アノーニの歌も使われていました。
監督のローレント・ミケーリも若い方で、イマドキの若者のライフスタイルや空気感をよく描いていたと思いますし、もともと俳優だった演劇人のようで、ドラマチックな演出が光っていましたし、外見ではわからない人間の真実をとてもよく描いていたと感じました。
とても素敵な映画。名作だと思います。「EUフィルムデーズ202」で無料でオンライン配信されていますので、ぜひ。
海に向かうローラ
原題:Lola vers la Mer
2019年/ベルギー、フランス/90分/監督:ローレント・ミケーリ/出演:ミヤ・ボラルス、ブノワ・マジメル
「EUフィルムデーズ202」にてオンライン配信。視聴方法についてはこちらをご覧ください」
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