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REVIEW

獄中という極限状況でのゲイの純愛を描いた映画『大いなる自由』(レインボー・リール東京2022)

戦後のドイツの刑務所を舞台に、ゲイであるがゆえに何度となく収監され、自由や尊厳を奪われてきた主人公・ハンスの、極限状況での愛の物語。ハンスにとって「大いなる自由」とは…?

獄中という極限状況でのゲイの純愛を描いた映画『大いなる自由』(レインボー・リール東京2022)

 第30回レインボー・リール東京、スパイラルホールで土曜の夜に上映されたのが、『大いなる自由』。凄い映画でした。第74回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の審査員賞を受賞した本作は、世界各国の映画祭で上映され、話題を呼んだ作品です。
 
<あらすじ>
戦後ドイツ、同性愛者であることを理由にハンスは繰り返し刑務所へと送られる。当時、刑法175条によって男性同性愛が禁止されていたからだ。刑務所ですら「変態」と蔑まれるが、そんななかでも絶望することなく、愛する自由を探し求めていく…。






 ドイツ、ゲイ、極限状況での愛といえば、『BENT』です。マーティン・シャーマンの作による戯曲(舞台劇)で、ナチス・ドイツによって迫害された同性愛者たちの悲劇を描いた作品です。互いに見つめ合うことも触れることも許されない収容所の塀の中で、マックスとホルストという2人のゲイが、同じ方向を向いてただ言葉を交わすだけで愛しあう、そのシーンの崇高さ、せつなさ、究極の愛のかたちが世界に衝撃を与えました。1997年に映画化もされ、ミック・ジャガーがドラァグクイーンとしてゲスト出演したことも話題を呼びました。『大いなる自由』は『BENT』と地続きの物語です。
 ナチスの強制収容所に入れられていたゲイたちは、仮に生き延びたとしても、ユダヤ人やロマの人たちとは異なり、解放されることなく、別の刑務所に送られたのです。刑法175条(男どうしの性行為を禁じる法)が適用されたためです。悪名高き刑法175条は、東ドイツでは1968年、西ドイツでは1969年に撤廃されるまで、ゲイたちを苦しめ続けました。
 
 この映画の主人公のハンスは、強制収容所の地獄から生還したあとも、刑務所で暮らさなければならず、出たあともハッテントイレで逮捕され、人生のほとんどを刑務所で過ごしてきました。ゲイであることは決して罪ではなく、逮捕されるのは不条理でしかないのですが、ハンスはただ淡々と運命を受け入れ、獄中で生き、愛することもあきらめません。

 映画は、3つの時代を行ったり来たりして、少々複雑な構成になっているのですが、時系列を整理すると、こんな感じになります。
 1945年。新入りの罪名が「刑法175条」であることを知った同室のビクトールは、ハンスを「変態」と罵り、「触ったら殺す」と脅します。獄中の他の男たちも、ハンスには決して近づこうとしません。しかし、あるとき、ハンスの腕に強制収容所で彫られた番号の刺青があるのを見て、ビクトールは不憫に感じ、(見つかったら懲罰房行きなのですが)それを消そうとしてくれます。そこから二人の間に友情が芽生えます。孤立無援状態だったハンスは、ビクトールのおかげで絶望することなく、生きていけるようになるのです。
 1952年。トイレでハッテンして逮捕されたハンスは、再び刑務所に戻ってきます。今度はイケメンのゲイも一緒です。彼に恋していたハンスですが、悲劇が二人を引き離します…。ハンスの悲しみを、ビクトールが受け止めます(目頭が熱くなるような、男気といいますか、人間愛が描かれていました)。ハンスはその温かさに感謝します。
 1968年。ハンスは再びハッテントイレで逮捕され、刑務所に戻ってきます。今度は教師をしているイケメンが一緒です。ビクトールは教師なんてみんな○○だと忠告するのですが(差別的なので伏せます)、ハンスは耳を貸さず、愛に邁進します。そして、ビクトールから教わった「男気」「粋な優しさ」「人間愛」を発動させるのです…。

 このように書いてきて気づいたのですが、ハンスはおそらく、シャバではなく、刑務所の中で、刑務所でこそ、「人生において大切なものは何か」ということを学んできたのだと思います(なんということでしょう…)。それはとりもなおさず、たまたま同室だったビクトールという人のおかげです。
  
 終盤、映画は、ダイナミックに動きます。
 詳しく書いてしまうと結末に触れてしまう(ネタバレになってしまう)ので書きませんが、「自由」ってこういうことか!と思わせてからの「純愛」という、ちょっとスゴい展開でした。どんでん返しといいますか、数分で映画のテーマ(主題)がガラリと変わり、そうきたか…!と。しみじみとした余韻があり、深く感動させられました。
 
 たびたびセックスが描かれていますが(冒頭からしてトイレのハッテンのシーンです)、ゲイが“セックスに溺れる快楽主義者”として描かれているわけでは決してなく(映画『トム・オブ・フィンランド』で、戦時中にハッテンが命がけの切実な行為であったことが描かれていたのと同様です)、どちらかというと愛と不可分な行為として描かれていました。獄中のような自由が制限された環境では、なおさらそのことが際立つのです。
 正直、ハッテン場のシーンで泣いたのは生まれて初めてです。『FLEE』のゲイクラブのシーンも号泣モノでしたが、この映画でのハッテン場のシーンは、『FLEE』とは違った意味で泣けました。しかし、そのシーンで流した涙は、すぐに引いてしまいました。愛ゆえに…。
 
 主人公を演じるのは『ヴィクトリア』(2015)や『未来を乗り換えた男』(2018)でドイツ映画になくてはならない存在となり、『希望の灯り』(2018)でドイツ映画賞主演男優賞に輝いたフランツ・ロゴフスキ。単にゲイを演じるというだけでなく、ゲイであるがゆえに逮捕・収監されることの不条理や、刑務所という極限状況下で希望を失わずに愛を求めていくという難しい役を見事に演じていたと感じました。
 
 獄中でのゲイの愛を描いた名作といえば、もう一つ、『蜘蛛女のキス』がありますね(主演のウィリアム・ハートが今年亡くなりましたね…R.I.P.)。映画だけでなく、日本でも何度となく舞台化されている人気作です。『大いなる自由』と比べながら観てみるのもよいと思います。

 愛とは何か、自由とは何かということを考えさせる、実に深みのある作品だった『大いなる自由』。映画祭のおかげで観ることができて本当によかったです。
 今後、日本で上映される機会があるかどうか…ちょっとわかりませんが、もし上映されることになったら、ぜひ観てください。

 
大いなる自由
英題:Great Freedom
原題:Große Freiheit
2021年/オーストリア=ドイツ合作/116分/監督:セバスティアン・マイゼ

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