REVIEW
キース・ヘリングの生涯を余すことなく描いたドキュメンタリー映画『キース・ヘリング~ストリート・アート・ボーイ~』
キース・ヘリングの生涯を余すことなく描いたドキュメンタリー映画『キース・ヘリング~ストリート・アート・ボーイ~』の配信がスタートしました。必見!です。
80年代ニューヨークのレジェンドであり、ポップカルチャーとファインアートの世界に革命をもたらしたキース・ヘリング。キース自身やご両親、友人などの未公開インタビューや、キース・へリング財団のみが保有する初公開の記録によって、その生涯の真実に迫るドキュメンタリーが、この『キース・ヘリング~ストリート・アート・ボーイ~』です。
1989年、キースはエイズ発症の診断を受けた後、作家で美術評論家のジョン・グルーエンに伝記の執筆を依頼し、その年の夏、5日間かけてグルーエンが聞き取りを行ない、キースは包み隠さず自身の人生について語りました。このときのインタビューを中心に、キースが若かりし頃を過ごした退屈なペンシルべニア時代から、神話として語り継がれるニューヨークのゲイクラブ時代まで、エイズ危機のさなかの切実な状況に触れながら、同時代を共に過ごした友人、家族、製作に関わったコラボレーターたちとの出会いと交流、アートへの姿勢、生き様が描かれます。
キースがアーティストとしていかに天才的だったかということ、エリート主義の「象牙の塔」的で白人中心のアート界に反発し、若者や黒人文化に共鳴し、反骨精神の表現として地下鉄構内や壁にグラフィックを描いていったこと、24歳で個展を開き、突然大物になり、世界中から依頼が舞い込み(83年に日本にも来ています)、アメリカン・ドリームを体現した時代のスターになり…といった流れにはゾクゾク、ワクワクさせられます。
同時に、ゲイであること、サウナで出会ったパートナーのファン・デュボースのこと、『パラダイス・ガラージ』の伝説的なパーティのこと(マドンナが歌い、ダイアナ・ロスも来ました)、そしてHIV/エイズのこともしっかり描かれています。勇敢にも、エイズを発症したことをカムアウトし、「全身全霊で今を生きる」「これは自分に与えられた使命だ」と言って、HIVチャリティの活動などにも携わり、最期の時まで製作の手を止めなかったキースの生き様には、誰もが感動せざるをえないでしょう。
ご両親は今でもキースの作品を身につけたり、家に飾ったりしながら暮らしているのですが、キースの思い出を語る姿にも涙させられます。
1990年に製作された『キース・ヘリング ドローイング・ザ・ライン』は30分くらいで、たぶんアートの部分に焦点を絞っていると思うのですが、この『キース・ヘリング~ストリート・アート・ボーイ~』は53分という時間で(それでも短く感じました)キースの生涯をより丁寧に、セクシュアリティについてもきちんと描いた決定版的なドキュメンタリーだと思います。
作品は知っているけどキース・ヘリングという人のことはよく知らない…という方など、ぜひご覧いただければと思います。
キース・ヘリング~ストリート・アート・ボーイ~(字幕版)
2020年/イギリス/53分
監督:ベン・アンソニー
Amazon Prime Video、U-NEXT等で配信
INDEX
- 40歳のゲイの方が養護施設で育った複雑な生い立ちの20歳の男の子を養子に迎え入れ、新しい家族としての生活を始める姿をとらえたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』
- 貧しい家庭で妹の面倒を見る10歳のゲイの男の子が新しい世界を切り開こうともがき、成長していく様を描いた映画『揺れるとき』
- ゲイコミュニティへのリスペクトにあふれ、あらゆる意味で素晴らしい、驚異的な名作『エゴイスト』
- ドラァグクイーンの夢のようなロマンスを描いたフランス発の短編映画『パロマ』
- 文藝賞受賞、芥川賞候補の注目作――ブラックミックスのゲイたちによる復讐を描いた小説『ジャクソンひとり』
- ドラァグクイーンによる朗読劇『QUEEN's HOUSE〜あなたの知らないもうひとつの話〜TOKYO』
- 伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』
- 謎めいたゲイ・アーティストの素顔に迫るドキュメンタリー映画『アンディ・ウォーホル:アートのある生活』
- 『ボヘミアン・ラプソディ』の感動再び… 映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
- 近年稀に見る号泣必至の名作ゲイ映画『世界は僕らに気づかない』
- ぼくらはシンコイに恋をする――『シンバシコイ物語』
- ゲイカップルやたくさんのセクシャルマイノリティの姿をリアルに描いた優しさあふれる群像劇『portrait(s)』ほか
- TheStagPartyShow movies『美しい人』『キミノコエ』
- Visual AIDS短編集『Being & Belonging』
- これ以上ないくらいヘビーな経験をしてきたゲイの方が身近な人たちにカミングアウトする姿を追ったドキュメンタリー映画『カミングアウト・ジャーニー』
- 料理を通じて惹かれ合っていく二人の女性を描いたドラマ『作りたい女と食べたい女』
- ハリー・スタイルズがゲイ役を演じているだけが見どころではない、心揺さぶられる恋愛映画『僕の巡査』
- 劇団フライングステージ 第48回公演『Four Seasons 四季 2022』
- 消防士として働く白人青年と黒人青年のラブ・ストーリーをミュージカル仕立てで描いたゲイ映画『鬼火』(TIFF2022)
- かつてステージで華やかに活躍したトランス女性たちの人生を描いた素敵な映画『ファビュラスな人たち』(TIFF2022)
SCHEDULE
- 09.20PINKHOUSE X vol.157 -25th ANNIVERSARY PARTY-
- 09.21DAYDREAM
- 09.21ジューシィー!
- 09.21デブも専ナイト -15th Anniversary-
- 09.21前髪系ナイト in OSAKA