REVIEW
かつてステージで華やかに活躍したトランス女性たちの人生を描いた素敵な映画『ファビュラスな人たち』(TIFF2022)
東京国際映画祭で上映中のイタリア映画『ファビュラスな人たち』は、かつてステージでショーをしていた華やかなトランス女性たちの人生を描いた笑いあり涙ありの作品です。
東京国際映画祭の季節が到来しました。ものすごくたくさんの映画が上映されるなかで、毎年何本かはLGBTQに関連する作品が入っていますが、今回上映されるLGBTQ作品のなかでおそらく最も注目度が高いのが、この『ファビュラスな人たち』ではないかと思います。
イタリア映画『ファビュラスな人たち』は、かつてステージでショーをしたりして世間で注目を浴びた華やかなトランス女性たちの物語で、彼女たちの「ファビュラス」な人生や生き様が生き生きと描かれた映画です。コミカルだったりゴージャスだったりするだけでなく、トランスジェンダーとしての生きづらさやシリアスな現実も描かれていて、観客の涙を誘います。
2016年の東京国際映画祭で観客賞を受賞した『ダイ・ビューティフル』を思わせる場面もあり、ちょっとファンタジックな展開もあって、とても素敵な作品でした。
<あらすじ>
舞台はイタリアの田舎の、トランスジェンダーの女性たちが暮らすヴィラ。住人たちは、意に反して男装で埋葬された友人の遺志を叶えようとするが…。
上映後に監督のロベルタ・トーレさんのトークショーがありました。この映画に登場するトランス女性のキャストは全員、本物のトランス女性だそうです(まずそこが素晴らしいですね)。そのなかの一人、ポルポラ・マルカシャーノさんが自らの人生やトランスジェンダーが直面する現実について本を書いていて、その本を読んで感銘を受けた監督さんが彼女に会い、ほかのトランス女性の方たちも紹介してもらい、どんな人生を送ってきたかということをいろいろ聞いて、この映画が誕生したんだそうです(トークの詳細はこちら)。なお、24日の上映の後のトークショーでは、「トランスする人々に問題があるのではなく、それをおかしなこと、まちがっているのだと捉える人たちに問題がある」とおっしゃっていたそうで、素晴らしいです(詳細はこちら)
日本ではトランスジェンダーが暴行を受けたり殺されたりということはほとんどないですが、海外ではとても深刻な状況があり、イタリアも例外ではないということ、また、ブラジルの『ディヴァイン・ディーヴァ』を観たときもそうでしたが、豊胸手術を受けているわけではない方もいて、ひとくちにトランスジェンダーと言っても様々だということもあらためて実感しました。
ドラァグクイーンと同様、なんて素敵な衣装…って、目をキラキラさせながら観て楽しめるような作品であり、同時に、トランス女性の苦悩にも寄り添い、涙を誘う、温かくも優しい映画でした。
ファビュラスな人たち
原題:Le favolose
2022年/イタリア/74分/監督:ロベルタ・トッレ/出演:ポルポラ・マルカシャーノ、ニコール・デ・レオ、ソフィア・メヒエル
東京国際映画祭で10/31にも上映。チケットは公式サイトにて発売中
INDEX
- トランスジェンダーの歴史とその語られ方について再考を迫るドキュメンタリー映画『アグネスを語ること』(レインボー・リール東京2022)
- 「第三の性」「文化の盗用」そして…1秒たりとも目が離せない映画『フィンランディア』(レインボー・リール東京2022)
- バンドやってる男子高校生たちの胸キュン青春ドラマ『サブライム 初恋の歌』(レインボー・リール東京2022)
- 雄大な自然を背景に、世界と人間、生と死を繊細に描いた『遠地』(レインボー・リール東京2022)
- 父娘の葛藤を描きながらも後味さわやかな、美しくもドラマチックなロードムービー『海に向かうローラ』
- 「絶対に同性愛者と言われへん」時代を孤独に生きてきた大阪・西成の長谷さんの人生を追った感動のドキュメンタリー「93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」
- アジア系ゲイが主役の素晴らしくゲイテイストなラブコメ映画『ファイアー・アイランド』
- ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』
- プライド月間にふさわしい名作! 笑いあり感動ありのドラァグクイーン演劇『リプシンカ』
- ゲイクラブのシーンでまさかの号泣…ゲイのアフガニスタン難民を描いた映画『FLEE フリー』
- 男二人のロマンス“未満”を美味しく描いた田亀さんの読切グルメ漫画『魚と水』
- LGBTQの高校生のリアリティや喜びを描いた記念碑的な名作ドラマ『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
- LGBTQユースの実体験をもとに野原くろさんが描き下した胸キュン青春漫画とリアルなエッセイ『トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー』
- 台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧し、日本でも必ず実現できるはずと確信させてくれる唯一無二の名著『台湾同性婚法の誕生: アジアLGBTQ+燈台への歴程』
- 地下鉄で捨てられていた赤ちゃんを見つけ、家族として迎え入れることを決意したゲイカップルの実話を描いた絵本『ぼくらのサブウェイベイビー』
- 永易さんがLGBTQの様々なトピックを網羅的に綴った事典的な本『「LGBT」ヒストリー そうだったのか、現代日本の性的マイノリティー』
- Netflixで今月いっぱい観ることができる貴重なインドのゲイ映画:週末の数日間を描いたロマンチックな恋愛映画『ラ(ブ)』
- トランスジェンダーのリアルを描いた舞台『イッショウガイ』の記録映像が期間限定公開
- 宮沢賢治の保阪嘉内への思いをテーマにしたパフォーマンス公演「OM-2×柴田恵美×bug-depayse『椅子に座る』-Mの心象スケッチ-」
- 絶望の淵に立たされた同性愛者たちを何とか救おうと奮闘する支援者たちの姿に胸が熱くなる映画『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』
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