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REVIEW

Visual AIDS短編集『Being & Belonging』

12月3日(土)、二丁目のコミュニティセンターaktaで、「Visual AIDS」による短編映画集『Being & Belonging』の上映会+ディスカッションが開催されました。同日、ノーマルスクリーンのサイトで『Being & Belonging』のオンライン配信も始まりましたので、ぜひご覧ください。

Visual AIDS短編集『Being & Belonging』

 NYのアート団体「Visual AIDS」は1989年、エイズ危機へのリアクションとして、喪に服したり何か行動をするようアート界に呼びかける「Day With(out) Art」というイベントを始めました。以後もこの取組みは続けられ、毎年新たな映像作品が世界エイズデーの時期に上映されているのですが、日本でも、ノーマルスクリーンが8年前から「Day With(out) Art」の映像作品を上映する会を開催してくださっています。今年は多様な7本の短編が集められた『Being & Belonging』という作品で、NYのホイットニー美術館でプレミアを迎えた後、世界エイズデーの12月1日から世界100ヵ所以上で上映されています。そのなかに日本が含まれること、ノーマルスクリーンが日本語字幕をつけて上映してくれることに意義を感じますし、3年ぶりに上映会が二丁目のコミュニティセンターaktaでリアル開催され、大盛況だったことも本当によかったと思います。
 『Being & Belonging』のレビューをお届けします。
 
Los Amarillos(監督:Santiago Lemus and Camilo Acosta Huntertexas)
 南米のコロンビアでは、抗HIV薬として何種類かのジェネリック薬が使われているのですが、その副作用の一つとして、黄疸が表れることがあるそうです。この作品は、黄色という色をめぐる詩(例えば古代では豚にマンゴーの葉を食べさせ、そのおしっこを乾燥させて黄色の着色料を作ったとか、ユダヤ人に黄色のマントを着せたとか、そういう)をインパクト大な映像・音楽にのせて描きながら、顔が黄色くなることの理不尽を訴え、最後に、赤という色でプロテストを表明するという、カッコよくてハイクオリティな作品でした。

Memoria Vertical(監督:Camila Arce)
 カミラ・アルセさんは、アルゼンチンで(母子感染によって)HIVを持って生まれてきた女性です。同じような境遇の子どもたちがたくさん、若くして亡くなったといい、子どもでも服用できるような抗HIV薬の開発を政府に訴えています。共に声を上げてくれるコミュニティの人たちの姿も映し出されます。

Here We Are: Voices of Black Women Who Live with HIV(監督:Davina “Dee” Conner and Karin Hayes)
 アメリカのDavina “Dee” Connerさんは1997年にHIV陽性の診断を受けましたが、それから18年間、自分のような有色人種女性にHIV陽性者はいないと思い込んでいたそうです。同じ境遇の人と知り合うことでエンパワーされた経験がポジティブに描かれます。「HIVはゲイのものだと思っていた」という偏見も率直に語られますが、ゲイだけじゃなく女性にも陽性者がいるということを知るのは視聴者も同じかもしれません。

Nuance(監督:Jaewon Kim)
 架空の写真展に展示された連なり合うイメージの写真を少しずつクローズアップしていくような感じのビジュアルに、HIV陽性者が「君」に話しかけるようなスタイルで語りをのせていく作品です。「無数の小さな塊」「黒い光」といった言葉が何を意味するのかは、観客の想像に委ねられています。観念的に思えるかもしれませんが、人の姿がほとんど「見えない」ことも含め、セックスや恋愛にHIVがどのように関係していくかということをめぐる苦悩がリアルに表現されていると感じました。

Red Flags, a Love Letter(監督:Mikiki)
 ドラッグを使いながらセックスを楽しむ人々の姿や声を並行して幾重にも映し出しながら、監督であるカナダのアーティスト、ミキキさんが他のドラッグユーザーと対話しながら、罰する前に薬物に依存する人々の切実さに寄り添ってほしいと語る(「ダメ、ゼッタイ」ではないハームリダクション的な立場)、サイケデリックでありながら癒しも得られるような作品です。セクシーなシーンもありますが、一方で、実際に注射を打つようなシーンもありますので、そういうシーンが苦手な方はご注意ください。

Lxs dxs bichudas(監督:Jhoel Zempoalteca and La Jerry)
 仮面をつけ、スカートをはいた二人の肌の色の異なるクィアな男性による伝統的、民族的な舞踏。メキシコの先住民の言葉であるサポテク語と、スペイン語による、HIVを持つ人々のリアリティや白人と先住民を融合させる「メスティサヘ」の概念をめぐる語り。太陽に祈りを捧げた二人はそれぞれ、自身の仮面を外していき、手を取り合い、再び踊りだす…という作品です。(メキシコでは、HIVに関する情報はすべてスペイン語で、先住民の方たちに届きづらいという現状があるそうです。そのことも踏まえてご覧になってみてください)

Kiss of Life(監督:Clifford Prince King)
 数名のアフリカ系アメリカ人のHIV陽性者が自身の経験を率直に語ります。ラストシーンで、シャーデーの「Kiss of Life」をBGMに、愛し合うゲイたちの姿が描かれ、愛や希望を感じさせ、素敵でした。


 全部で1時間弱の作品です。
 かつてのエイズ禍の時代とは異なる、HAART(カクテル療法)によってもはや死に至る病ではなくなった時代に生まれ育った若いHIV陽性者の方たちのリアリティや、アメリカだけではない、ゲイだけでもない、世界の様々な国に生きるHIV陽性者のリアリティが描かれていたと思います。
 生まれ育った地域や、人種や民族、肌の色、性別など、多様な状況によって、HIVと共に生きることの経験がずいぶん異なっていたり、実に多様であるということが本当によく伝わってきます。韓国というアジアのアーティストの作品も入っていたのもよかったです。

 
 『Being & Belonging』はノーマルスクリーンのサイトで無料で公開されています。
 ぜひご覧ください。

http://normalscreen.org/events/dwa2022


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