REVIEW
TheStagPartyShow movies『美しい人』『キミノコエ』
TheStagPartyShowの映画『美しい人』『キミノコエ』のレビューをお届けします。
こちらでお伝えしていたように、2022年12月3日(土)と4日(日)、映画『美しい人』がロンドン国際映画祭など複数の国際映画祭で受賞を果たしたことを記念するTheStagPartyShowの凱旋上映会が開催されました。『美しい人』だけでなく、新作映画『キミノコエ』もお披露目されました。この2つの作品のレビューをお届けいたします。
(文:後藤純一)
『美しい人』
TheStagPartyShowはもともと、2001年に大阪で立ち上げられ、精力的に活動を行なってきた演劇集団です(STAG PARTYとは結婚前夜の独身最後の夜に男だけで集まって騒ぐパーティのこと)。扇町公園での「PluS+」にも参加したり、東京や那覇、福岡などでも公演を行なってきました(メンバーのなかには『Base』のToshiさんなど、みなさんが知ってる・見たことがあるかもしれない方たちもいらっしゃいますし、ゲストでもゲイコミュニティの方たちがたくさん出演しています)。そんなTheStagPartyShowは以前から短篇映像作品も製作していたのですが、2018年に20周年記念企画の一環として『美しい人』を製作しました。
パートナーを突然亡くした主人公が、喪った悲しみを癒すため、願い事が叶うというランタン飛ばしに参加し、また、新たな恋を予感させるようなイケメンと出会い…というお話で、日本と台湾で撮影が行なわれました。主人公の友人が二丁目のコインランドリーでよく会うドラァグクイーンで、そのヘア&メイクや衣装が高く評価され、ロンドン国際映画祭最優秀ヘア&メイク&コスチューム賞を受賞。また、ブロードステアーズIFF2021最優秀外国語作品シネマトグラフィー賞および最優秀ヘア&メイク&コスチューム賞、WICA2021最優秀外国語作品助演男優賞、「Best Shorts Competition 2022 March」LGBTQ+部門表彰賞を受賞しました。
12月3日・4日、受賞を記念して渋谷のCapsuleという会場で凱旋上映会が行なわれました。残念ながら授与式典は満席で参加できなかったのですが、最終上映(コメンタリー上映会)におじゃましました。
個人的にTheStagPartyShowは、鷺ノ宮(家からチャリで行ける場所)の古民家で開催された公演など、何度かお芝居を拝見させていただいたことがあるのですが、映画を観るのは初めてでした。
<あらすじ>
突然恋人を亡くし、悲しみに暮れる男。二丁目のコインランドリーでよく顔を合わせるドラァグクィーンが気を紛らせてくれて、いつしか友情が芽生える。男は、悲しみを忘れるため、台湾の青年とSNSで出会い、台北へ向かう。その旅の末に男が手にしたものとは?
亡くなった彼のことを忘れることができない、切なくも苦しい、一途な思いを描いた短編映画で、その悲しみを癒し、幸せを願うために台湾・十分のランタンフェスティバルや日本の虫送りという行事に足を運んで撮影されていました。
同時に、西門の紅楼街や中山のバー「Goldfish」、台北101、Wホテルなど、台北のおなじみの場所が映し出されるので、コロナ以降行けていない台湾への熱がふつふつと湧き上がってくるのを感じました(来年こそは!)
ドラァグクイーンが登場し、主人公の友達になるというところが、この、ともするとモノクロームになってしまいそうな物語に美しい彩りを与えていると感じました。ヘア&メイクが(さすが、賞を獲るだけあって)素敵でしたし、クイーンさんが恋愛で苦労したり、それゆえに主人公と共感しあったりして、友達になっていく様もいいです。
ひろしさんやゆうたさんのHairyなセクシーさも堪能できます。
音楽もよかったです。
またきっと上映の機会もあると思いますので、その際はぜひ、ご覧ください。
『美しい人』
2018年/日本・台湾
脚本・監督:キタムラセキチ
出演:ひろし、あんぢぇほか
『キミノコエ』
今回がプレミア(お披露目)となった新作映画『キミノコエ』は、ストーリーがなかなか凝ってて面白かったですし、家族との関係や性的マイノリティの友人どうしの友情が感動的に描かれていて、とてもよかったです。東京の近未来的な?シーンと京都の古い民家や街並みとの対比も印象的でした。
<あらすじ>
主人公のゆうたは、東京で働くリーマンだが、長期出張のため、生まれ育った京都に戻ってくる。ゆうたが滞在するのはかつて家族と暮らした古い町屋。父は亡くなり、母は別の家族を持ち、姉は嫁ぎ、今は空き家となっているはずのその家に、誰かがいる…それは、子どもの頃の親友・あすかだった。共に、自身のセクシュアリティゆえに家族との関係に悩んでいたゆうたとあすかは、ぶつかったり励ましあったりしながら、それぞれが避けていた現実と向き合うように…。
京都では、四条烏丸だったり、鴨川のほとりだったり、平安神宮だったり、ARATAさんの「SAKE BUMPY!」だったり、みなさんもよく知っているかもしれない場所がいろいろと出てきて、懐かしい気持ちにさせられます(一瞬、大阪の「do with cafe」も登場します)。みなさんもよく知っているかもしれないゲイコミュニティの方々が多数、登場しているのも親近感を覚えるところだと思います。
一方で、東京のゆうたの部屋では、出張でいない間に部屋のキーピングをする「人」がいて、ゆうたと「声」でコミュニケーションしています。そこがこの映画のアクセントであり、ユニークなポイントであり、終盤の展開の伏線にもなっています。
ロビンさん、モリエさん、OZさんといった関西のドラァグクイーンの方々が友情出演しているのも素敵ですが、何より、あすかというジェンダー的にマイノリティ(クィア)な親友とゲイであるゆうたとの友情が描かれているところが素晴らしいです(上映会が終わったあとで会ったお友達が、「その苦しみははかりしれないけど…」と言いながら、あすかのことを語っていたのも素敵でした)
TheStagPartyShowの作品は、演劇にせよ、映画にせよ、独特の静謐さを感じさせます。それはキタムラセキチさんの感性からくるものなのかなと思っていたのですが、今回、『美しい人』と『キミノコエ』を拝見して気づいたのは、どちらの映画も、主人公が身近な人の死を想い、亡くなった人と「対話」する作品であるということ。(だれしも経験があると思いますが)遺された人の喪失感や、もう二度と話すことができない故人が本当は何を思っていたのかと問う、葛藤のような気持ちが描かれていることが、ある種の厳粛さを作品にまとわせているのかもしれないと思いました。
今後、いろんなところで上映されると思います。『キミノコエ』の「君」とは一体誰のことなのか?ということも、ぜひご覧になって確かめてみてください。
『キミノコエ』
2022年/日本
脚本・監督:キタムラセキチ
出演:ゆうと、ゆうきほか
INDEX
- 『ボーイフレンド』のダイ(中井大)さんが出演した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』第2話
- 安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
- 映画上映会レポート:【赤色で思い出す…】Day With(out) Art 2024
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
- 一人のゲイの「虎語り」――性的マイノリティの視点から振り返る『虎に翼』
- アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
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- アート展レポート「MASURAO GIGA -益荒男戯画展-」