REVIEW
『ボヘミアン・ラプソディ』の感動再び… 映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
『ボヘミアン・ラプソディ』と同じ脚本家が手がけ、稀代の歌姫ホイットニー・ヒューストンの人生の光と影をドラマティックに描いた感動の伝記映画であり、素晴らしい音楽エンターテイメント映画です。

2018年、フレディ・マーキュリーの人生とクイーンの音楽をライブエイドのシーンをフィナーレとして感動的に描き、全世界に旋風を巻き起こした映画『ボヘミアン・ラプソディ』。その脚本を書いたアンソニー・マッカーテンが、今度はホイットニー・ヒューストンの人生と音楽を感動的に描きました。映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』は、驚異的な歌声で世界を魅了した稀代の歌姫・ホイットニーの人生の光と影を『ボヘミアン・ラプソディ』のように描いた感動の伝記映画であり、素晴らしい音楽エンターテイメント映画です。
<あらすじ>
ニッピー(ホイットニー)は少女の頃から母・シシーニ厳しい歌唱教育を受けていた。シシーは自身のステージのバックコーラスにホイットニーを起用し、ステージ経験を積ませる。そんなある日、アリスタ・レコードの名音楽プロデューサー、クライヴ・デイヴィスがライブ会場にやってくる。シシーはわざとステージを開け、ホイットニーの歌をクライヴに聴かせる。その圧倒的な声と才能に魅せられたクライヴは、その場でスカウト。こうして、「歌いたい曲を自分らしく歌う」ホイットニーは、ジャンルも人種も超えて、瞬く間にスターの階段を駆け上がっていく…







美しくも驚異的な歌で世界を魅了し、数々のNo1ヒットを連発した(ビートルズの記録を破り、シングル「Saving All My Love For You」以降7曲連続で全米シングル・チャート1位を獲得するなど数々の記録を塗り替えています)伝説の歌姫、ホイットニー・ヒューストン。「Greatest Love Of All」や「I'm Every Woman」などゲイナイトで定番になっている曲も多数ありますし、ドラァグクイーンのショーにも使われたり、あまりにリスペクトしすぎて名前の一部にホイットニーを入れてるクイーンさんもいたりして、ゲイシーンでもおなじみです。しかし、彼女自身がバイセクシュアルだったという事実はあまり知られていないかもしれません。
2019年に上映されたドキュメンタリー『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』でもロビン・クロフォードとの恋愛関係のことが少し描かれていましたが、今作では、ホイットニーが学生時代にロビンと出会い、意気投合し、恋仲になり、というなれそめも素敵に描かれています。ロビンという恋人が、いきなり音楽業界に入ることになった不安だらけのホイットニーにとってどれだけ心強い存在だったかということも。そんなロビンとの同性愛関係は、80年代というまだまだカミングアウトが難しかった時代にあって(しかも黒人社会ではホモフォビアが本当に強かったので)、周囲にはほとんど受け容れられず、公にもされず、しかし、ホイットニーは彼女のことを本当に信頼し、大切に思っていたので、ずっと助手(マネージャー)としてそばに置いていて…ということもちゃんと描かれています。ホイットニーがその生涯でいちばん愛したのはロビンだったと思えます。
『ボヘミアン・ラプソディ』においてフレディ・マーキュリーのセクシュアリティやHIVのことが正面から描かれていたように、今作では、ホイットニーのセクシュアリティのことがかなり大きなウェイトを占めていて(もちろん好意的に、寄り添うように描かれています)、それだけでなく、彼女を生涯にわたって支えたとある人物のセクシュアリティも明らかにされ、LGBTQだからこその同志愛のような感情も表現されていて、グッときます。
逆に、ホイットニーの身近にいる人物のホモフォビアもはっきりと描かれ、ホイットニーが本当の自分でいたい、真に愛する人とずっと一緒にいたいという願いを一蹴し、残酷な言葉を浴びせます。「もしあの人が同性愛に理解のある人だったら、ホイットニーは自分らしく、もっと長く生きられたんじゃないだろうか…」とさえ思います。権威主義的で強欲なクズがホモフォーブでもあったというのは、非常にリアルです。
ただの音楽映画じゃない、一人のバイセクシュアル女性に寄り添い、ホモフォビアを告発し、LGBTQコミュニティにエールを送るような作品だということは、もっと世間に広く知られてほしいと感じます。
後半はロビンとの恋愛は後景に退き、代わってボビー・ブラウンとの恋愛や結婚生活が描かれます。黒人でありながらR&Bやソウルではないポップソングを歌ったことで批判を受けたり、様々なストレスから、薬物に手を出すようになり…といったことも隠さずに描かれます。ケヴィン・コスナーと共演した『ボディガード』で「I Will Always Love You」を大ヒットさせ、グラミーも何度となく受賞し、スーパーボウルで国歌を歌い、ネルソン・マンデラ復帰後の南アフリカでの栄誉あるコンサートにも招かれ、世界的な名声もほしいままにしていたはずの天才シンガーが、温かな家庭の幸せに恵まれず、身内に裏切られ、クスリでボロボロになっていくのです。そして2012年、ホイットニーは、グラミー賞前夜祭に出演する直前、ホテルの浴槽で薬物中毒で亡くなるという悲劇的な最期を迎えます…その痛ましさをリアルに描く代わりに、彼女の歌手人生の中でも最高に輝いていた瞬間である、奇跡とも言うべき圧巻のコンサートのシーンが届けられ(このあたりも『ボヘミアン・ラプソディ』と同様です)、涙を誘います。ぼくらは、一人の平凡な少女であったホイットニーが歩むことになった数奇な人生を、彼女の喜びや悲しみをまるごと体験し、ホイットニーの魅力のトリコになり、感情移入し、鳥肌モノの、最高の歌の数々を堪能します。素晴らしいドラマ映画であり、音楽映画です。
主演のナオミ・アッキーは、『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレックと同様、見事にホイットニーを演じていました。魂を込めて演じているのが伝わってきました。
プロデューサーのクライヴ・デイヴィスを演じていたのは、『プラダを着た悪魔』で鬼編集長の右腕として働くゲイのナイジェルを演じていたスタンリー・トゥッチです。
ボビー・ブラウン役が、あの『ムーンライト』で、いじめられまくっていたティーンのシャロンを演じていたアシュトン・サンダースだというのも面白いです。今作ではシャロンとは真反対のバリバリ遊び人なドノンケを演じているわけですから。
こうした実力派の俳優が出演してはいますが、やはり、この映画の主役は、ホイットニーの歌声です。
みんなが知ってるような曲ばかりなのですが、ドラマの中で、どんなシーンで使われるのか、ぜひ注目していただきたいです。
「How Will I Know」や「It's Not Right But It's Okay」のPVが見事にそっくりに再現されているのも素敵です。
ホイットニーのオリジナル曲だけでなく、ドリームガールズの「And I Am Telling You I'm Not Going」なども歌われています。
『ボヘミアン・ラプソディ』に感動した方、ホイットニー・ファンの方、音楽を愛する方、波乱万丈の人生を生きた女性のドラマに共感する方…たぶん多くのゲイの方の心の琴線に触れ、涙を誘うような名作です。ぜひご覧ください。

ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY
原題:Whitney Houston: I Wanna Dance with Somebody
2022年/米国/144分/監督:ケイシー・レモンズ/出演:ナオミ・アッキー、スタンリー・トゥッチ、アシュトン・サンダース、タマラ・チュニーほか
INDEX
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