REVIEW
映画『孔雀』(レインボー・リール東京2023)
トランス女性が主人公の韓国作品で、ダンスのシーンや主人公のメイク&ファッションが素晴らしくてエンタメ感も感じさせつつ、地方の村でのクィアフォビアがものすごくシビアに描かれていて、観客にいろいろ考えさせるような作品でした。ラストシーンも感動的で、素晴らしい映画でした。
レインボー・リール東京2023のオープニング作品は、釜山国際映画祭やサンフランシスコ国際映画祭にも出品された韓国映画『孔雀』。短編『神の娘のダンス』(2020)で世界に注目された実力派のピョン・ソンビン監督が、同作主演のヘジュンと再びタッグを組んで撮りあげた長編デビュー作です。
<あらすじ>
家族や故郷の人々と絶縁しているトランスジェンダー女性のミョン。性別適合手術の費用が必要な彼女は、賞金目当てにワックダンスの大会に出場するが、優勝を逃してしまう。そんな時、ミョンは父の訃報とともに、「四十九日の法要で伝統舞踊のソゴチュム(小鼓舞)を踊れば遺産を渡す」と父が遺言を残していたことを知り……
ミョンを演じたのはプロのダンサーであるヘジュン。そのワックダンス(AyaBambiみたく手を高速回転させたり、ポージングやターンで魅せたりするダンス)のパフォーマンスにウットリ…本当にスゴいです。ダンスだけでなく毎回変わるメイクやファッションがいちいち素敵です。ダンスバトルやクラブのシーンなどもあり、エンタメ感も感じさせつつ(ミョンのダンスパフォーマンスが主役の映画とも言えます)、地方の村でのクィアフォビアがものすごくシビアに描かれていて、観客にいろいろ考えさせるような作品でした。
これまでの韓国のクィア映画は、どちらかというと重く、暗くて悲しい作品が多かったのですが、『孔雀』はコメディ的な部分もあり、誰もが楽しみながら観ることができるエンタメ作品だと感じました。なので、ストーリーも、最初はクィアを認めず、フォビアまるだしだった村人が、ある出来事をきっかけに、ミョンのことを認めるようになっていく…というわかりやすい展開ではあるのですが、すっきり泣けます。ある意味、定番を作ったというか、一つの完成形的な作品じゃないかと。
村人たちを演じている俳優さんたちもすごく達者で、しっかり脇を固めています(特にウギという、ミョンになんとか法要で踊ってもらおうと熱心に動き回る準主役の男性がよかったです)。高校生の男の子がかわいいと思う方も多かったのではないでしょうか。
ユーロライブでもう1回上映されますので、見逃した方は22日(土)にぜひ。
孔雀
英題:Peafowl
原題:공작새
監督:ピョン・ソンビン(변성빈)
2022|韓国|115分|韓国語
7月15日(土)19:00- @スパイラルホール
7月22日(土)12:00- @ユーロライブ
<トークショー>
7月15日(土)の上映後、ピョン・ソンビン監督が登壇し、トークショーが行なわれました。『孔雀』の元になった短編『神の娘のダンス』の上映会を開催したloneliness booksの潟見さんが司会を務めました。
――『神の娘のダンス』にはとても惹かれました。『孔雀』は前作を引き継いだ作品ですね。
監督:前作のチームワクがとてもよかったということもあり。へジュンさんはプロダンサーで、もともとは俳優じゃなかったんです。
――前作は兵役の検査にからめてジェンダーが問われる作品でしたが、今作は主人公が故郷に帰るお話ですね。このようなテーマにした理由は?
監督:短篇はもともと脚本があった。今作は、トランスジェンダーの直面する問題を知ってほしくてこのような内容に。実際、韓国映画でトランスジェンダーが主人公の作品って10作にも満たない。トランスジェンダーのことに関心がない方にも観ていただけるように、ということを念頭においています。
――ウギさんを演じている俳優さんが、ミョンさんと友情を深めていくところがすごくよかったです。それでは、会場から質問をお受けして、質疑応答の時間を設けたいと思います。
(以下は、映画の内容にいろいろと触れていますので、実際に映画をご覧になった後で、読んでいただいたほうがよいかもしれません)
質問:ミョンは手の甲のやけどをタトゥで隠しています。これに関するエピソードがあまり描かれていなかったのですが?
監督:主人公が父親にカムアウトした時に父親から受けた心の傷を象徴しています。また、今作は火を表現するシーンを意識的に描いているので、そういう意味もあります。
質問:追悼の儀式はリアルなものですか?
監督:四十九日の舞は伝統的にあのようなものです。私も踊りました。村の人たちが踊る、共同体の儀式です。
質問:おじいさんの木にくくりつけられているカラフルな布も、伝統的なもの?
監督:そうです。実際に伝統的なもので、5色あります。
質問:題名の由来を。
監督:韓国で鳥は空と大地とをつなぐものと考えられています。孔雀の羽は目の形で、ミョンのペンダントや、ソウルのミョンの部屋にも目の形がありました。韓国社会でトランスジェンダーは目を背けられがちな存在。人は目を合わせることから関係性が始まります。そこを問題提起する意図がありました。
質問:村長さん?が、一貫してミョンを女性として扱っていたのがよかったです。
監督:昔から、舞師というのは、舞だけでは暮らしていけなかったので、セックスワークをして生きてきました。村長は、ミョンの祖父と関係があったのかもしれません。
INDEX
- 女性と同性愛者を抑圧し、ペストで死ぬ人々を見殺しにする腐敗した権力者への叛逆を描いた映画『ベネデッタ』
- トランスジェンダーへの偏見や差別に立ち向かうために読んでおきたい本:『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』
- 『痛快!明石家電視台』ドラァグクイーン大集合SP
- 殺伐とした世界に心を痛めるすべての人に観てほしいドラマ『THE LAST OF US』第3話
- 3人のドラァグクイーンのひと夏の旅を描いたハートフル・コメディ映画『ひみつのなっちゃん。』
- 40歳のゲイの方が養護施設で育った複雑な生い立ちの20歳の男の子を養子に迎え入れ、新しい家族としての生活を始める姿をとらえたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』
- 貧しい家庭で妹の面倒を見る10歳のゲイの男の子が新しい世界を切り開こうともがき、成長していく様を描いた映画『揺れるとき』
- ゲイコミュニティへのリスペクトにあふれ、あらゆる意味で素晴らしい、驚異的な名作『エゴイスト』
- ドラァグクイーンの夢のようなロマンスを描いたフランス発の短編映画『パロマ』
- 文藝賞受賞、芥川賞候補の注目作――ブラックミックスのゲイたちによる復讐を描いた小説『ジャクソンひとり』
- ドラァグクイーンによる朗読劇『QUEEN's HOUSE〜あなたの知らないもうひとつの話〜TOKYO』
- 伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』
- 謎めいたゲイ・アーティストの素顔に迫るドキュメンタリー映画『アンディ・ウォーホル:アートのある生活』
- 『ボヘミアン・ラプソディ』の感動再び… 映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
- 近年稀に見る号泣必至の名作ゲイ映画『世界は僕らに気づかない』
- ぼくらはシンコイに恋をする――『シンバシコイ物語』
- ゲイカップルやたくさんのセクシャルマイノリティの姿をリアルに描いた優しさあふれる群像劇『portrait(s)』ほか
- TheStagPartyShow movies『美しい人』『キミノコエ』
- Visual AIDS短編集『Being & Belonging』
- これ以上ないくらいヘビーな経験をしてきたゲイの方が身近な人たちにカミングアウトする姿を追ったドキュメンタリー映画『カミングアウト・ジャーニー』