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REVIEW

映画『クリッシー・ジュディ』(レインボー・リール東京2023)

ドラァグクイーンとしての生き様、そしてゲイの愛と性、幸せ、自由、誇り、友情をリアルに描いた、モノクロの映像美とドラァグショーの素敵さが際立つ、ありそうでなかった作品です。

映画『クリッシー・ジュディ』(レインボー・リール東京2023)

 トッド・フラハティというゲイの俳優が製作・監督・脚本・主演を務めた初監督作品です。こちらの記事によると、ストレートの俳優がゲイ役を演じることで、ゲイの自分が仕事を得られない現実に対し、一石を投じたいという思いがあり、資金集めに苦労しながら、テレビの仕事をしていた兄ブレンダンに撮影をお願いして、完成にこぎつけたそうです。昔のハリウッド映画のような美しいモノクロ映像が印象的な『クリッシー・ジュディ』は全米各地の映画祭やLGBTQの映画祭で上映され、クリーブランド国際映画祭では、新人監督コンペティションにノミネートされました。

<あらすじ>
クリッシーとジュディは親友どうしのドラァグクイーン。今年こそ大ブレイクを、と夢見るジュディだったが、相棒であるクリッシーが恋人と同居するため遠くの街に引っ越すことに。一人取り残されたジュディは、30代にして恋愛・就職・孤独といった現実的な問題と向き合わざるをえなくなる……



 バイトと週末のドラァグ仕事で自由気ままに生きてきたジュディ。ドラァグ仲間の親友であるクリッシーが恋に生きる道を選び、自分を置いてフィラデルフィア(NYからはまあまあ遠い)に引っ越すことを決めたことから(「来週のショーはどうすんのよ!」的な言い合いをしたりしつつも)、突然ひとりぼっちに。それでも「40までにお互い恋人ができなかったら結婚しようね」と約束していたくらい、深い友情で結びついていた(セックスはしてないけど、心の深いところで愛し合っていた)ので、クリッシーのためにフィラデルフィアくんだりまで出かけ、HIVチャリティのイベントを手伝ったりするのですが、クリッシーの新しい彼氏(黒人のクマさん。私的に歴代のゲイ映画の中でセクシーさNo.1です。ちょっとしか出てこなくて残念でした)やフィラデルフィアのゲイたちとどうにもウマが合わず…。ようやく独り立ちを決意し、一念発起するというお話です。

 ジュディがあまりにもハンサムでマッチョで(『プリシラ』のフェリシアも結構なマッチョですが、さらにその上を行くモテ筋系です)、ドラァグじゃなくてモデルとか、今ならオンファンとかで稼げるのでは…と思ってしまうほどなのですが(素材がハンサムなのでドラァグしても美しいのですが)、そんな彼が、ガガとかアリアナの曲で踊ったりとかじゃなく、昔のジャズの名曲を歌うオールドファッションな(日本で言う「昭和な」)タイプのクイーンをやってる、そのギャップが面白いです。ジュディのドラァグショーはこの映画の見せ場で、ストーリーにも密接にかかわっています。

 たぶんノンケさんがドラァグクイーンの映画を撮ると、普段から女物の服を身につけたり、ロン毛にしたり、女性になりたがってるように描いたりとかはさすがにしないとしても、どうしてもディテールでリアルじゃない部分が出てきてしまうのですが、さすが、この作品は、完璧にリアルだし、不自然さを感じるところが全くありませんでした。当事者性って大事ですね。というか、こんなにゲイの世界の、しかもドラァグクイーンという狭い、ピンポイントなところを深く掘り下げてリアルに描いて映画にするということ自体、スゴいと思いますし、本当に素敵です。こういういろんなタイプのゲイのリアルを描いた作品をもっと観たいです。
 
 とある友人のホームパーティで、とある男性とデキちゃって、家主に見つからないようにこっそりヤッてしまったジュディに、クリッシーから電話がかかってきて、「わたし? 今クローゼットの中で肛門からザーメンを垂れ流してるとこ」と返事するシーンで爆笑しました。

 ドラァグクイーンに限らずですが、若い時は勢いでなんとかなってたけど、30代、40代になって、そろそろ地に足の着いた生活を…と考え始めるという方、いらっしゃると思いますが、そういう人生の転機みたいなところでも、とても示唆に富む作品だったと思います。 

 プロヴィンスタウンというゲイの避暑地が登場します。レインボーフラッグが掲げられ、ゲイ向けのゲストハウスやクラブやショップがたくさんあり、マーク・ジェイコブスやライアン・マーフィも結婚式を挙げた街です。そういう街があるということのうらやましさもヒシヒシと感じます。
 
(文:後藤純一) 

クリッシー・ジュディ
英題:Chrissy Judy
監督:トッド・フラハティ
2022|USA|96分|英語
7月16日(日)16:10- @スパイラルホール
7月23日(日)12:00- @ユーロライブ

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