REVIEW
映画『ココモ・シティ』(レインボー・リール東京2023)
『POSE』にハマった方はぜひ、この映画も観ていただきたいです。とにかく音楽が素晴らしい、クールでヒップ、グラマラスでスタイリッシュな作品。黒人トランス女性セックスワーカーへの讃歌です。
「アトランタとニューヨークでセックスワーカーとして働く4人の黒人トランスジェンダー女性たち。彼女らの生の感情を捉えたインタビュー映像から、性労働の実態と構造的差別の存在が皮肉を交えて赤裸々に暴かれる。粗い白黒の映像やエネルギーに満ち溢れた演出が話題を呼び、世界中の映画祭で観客賞を受賞した異色のドキュメンタリー。なお、本作に登場するココ・ダ・ドール(本名ラシーダ・ウィリアムズ)は今年4月に銃殺されるという悲劇に見舞われた」(映画祭公式サイトより)
この映画は、D.SmithというCiaraやMarkRonsonにも楽曲提供し、グラミー賞にも2回ノミネートされている作曲家・プロデューサーが監督した作品で、レズビアンの俳優、プロデューサー、脚本家であるリナ・ウェイスがプロデューサーをつとめています。今年のサンダンス映画祭で観客賞を受賞しています。
冒頭、ランディ・クロフォードの「Streetlife」が流れるなか、セックスワークをしている黒人トランス女性が、ネットで男と知り合い、いざヤロうとしたときに男が銃を持ってることに気づき、銃を奪い、取っ組み合いになり…というエピソード(ちゃんと笑えるオチがあります)を語るシーンで、ハートをがっちり掴まれました。
全編モノクロ映像、タイトルや歌詞のタイポグラフィーなどの文字はすべてライムイエローというスタイリッシュさ。そして、ソウル、R&B、ジャズ、ブルースといったこの映画を彩る黒人音楽の数々が、本当に素敵でカッコよく、この映画をグルーヴィなものにしています。音楽に造詣が深いD.Smithだからこそ、です。
なぜ黒人のトランス女性の多くがセックスワークをしなければ生きていけないのか。その背景にある奴隷制以来の黒人差別や、黒人社会に根強くはびこる異性愛規範(toxic masculinity)を告発しながら、たくましくセクシーに生きるトランス女性の姿や声を余すことなく、文字通り「すべて」見せています。冒頭の銃を持った男との取っ組み合いのエピソードから、「I'm a woman」と歌う歌に載せての美しくも感動的なラストシーンまで、すべてが黒人トランス女性セックスワーカーへの讃歌です。
LOというビヨンセやアッシャーなどにも楽曲提供しているストレート男性が登場し、自分はトランス女性に惹かれると「カミングアウト」しているのが印象的でした。そのような発言が黒人男性コミュニティにおいてどれだけ勇気が要ることかをわかったうえで、みんなが言えないことを俺は代弁すると言って、語ったのです(拍手)
この映画のタイトルの由来になったのは、1930年代のKokomo Arnoldの「Sissy Man Blues」というブルースです。「神様、もし俺に女を遣わしてくださらないなら、せめてシシーな(女みたいな)男をください」と歌う、当時としては異色な、クィア音楽史に残る歌でした。
たしかココ自身の語りだったと思うのですが、「私の友人たちはみんないなくなってしまった。1人はエイズで、あとの2人は殺された」と語るシーンが本当に切なくて…胸を苦しくさせるものがありました。そして、4人の黒人トランスジェンダー女性たちのなかでも最もグラマラスな魅力を放っていたココ・ダ・ドールが、今年4月に銃殺されて亡くなったということ…その事実もまた、この映画が告発している黒人トランス女性が置かれた状況のことを、より切実に訴えています。
ひとことで言うと、とても素晴らしかったです。
『POSE』と一緒にぜひ、この映画を多くの方に観てもらいたいです。
日曜日の最後に、もう一度上映があります。
ココモ・シティ ★日本初上映
英題:Kokomo City
監督:D・スミス
2023|USA|73分|英語
7月22日(土)14:40- @ユーロライブ
7月23日(日)19:15- @ユーロライブ
INDEX
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
- 映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』
- アート展レポート:shinji horimura個展「神と生きる漢たち」
- アート展レポート:moriuo個展「IN MY LIFE2023」
- 「神回」続出! ドラマ『きのう何食べた?』season2
- 女性たちが主役のオシャレでポップで素晴らしくゲイテイストな傑作ミステリー・コメディ映画『私がやりました』
- これは傑作! ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』
- シンコイへの“セカンドラブ”――『シンバシコイ物語 -最終章-』
- 台湾華僑でトランスジェンダーのおばあさんを主人公にした舞台『ミラクルライフ歌舞伎町』
- ミュージカルを愛するすべての人に観てほしい、傑作コメディ映画『シアターキャンプ』
- 史上最高にゲイゲイしいファッションドキュメンタリー映画『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』
- ryuchellさんについて語り合う、涙、涙の番組『ボクらの時代 peco×SHELLY×ぺえ』
- 涙、涙…実在のゲイ・ルチャドールを描いた名作映画『カサンドロ リング上のドラァグクイーン』
- ソウルにあったハッテン映画館の歴史をアニメーションで描いた映画『楽園』(「道をつくる2023」)
- 米史上初のゲイの大統領になるか?と騒がれた人物の素顔に迫る映画『ピート市長 〜未来の勝利宣言〜』
- 1920年代のベルリンに花開いたクィアの自由はどのように奪われたのか――映画『エルドラド: ナチスが憎んだ自由』
- クィアが「体感」できる名著『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ』
- LGBTQは登場しないものの素晴らしくキャムプだったガールズムービー『バービー』
- TORAJIRO 個展「UNDER THE BLUE SKY」
SCHEDULE
- 09.132CHOME HOUSE
- 09.13BOOST
- 09.14さっぽろレインボープライド
- 09.14Rainbow Bear Pool 2024
- 09.14AiSOTOPE LOUNGE 12th ANNIVERSARY PARTY -DAY.1-