REVIEW
台湾映画界が世界に送る笑えて泣ける“同性冥婚”エンタメ映画『僕と幽霊が家族になった件』
めっちゃエンタメ、どんでん返しに次ぐどんでん返し、手に汗握る展開のあとに、まさかの感動…。さすがは台湾!と拍手したくなる映画でした。冥婚という死者との結婚がモチーフになっているので、お盆に観るにはピッタリかも!?

ノンケの警察官が、捜査中に祝儀袋を拾ったために、若くして交通事故で亡くなったゲイの青年と「冥婚」させられることになるというところから始まるストーリー。台湾に古くから伝わる風習、生者と死者による結婚「冥婚(えんこん)」とは、未婚のまま亡くなった方を不憫に感じた遺族が、ご祝儀を入れる赤い封筒「紅包」を路上に置き、それを拾った者と死者と形式上の「結婚式」を強要するというもので、拒否すると罰が当たって不幸になると言われているんだそう。台湾では旧正月映画として今年2月に公開され、初日には堂々の第1位を記録し、笑えて泣ける作品として評判になりました。『紅い服の少女』『目撃者 闇の中の瞳』などを手がけてきた台湾のヒットメーカーであり現在の台湾映画を牽引する気鋭のチェン・ウェイハオ監督がメガホンをとり、台湾の人気モデルで俳優のグレッグ・ハン、『青春弑恋』『恋の病 潔癖なふたりのビフォーアフター』などのリン・ボーホンが主演しています。
<あらすじ>
うだつの上がらないノンケの警察官ウー・ミンハンは、捜査中に祝儀袋を拾ったために、若くしてひき逃げ事故で亡くなったゲイの青年マオ・バンユー(マオマオ)と「冥婚」させられることに。ゲイ嫌いのミンハンは、マオマオの存在を疎ましく思いながらも、ある事件の解決に向けて奔走、マオマオの助けを得て事件は解決に向かうかと思いきや、そこには驚くべき事実があった…。 




同性婚が認められた台湾とはいえ、たぶん監督も役者さんもノンケさんの商業映画で、同性婚をネタにしてヒット作をねらったんだろうな…という匂いがして、半信半疑で観はじめたのですが、見事に予想を裏切られました。めっちゃゲイを応援する映画じゃん!と思いましたし、ゲラゲラ笑えるし、ラストはボロ泣きでした。まさかこんなにいい映画だとは…。
「冥婚」という風習の物珍しさや、ゲイの孫がイケメンと「冥婚」できてうれしい!と騒ぐおばちゃん、そして、ゲイ嫌いの主人公がゲイと結婚させられたあとのコメディタッチのドタバタに目を奪われていると、物語は突然『相棒』のようなバディものの刑事ドラマのような展開になり、どんでん返しに次ぐどんでん返し、手に汗握るストーリーにドキドキさせられ、そして…という感じなのですが、あからさまにゲイを差別していたミンハンが、マオマオとの「冥婚」をきっかけに、ともに協力しあいながら事件捜査を進めていくことになり、その過程で次第にゲイに対する見方が変わっていき…というところがもう一つの(そして実はいちばん大切な)ストーリーにもなっていて、さらにもう一つ、ダメ押しの泣かせエピソードが加わって、涙腺を崩壊させるのでした。
ミンハンはドノンケ男なので、決してマオマオと肉体的には愛し合えないのですが、すでにマオマオは死んでいて肉体がなく、精神的なつながりしかありえず、だからこそ「愛」のような感情を育てていけたというところにも脚本の妙を感じました。
映画の端々に、ゲイに対するあからさまな差別がどんな報いを受けるかという描写や(コメディタッチです)、ちょっと前までは愛する人と生涯を共にするなんてこと、夢でしかなかったよ…と語るゲイのリアルな心情告白などが描かれ、全体に「同志」支援のムードが通底していました。(ただ、ゲイクラブのシーンだけはあからさまにステレオタイプな感じがして、残念でした…)
ゲイを“かわいそうな人”とか“天使のような存在”として描くのではなく、ゲイだっていろんな人がいるし、なかにはいやなやつもいる、という平等・公正なスタンスもよいと思いました。
グレッグ・ハン(許光漢)、いい役者さんですね。ただのイケメン俳優じゃなく、ちゃんと警官だし、ゲイ嫌いなノンケだし、ときにはゲイにもなるし、弱ったところも、優しいところも、いろんな表情を見せてくれます。いろんな層の人たちを惹きつけるような不思議な魅力があります。
『ムーンライト』やエブエブを世に送り出したA24は、「誰も観たことのない映画を作る」ことをモットーにしているそうですが、この映画だって立派に「誰も観たことがない映画」だと思います。
たしかに監督も役者さんもノンケさんの商業映画でしたし、同性婚をモチーフとしたエンタメ作品ではあったのですが、これだけ素晴らしい、ゲイをも泣かせるようないい映画をメジャー作品として作ったのは、あっぱれと言うほかありません。同性婚が認められた台湾だからこそ、です。
8月10日からNetflixで世界同時配信されているそうです。海外でどのように評価されるか、楽しみです。
ある意味、お盆にピッタリな作品ですので、お盆休み中にぜひ。
【追記】2023.8.31
台湾文化部(文化省)は、この作品を第96回米アカデミー賞国際長編映画賞(旧外国語映画賞)部門の台湾代表にすることを発表しました。
文化部によれば、今年は9作品が台湾代表の座を争い、審査員による議論の末、「僕と幽霊~」が選出されたそうです。「伝統習俗と現代の観点を巧妙に結びつけ、ユーモアと心の動きを兼ね備えつつ、台湾文化と生活の特色を表現した」ことが推薦理由になったといいます。
第96回米アカデミー賞授賞式は来年3月10日に開催されます。

僕と幽霊が家族になった件
原題:關於我和鬼變成家人的那件事 Marry My Dead Body
2023年/台湾/130分/監督:チェン・ウェイハオ/出演:グレッグ・ハン、リン・ボーホン、ワン・ジンほか
8月10日よりNetflixにて世界同時配信
INDEX
- 永易さんがLGBTQの様々なトピックを網羅的に綴った事典的な本『「LGBT」ヒストリー そうだったのか、現代日本の性的マイノリティー』
- Netflixで今月いっぱい観ることができる貴重なインドのゲイ映画:週末の数日間を描いたロマンチックな恋愛映画『ラ(ブ)』
- トランスジェンダーのリアルを描いた舞台『イッショウガイ』の記録映像が期間限定公開
- 宮沢賢治の保阪嘉内への思いをテーマにしたパフォーマンス公演「OM-2×柴田恵美×bug-depayse『椅子に座る』-Mの心象スケッチ-」
- 絶望の淵に立たされた同性愛者たちを何とか救おうと奮闘する支援者たちの姿に胸が熱くなる映画『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』
- スピルバーグ監督が世紀の名作をリメイク、新たにトランスジェンダーのキャラクターも加わったミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』
- 同性愛者を含む4人の女性たちの恋愛やセックスを描いたドラマ『30までにとうるさくて』
- イケメンアメフト選手のゲイライフを応援する番組『コルトン・アンダーウッドのカミングアウト』
- 結婚もできない、子どももできないなかで、それでも愛を貫こうとする二人の姿を描いたクィアムービー『フタリノセカイ』
- 家族のあたたかさのおかげで過去に引き裂かれた二人が国境を越えて再会し、再生する様を描いた叙情的な作品――映画『ユンヒへ』
- 70年代のゲイクラブ放火事件に基づき、イマの若いゲイと過去のゲイたちとの愛や友情を描いた名作ミュージカル『The View Upstairs-君が見た、あの日-』
- 何食べにオマージュを捧げつつ、よりゲイのリアルを追求した素敵な漫画『ふたりでおかしな休日を』
- ゲイの青年がベトナムに帰郷し、多様な人々と出会いながら自身のルーツを探るロードムービー『MONSOON モンスーン』
- アウティングのすべてがわかる本『あいつゲイだって ――アウティングはなぜ問題なのか?』
- ホモソーシャルとホモセクシュアル、同性愛嫌悪、女性嫌悪が複雑に絡み合った衝撃的な映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
- 世紀の傑作『RENT』を生んだジョナサン・ラーソンへの愛と喝采――映画『tick, tick… BOOM!:チック、チック…ブーン!』
- 空を虹色に塗ろう――トランスジェンダーの監督が世界に贈ったメッセージとは? 映画『マトリックス レザレクションズ』
- 人種や性の多様性への配慮が際立つSATC続編『AND JUST LIKE THAT... セックス・アンド・ザ・シティ新章』
- M検のエロティシズムや切ない男の恋心を描いたヒューマニズムあふれる傑作短編映画『帰り道』
- 『グリーンブック』でゲイを守る用心棒を演じたヴィゴ・モーテンセンが、自らゲイの役を演じた映画『フォーリング 50年間の想い出』
SCHEDULE
- 01.23LADY GAGA NIGHT







