REVIEW
ミュージカルを愛するすべての人に観てほしい、傑作コメディ映画『シアターキャンプ』
演劇のサマーキャンプの運営をめぐるドタバタを描いたコメディであり、素晴らしくクィアであり、「舞台の魔法」を体感させる感動作でもあるような傑作映画です

演劇スクールの存続をかけて新作ミュージカルの上演に挑む人々の奮闘をモキュメンタリー形式で描いたコメディドラマ。2003年製作の『キャンプ』という映画によく似ていて、ミュージカル俳優養成のためのサマー・キャンプのお話です。
俳優モリー・ゴードン(『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』など)が共同監督と主演を務めています。2023年サンダンス映画祭でUSドラマチック審査員特別アンサンブルキャスト賞を受賞しています。
<あらすじ>
ニューヨーク州北部の湖畔にある演劇スクール「アディロンド・アクト」では、ミュージカルスターを夢見る子どもたちを長年にわたり指導してきた。しかし今夏のキャンプ開校を前に校長が昏睡状態となり、演劇に無関心な息子トロイが跡を継ぐことに。経営状況は破綻寸前に陥っており、スクール存続のためには3週間後のキャンプ終了までに出資者の前で新作ミュージカルを披露しなければならない。一癖も二癖もある教師たちと自由奔放な子どもたちは、期限までに舞台を完成させるべく奮闘するが……。
ものすごく面白かったし、感動したし、ミュージカルを愛するすべての人に観てほしい傑作コメディ映画だと思いました。
『フェーム』にせよ『コーラスライン』にせよ、ミュージカルスターを目指す若者たちの群像劇にはゲイが欠かせませんが、この『シアターキャンプ』では、若者たちの中にゲイがいる、とかいう次元をはるかに超えて、キャンプに参加する子どもたちの全員がクィア(またはクィアフレンズ)であり、先生たちもゲイだらけで、生徒たちはゲイの先生たちのことが大好きで、トロイのいかにもなノンケノリに辟易して「シスヘテロ!」とヤジを飛ばすくらいなのです(面白かったです)。キャンプに参加する子どもの保護者がパパ二人だったりするところもイマドキで素敵でした(ドラマ『glee/グリー』のレイチェルもそうでしたね。ちなみに『シアターキャンプ』には太ったインド系のクィアな男の子が登場するのですが、『glee/グリー』のユニークを思い出させました)
『glee/グリー』と同様、学校生活では肩身の狭い思いをしている(“はみ出し者”である)と思われる子どもたちが、このシアターキャンプでは自分の居場所(ホーム)を見つけ、生き生きと輝き、才能を開花させていくわけですが、サマーキャンプが始まる直前、校長のジョーンが突然倒れてしまい、ストレートプレイの意味すら知らない(ゲイプレイはあるの?とか聞いちゃう)バカノンケな息子・トロイが校長代理としてやってきて、あわや経営破綻の危機に…とか、先生たちの間でも揉め事が起きたりとか、次から次にトラブルが発生するのですが、最後に奇跡が起きます。しかも、素晴らしくミュージカル的なやり方で。そこがこの映画のいちばんの見どころです。
演劇やミュージカルやバレエに魅せられた人って、きっと「演劇(やミュージカルやバレエ)ってなんて素晴らしいんだろう」という、ふるえるような感動を味わったことがあると思うんです。そのような感動の瞬間を「舞台の魔法」と呼ぶならば、この映画は素晴らしくクィアなやり方で「舞台の魔法」を体感させ、観客を感動と喝采の渦に巻き込んでくれる作品です。あまり詳しくは言わないでおきますが、思わずキャー!って拍手したくなるようなクィアさ(キャムプ)です。(たぶん、『シアターキャンプ』のcampは、サマーキャンプという意味と、キャムプをかけてるんですよね)
2003年製作の『キャンプ』も『フェーム』も、スターを夢見る若者たちの群像をフィーチャーした映画であり、主人公は若者たちなのですが、この映画はそうではなく、シアターキャンプを運営する側の大人たちが主人公です。子どもがたくさん登場するけど、大人の映画(全く子ども向けではありません)。そして、子どもも決して子どもじゃなく、実に大人です。そこも面白いと思いました。
ただ、この映画は『カメラを止めるな』と同様、モキュメンタリー形式(ドキュメンタリー映像のように見せかけて演出している作品)なので、もしかしたら最初ちょっととっつきにくさを感じるかもしれませんが、きっと観ていくうちに慣れると思います。なにしろディズニー作品なので、エンタメとしてのクオリティは間違いありません。
製作(プロデュース)にも名を連ねているベン・プラットとノア・ガルビンのゲイ俳優カップル(昨年のグラミー賞でも活躍)が、きっとこの映画の素晴らしい部分をリードしていると思います。本国ではブロードウェイを中心に活躍している(ベン・プラットなどはトニー賞、エミー賞、グラミー賞も獲っています)二人ですが、ノア・ガルビンはおそらく日本ではあまり知られてこなかったと思います。今回の映画で一気に火がつくといいなと思います。
ものすごく面白くて、感動もさせられる、間違いなく名作と言えるミュージカル映画だと思うのですが、残念ながらあまりお客さんが入ってないので、割と早めに打ち切られてしまうかもしれません。ぜひお早めに劇場でご覧ください!
シアター・キャンプ
原題:Theater Camp
2023年/米国/95分/G/監督:監督モリー・ゴードン、ニック・リーバーマン/出演:ノア・ガルビン、モリー・ゴードン、ベン・プラット、ジミー・タトロほか
2023年10月6日よりロードショー公開
INDEX
- 「すべての愛は気色悪い」下ネタ満載の抱腹絶倒ゲイ映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』
- 『ボーイフレンド』のダイ(中井大)さんが出演した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』第2話
- 安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
- 映画上映会レポート:【赤色で思い出す…】Day With(out) Art 2024
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
- 一人のゲイの「虎語り」――性的マイノリティの視点から振り返る『虎に翼』
- アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
- ラベンダー狩りからエイズ禍まで…激動の時代の中で愛し合ったゲイたちを描いたドラマ『フェロー・トラベラーズ』
- 女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』
SCHEDULE
- 06.14Tackle! -RUGBY NIGHT-
- 06.15SM LAND vol.6
- 06.15新宿二丁目 歌うま選手権