REVIEW
アメリカ人とミックスルーツの若者のアイデンティティ探しや孤独感、そしてロマンスを描いた本格長編映画『Aichaku(愛着)』
自然豊かな地方の町で暮らすゲイの英会話教師と地元のミックスルーツの日本人男性とのロマンスを描いた長編映画です。セクシュアリティのことだけじゃなく、いろんなテーマが盛り込まれていました

『Aichaku(愛着)』は、「日本の文化を世界に、世界の文化を日本に」を掲げ、クリス・マッコームスさんが2015年に立ち上げた映像制作チーム「Tokyo Cowboys」が製作した2025年公開のゲイ・ロマンス長編映画です。クリス・マッコームスさんは、日本のメディアに登場する外国人タレントのステレオタイプな感じや先入観などを変えたいという思いから、自身でプロデュースし、脚本の執筆も行なっています。この作品にも、15年にわたる日本での生活で体験し、感じたことが反映されています。
『Aichaku(愛着)』の撮影は2023年、主に千葉県と茨城県で行なわれました。ありがちな二丁目や都会のゲイではなく、美しい自然のなかで暮らす外国人とミックスルーツの日本人の出会いが描かれています。日本人監督の西坂來人さんと英国人監督のマイケル・ウィリアムズさんのダブル監督体制で製作されています(日本を舞台に外国人とミックスルーツの日本人とのラブロマンスが描かれる過程で、日本の描写や外国人の描写がよりリアルになるようにとの配慮だそうです)。同年、クラウドファンディングが行なわれ、目標を達成し、2024年に中野区の会場で最初の試写が行なわれ、2025年4月にスペインと日本のAmazonプライム・ビデオで配信が始まりました。
<あらすじ>
日本の片田舎に住むアメリカ人のルーカスは経営難の小さな英会話学校で働きながら、少ない稼ぎの中でも心豊かに暮らしていた。 同じ町には、外国人の母親を持つミックスルーツの日本人、ケンが住んでいた。叔父が経営する建設会社で長い間働いていたケンは、自分の生き方やアイデンティティを見出せない日々を送っていた。惹かれ合うように出会った二人は、不器用にぶつかり合いながら互いが抱えている”愛着”を見つめ直していく――。






映画館で上映されずアマプラだけで配信されてるということはインディーズ作品なのかな?くらいの、あまり前情報がない状態で、とりあえず観てみよう♪って感じで観始めたのですが、「何これ? 意外と本格的じゃない?」と驚きました。映像がプロフェッショナル!とか、役者さんレベル高っ!とか。割とすぐに引き込まれましたね。二人にはそれぞれ抱えている課題や困難、やりたいことや「未来」があり、惹かれ合うことに説得力があります。脚本(ストーリー)がよくできてると思いました。
セクシーショットから始まるのがいいなぁと思ったし(ケン役の西澤クリストファー清さんが素晴らしくセクシーでしたし)、中卒で父親が立ち上げた会社で肉体労働とかしててボクシングやってるような(人を殴っちゃうような)ゲイのキャラクターって今までほぼ皆無だったと思うので、とても新鮮でした。ゲイ以外のクィアが登場したのもよかったし、なんだかんだ言って周囲の人たちも理解があってよかったし、終わり方もよかったです(“現実はそんなに甘くない”とか“予定調和だ”とか言う人もいるかもしれないけど、無視無視。僕は「幸せなゲイ」が観たいんです)
主役のルーカスとケンを演じているお二人が、当事者の俳優なのかストレートの方なのか全然わからなかったです。どちらとも受け取れます(どうやらゲイではないようです)。そこもなんだかスゴいと思いました。演技が上手いとか、ちゃんとゲイに見えるように役作りをしているということだけじゃない何か。うまく言えないのですが、今までいろんな映画や演劇で「ゲイを演じるストレートの俳優さん」を観てきましたが、「よくそれでゲイを演じたね」と思ってしまうような、あまりにもリアルなゲイとかけ離れた方たちの多さに正直、ゲンナリさせられてきたところはあって、そんななか、ちゃんとゲイに見える佇まいとか空気感とかを醸し出せているところに好感を持てました。
概ねとてもよかったのですが、少しだけ。
おそらくそれまでストレートとして生きていたケンが初めてああいうことになって、落ち込んでるような苦しんでるような瞬間があって、たぶんそれは、咀嚼というか、自己の本当のセクシュアリティを受け容れるのに時間がかかってたと思うんですよね、はっきりとは描いてないけれども。そこがストレートの観客に伝わるんだろうか…意味がわからないのでは?とちょっと心配になりました。
あと、レズビアンのキャラクターが自分のことを“レズ”って言っちゃうシーンがあるんですが、これは本当にやめたほうがいいと思いました。ただでさえ多くのストレート男性がいまだに“レズ”って言いがちで、現実のレズビアンの方たちが“レズ”呼ばわりされたらどんな反応をするか考えたこともないんだろうな…と思われるなか、映画というメディアで何のエクスキューズもなくこのように描いてしまうと、観た人が「あ、“レズ”って言ってもいいんだ」って思ってしまうわけですから、問題だと思います。制作スタッフがストレートの方ばかりなのであれば、なおさらそこは気をつけないと(LGBTQ監修、入ってなかったんでしょうか…)。この映画に完全に「愛着」を持つことは難しいと感じるLGBTQの方、少なくないでしょうね…。
日本に住む外国の方のリアリティとか、ミックスルーツの方のアイデンティティの話とか、すごく大事なことを描いている良い作品だっただけに、そこは残念でした。
(文:後藤純一)
Aichaku(愛着)
2025年/日本/118分/脚本:クリス・マッコームス/監督:西坂來人、マイケル・ウィリアムズ/出演:クリス・マッコームス、西澤クリストファー清、上枝恵美加、、坂口候一、郷本直也、竹下かおり、今井孝祐、シンシア・チェストン、藤原弥生
Amazon prime videoにて配信中
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