REVIEW
長年のパートナーががんを患っていることがわかり…涙なしに観ることができない、実話に基づくゲイのラブコメ映画『スポイラー・アラート 君と過ごした13年と最後の11か月』
運命的に出会い、13年つきあい、共に老後を過ごすはずだった恋人が不治の病に冒されていることがわかり…という、実話に基づくゲイ映画です。何度となく泣かされるのですが、これは紛れもなくロマンティックラブコメディです

『スポイラー・アラート 君と過ごした13年と最後の11か月』は2017年に発表されたマイケル・オーシエロの『Spoiler Alert: The Hero Dies(ネタバレ注意:ヒーローは死ぬ)』という回顧録(実話)に基づいて製作された映画です。2022年に米国で劇場公開されています。
脚本を務めたのは、『Law & Order』などたくさんのドラマを手がけてきたデヴィッド・マーシャル・グラントと、「It Gets Better Project」の創設者で『キッド 僕と彼氏はいかにして赤ちゃんを授かったか』の著者でもあるダン・サベージという2人のゲイの作家です。
たまたまこの映画についてゲイの方が書いたblogに辿り着いて、そこに「社会派要素ゼロの、純粋に「喪失」を描いてるゲイが主人公の作品なんて、初めてだ。」と書かれていたのが印象的で、観てみようと思いました。
<あらすじ>
2000年代半ばのニューヨーク。テレビガイドのライターであるマイケルは同僚に誘われて繰り出したゲイバーでハンサムな写真家のキットと出会う。マイケルは恋愛に不向きなタイプで、キットの眩しさを恐れてしまうが、二人は恋に落ちる。運命的な恋。やがて13年の歳月が流れ、二人は倦怠期を迎えるのだが、友人たちを招いたクリスマスパーティで体調不良を訴えたキットが病院に行くと、腫瘍があることが発覚する。二人のつらく苦しい闘病生活が始まる…。




何度も泣きました。嗚咽も漏れました。
映画のタイトル通り、最愛の恋人が病気で亡くなることを仄めかす場面で幕を開けます(メタフィクションというか、これはそういうお話ですよって、何かの番組みたいに)
二人が出会って、つきあいはじめるところのストーリーが本当に素敵です。最初に行ったゲイバーでかかってたのがカイリーの「Can't get you out my head」で。その日はスポユニDAYでみんなセクシーな格好をしてたのですが、マイケルはgeek(オタク)タイプでそういう格好ができず、場違いで浮いてると思い、落ち着かないでいるのですが、まさかのハンサム・ガイと目が合い(そんなことってある?)、彼の友達の女性の「この人はガリ勉タイプが好きなのよ」という言葉に勇気を得て、カードを渡し、デートに漕ぎつけます。マイケルは複雑な生い立ちで、体にコンプレックスがあってセックスのときに服を脱げないとか(でもセックスするんですけどね。とってもラブリーでキュンとくるシーンでした)、それだけでなくいろいろ変わってるところが多くて、なかなか彼氏ができないタイプです。モテ筋で実際にいろんな男と遊んできたキットがそんなマイケルに惹かれたのだから人生どう転ぶかわからないというか、世の中捨てたもんじゃないと思えました(そこに至るには、キットなりの理由がありました)。運命としか言いようのない出会いでした。
倦怠期の、お互いの感情の行き違いでケンカばかりしてる二人の言い草も面白かったし、リアルでした(どこも同じなんだなぁって思うカップルさん、めっちゃ多いと思います)
でも、13年経って、そんな二人が、ケンカなんかしてる場合じゃない出来事に見舞われるのです…。
初めから「ネタバレ」されているので書いてしまいますが(ネタバレに気をつけなくていい映画って初めてかも)、キットはがんを患って亡くなるのです。告知から闘病、余命宣告、覚悟、そして残された時間をいかに愛する人と幸せに過ごすかということが余すことなく描かれていました。
この映画がすごいのは、その結末がわかっていてなお、観客を泣かせることです。それは、二人がどれだけお互いを愛していたかということが丁寧に描かれていたからですし、実話だからこそのディテールが素敵だったから(「事実は小説より奇なり」です)ということもありますし、ジム・パーソンズという役者が素晴らしかったおかげです。キットの両親の存在もすごくよかったです。あのハラハラさせるカミングアウトのシーンがあったからこそ、両親の愛情が際立ちます。というか、元気で幸せだった頃のいろんなエピソードが全部、泣かせにつながっています。実に上手い、よくできた脚本です。
詳細は伏せますが、亡くなる間際のシーンは、ちょっと衝撃的でした(泣きました)
最愛の恋人の死を描いたゲイ映画は過去にもエイズ関連などでたくさんあったわけですが、そうした作品と比べてもなお、この『スポイラー・アラート』は出色の出来だと思います。
マイケルとキットのカップルを見て(マイケルが「クセ強」なのでそうは思えないかもしれませんが)まるで自分たちの姿を見ているようだとか友達カップルみたいだと感じる方はとても多いと思います。特別お金持ちでもなく、特別に美形とかマッチョとかでもなく、どこにでもいるような人たちで、でも、二人が結ばれて一緒にいることには必然が感じられるし、お互いに相手をかけがえのないパートナーだと思っている、そんな二人です。誰もが何かしらの部分に共感し、感情移入するんじゃないでしょうか。二人の自然な演技のおかげでもあります(二人ともゲイの俳優ですからね)
もう一点、この映画がスゴいのは、最愛の人の死を描いているにもかかわらず、基本的にコメディだということです。テレビオタクで太ってていじめられたりもしているマイケルの少年時代は大げさな観客の笑い声が流れるシットコム(米国で人気のシチュエーションコメディドラマ)として描かれていますし、全編を通して笑いが散りばめられています。親へのカミングアウトのシーンには爆笑させられました(その前段階の、親が来るからと言って部屋の中のゲイ的なものを全部片づけるシーンも面白かったです。どの国でも同じなんですね)
ジム・パーソンズは『ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則』というシットコムで有名になった俳優で(2011年、エミー賞およびゴールデングローブ賞のコメディ部門で主演男優賞をW受賞)、2012年にカミングアウトしています。このゲイのコメディドラマの主演にうってつけな人なのでした。
しかし、そんなコメディ俳優のジム・パーソンズが今作では、本当にマイケル・オーシエロの人生を生きているかのような、真に迫った、観る者が感情移入せずにはいられない、本当に素晴らしい演技を見せています。実にクィア(変)でオタクなキャラクターでありながら、その人間性には魅了されます。とても美しかった、と言っても過言ではありません。個人的にオスカーをあげたいと思ったくらいです。
キットを演じたベン・オルドリッジもよかったです。『ノック 終末の訪問者』にゲイ役で出てた方です。つい最近、2020年まで彼はクローゼットだったのですが、そのこともキットの役柄とシンクロしています。(余談ですが、キットは「コム・デ・ギャルソン」を着てたり、キヤノンのカメラを使ってたりして、結構日本びいきです)
これは書くかどうか迷ったのですが(ある意味、ネタバレになるかと思い)、少しぼかしつつ、書いてしまおうと思います。キットにはトム・デイリーにそっくりなイケメンの同僚がいて、マイケルは二人の間に何かあるのではないかと疑い、口に出して追及したりもするのですが、キットはとぼけるのです…。そんな浮気疑惑の「トム・デイリー」をめぐるエピソードにさえも、泣かせるものがあったし、究極のヒューマニティというか、ゲイの人間関係の素敵さを感じました。
最後に。やっぱり結婚できるって素晴らしい。本当にうらやましいです。日本で暮らす僕らは「余命1ヶ月の花嫁」にもなれないのです…。
いろんな意味で良い映画でした。
スポイラー・アラート 君と過ごした13年と最後の11か月
原題:Spoiler Alert
2022年/アメリカ/112分/脚本:デビッド・マーシャル・グラン、ジェフリー・セルフ、サリー・フィールドほか
Netflixにて配信中
INDEX
- 映画『WEEKEND ウィークエンド』
- 劇団フライングステージ第45回公演『アイタクテとナリタクテ 子どもと大人のフライングステージ』
- 映画『ホルストン』
- 海外ドラマ『宇宙探査艦オーヴィル』
- 歌川たいじ『ゲイです、ほぼ夫婦です』
- 抱腹絶倒&号泣! 最高によかった『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』
- 映画『ロケットマン』
- 『新宿二丁目』
- 『公式ガイド&レシピ きのう何食べた? ~シロさんの簡単レシピ~』
- 映画『カーライル ニューヨークが恋したホテル』
- 映画『Girl/ガール』
- 映画『クィア・ジャパン』(レインボー・リール東京2019)
- 映画『アスリート ~俺が彼に溺れた日々~』(レインボー・リール東京2019)
- 映画『カナリア』(レインボー・リール東京2019)
- 映画『1985』(レインボー・リール東京2019)
- 映画『トランスミリタリー』(レインボー・リール東京2019)
- 映画『マリオ』(レインボー・リール東京2019)
- 映画『QUEER×APAC 2019 〜アジア・太平洋短編集〜』(レインボー・リール東京2019)
- 映画『メモリーズ・オブ・マイ・ボディ』
- ドラマ『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』
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