REVIEW
それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
茨城の⽥舎町に住む⼥⼦⾼⽣カップルの⽇常と別れを描く短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』が公開中。決して重くはない、でもせつなくて胸がキュンとするような、イマドキの青春クィアムービーです

茨城の⽥舎町に住む⼥⼦⾼⽣カップルの⽇常と別れを描く短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』は、脚本家として活動してきた洪先恵(ホン・ソネ)さんが⾃らの体験に基づいて創り上げた作品で、初監督も務めています。第20回⼤阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部⾨、第39回 BFIフレア:ロンドンLGBTIQ+映画祭 Daydreamer部⾨をはじめ各国の映画祭に多数選出され、韓国・仁川の第13回ディアスポラ映画祭では観客賞を受賞、ソウル市立大などが主催する第28回都市映画祭(アーバン・フィルム・フェスティバル)では作品賞(東大門区庁長賞)を受賞するなど⾼い評価を受けています。
毎日新聞によると、洪さんはソウル出身のレズビアンの方で、中学生の頃に同性を好きになりますが、互いの親たちの話し合いによって、当人の思いとは関係なく別れさせられたという苦しい経験をしています。その初恋の後も好きな人はできたものの、そうした「外圧」で別れざるをえないことが何度もあったといい、「自分たちで決める『ちゃんとした別れ』『普通の失恋』を形に残したかった」との思いからこの映画の脚本を書いたそうです。
一方、洪さんは中高生の頃から黒沢清監督作品や日本のアイドルが好きで、韓国芸術総合学校に進学後、日本映画大学脚本コースに編入し、卒業後はテレビ番組制作会社「テレビマンユニオン」に入社し、ドキュメンタリーやスポーツ番組などのADとして働きました。仕事の傍ら、脚本をコンクールに応募するなどしてきましたが、そんななか、2022年にテレビマンユニオンが新規事業としてオリジナルの短編映画の製作を手がけることになり、社内で企画を募集し、洪さんは「こんなチャンスはない。どうせなら自分の人生で最も大きな経験をベースにした物語にしたい」と自身の体験に基づいて脚本を練り上げ、応募し、見事に採用されました。
監督のコメントをご紹介します。
「いつの間にか終わってしまった初恋を思って作った映画です。同性の相⼿に⻑い間⽚思いして、やっと両思いだとわかった途端、ケンカも、話し合いもできないまま、親どうしの話し合いだけで無かったことにされてしまった記憶。その記憶は29歳の今になっても、解決できないモヤモヤとしてまだ私の中に残っています。だからこそ、本気で別れに向き合う⼥の⼦たちを描きたいと思いました。ダサくても、汚くても、二人にとっては真剣な、⾃分たちで決めた別れです。映画を観てくれる皆さんも、⾃分の真剣だった恋を思い出してほしいと思います」
<あらすじ>
16歳、茨城の⽥舎町に住む⼥⼦⾼⽣カップルの仁美と菜穂。アイドルになることを夢⾒る菜穂を、仁美はあたたかく見守り、⽀えていた。K-POPアイドルのオーディションを受けた菜穂は、奇跡的に採用され、韓国に行くことに。恋愛は御法度と厳しく言い渡された菜穂。二⼈に突然の別れが訪れる…。



すごくよかった。グッときた。思った以上にせつなくて泣きそうになったけど、二人に「幸あれ」って全力で応援したくなったし、抱きしめたくなりました。
冒頭の1分で二人の関係性や、どういうキャラクターかということがわかり、2分で「これは友達どうしじゃなくて同性の恋を描いた映画ですよ」「いまどきのあっけらかんとクィアしてる二人です」と伝えているところがすごい。脚本が上手いです。一気に引き込まれます。
菜穂はずっとK-popアイドルになることを夢⾒ていて、仁美はそれを応援してきて、そして、ついにオーディションに合格して菜穂の韓国行きが決まるのですが、異性との関わりは厳しく制限される(そこに同性という想定はないのですが、もっと厳しいだろうことは容易に想像できる)アイドルという職業ゆえ、二人は別れを余儀なくされます。自分たちではどうしようもできないこの世の「掟」によって恋をあきらめざるをえない状況で、もちろん、二人はそれぞれに苦しむし、とてもせつないのですが、とてもユニークな個性を持った仁美は、思わず笑ってしまうような、ちょっと突飛な方法でこの恋を終わらせようとします。思わず笑ってしまうような、ダサくて、汚くて、全然美しくないシーンなのに、グッときます。まだ若くて、(たぶんこれが初恋だったんじゃないかと思いますが)本当に大好きな恋人への想いをあきらめきれないでしょうに、仁美は、そのモヤモヤや苦しい気持ちを、なんとか自分の中で「彼女の幸せ」へと消化/昇華させようとして、一世一代の大舞台を計画したのです。映画はシンプルに、あっさり、さっぱり終わりますが、仁美の気持ちを思うと、ジワジワ、こみあげるものがあります。たぶん仁美は(世間の無理解ゆえに)「外圧」で別れを余儀なくされた洪監督の分身であり、同時に、過去の僕らの分身でもあるんじゃないでしょうか。
(『ドラマクイーン・ポップスター』のように)菜穂がもし大スターになったら、仁美はどう思うのか、もし二人がつきあっていたことが公になったとしたら…といったことも思わなくもありませんが、この映画はここで終わりで、この別れでよかったんだと思います。
仁美というキャラクターを創り上げたこと(蒔田彩珠さんをこの役に起用したこと)が、この映画を忘れ難い作品にする鍵だったんじゃないでしょうか。ちょっと変わってて、自分大好き系とは真逆の、いつもおどけたり面白いことを言ったりするキャラで、つらいことがあってもそれを表に出さずに笑っているタイプ。すごくいいやつなのに、恋愛はあまり上手じゃなかったりして。それだけに、そんな仁美が、滅多に表に出さないであろう本心を、恋人への本気の思いをぶつけるシーンは、ものすごく響きます。
この映画は、例えば『ユンヒへ』のような、同性愛を認めない社会ゆえの当事者の生きづらさをシリアスに描くことで社会に訴えるような正統派の作品ではないかもしれません。アイドルという恋愛自体が禁止される特殊な職業を選んだ菜穂と、その夢を応援するために、悲しいけれども別れを受け容れ、呑み込み、自分たちなりの別れをしようと決意した仁美の物語です。それって同性でも異性でも同じことだよね、と言われればその通りです。でも、男女間だったら(ありふれすぎていて)こんなにせつない、忘れ難い作品にはなっていなかったでしょうし、そもそも茨城の田舎町で、スカートの下にジャージをはいた二人の女子高生がオナラの話をして笑ったりじゃれたりしつつキスするようなシーンを描いただけでも革命的なことなんじゃないかと思うし、この映画が生まれた根底には、同性どうしであるがゆえに親たちから別れさせられた監督の無念があるのであって(その無念をこんなに明るくコミカルに表現しているところに監督さんの人間味や知性が感じられます)、そういう意味で、PRIDEに裏打ちされたクィア映画であることはまちがいありません。
公開から1週間経った土曜の夜のバルト9で観ましたが、監督さん、入口に立ってお客さんにご挨拶していました。なかなかそういう方、いないと思います。
これからもいろんなクィア映画を撮ってほしいです。期待してます。
(後藤純一)
サラバ、さらんへ、サラバ
2024年/日本/26分/G/監督:洪先恵/出演:蒔田彩珠、碧木愛莉、テイ龍進、石崎なつみほか
INDEX
- すべての輝けないLGBTQに贈るホロ苦青春漫画の名作『佐々田は友達』
- アート展レポート:ノー・バウンダリーズ
- 御涙頂戴でもなく世間に媚びてもいない新世代のトランスコミック爆誕!『となりのとらんす少女ちゃん』
- アメリカ人とミックスルーツの若者のアイデンティティ探しや孤独感、そしてロマンスを描いた本格長編映画『Aichaku(愛着)』
- 米国の保守的な州で闘い、コミュニティから愛されるトランス女性議員を追った短編ドキュメンタリー『議席番号31』
- エキゾチックで衝撃的なイケオジと美青年のラブロマンス映画『クィア QUEER』
- アート展レポート:浦丸真太郎 個展「受粉」
- ドリアン・ロロブリジーダさんがゲスト出演したドラマ『人事の人見』第4話
- 『グレイテスト・ショーマン』の“ひげのマダム”のモデルとなった実在の女性を描いた映画『ロザリー』
- アート展レポート:藤元敬二写真展「equals zero」
- 長年劇場未公開だったグレッグ・アラキの『ミステリアス・スキン』がついに公開!
- アート展レポート:MORIUO EXHIBITION「Loneliness and Joy」
- 同性へのあけすけな欲望と、性愛が命を救う様を描いた映画『ミゼリコルディア』
- アート展レポート:CAMP
- アート展レポート:能村 solo exhibition「Melancholic City」
- 今までになかったゲイのクライム・スリラー映画『FEMME フェム』
- 悩めるマイノリティの救済こそが宗教の本義だと思い出させてくれる名作映画『教皇選挙』
- こんな映画観たことない!エブエブ以来の新鮮な映画体験をもたらすクィア映画『エミリア・ペレス』
- アート展レポート:大塚隆史個展「柔らかい天使たち」
- ベトナムから届いたなかなかに稀有なクィア映画『その花は夜に咲く』
SCHEDULE
記事はありません。







