REVIEW
愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
イタリアで1980年、抱き合う2人の青年の遺体が発見されるという衝撃的な事件がありました。この映画は、マチズモが支配的なシチリアで、社会の不寛容に苦しみながらも愛を貫こうとした2人の姿を描いた美しい作品です。ホモフォビアの根深さを痛感させられます。

1980年、果樹園の木の下で2人の青年の遺体が発見された、2人は抱き合って手を握ったまま亡くなっていた…というニュースがイタリア中に衝撃を与えました。この「ジャッレ事件」の犯人は未だに不明なのですが、ホモフォビアゆえの憎悪殺人(ヘイトクライム)ではないかと見られ、葬儀には2000人を超える参列者が詰めかけました。そして、この事件をきっかけに、今日までイタリア最大のLGBTQ団体として活動を続ける「ARCIGAY(アルチゲイ)」が設立されることとなりました。
この実際の事件をモチーフに、社会の偏見や不寛容さにぶつかりながらも、ただ純粋に愛を貫いた2人の少年の姿を、きらめくような映像美で描き出した映画が『シチリア・サマー』です。同作は本国で公開されるや、瞬く間に口コミが広がり、上映館数が拡大、あの『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督が大絶賛し、名匠ナンニ・モレッティ監督も映画館へ駆けつけ、観客の間から熱狂の声が広がり、大ヒットを記録したそうです。
監督はベテラン俳優のジュゼッペ・フィオレッロ。シチリアの出身です。イタリアの新聞に特集された事件の記事を読み、二人の純粋かつ詩的な愛に感銘を受け、「いつか自分の手で世界に伝える」と決意したそうです。2人の若き主演俳優は、数百人が参加したオーディションから選ばれました。2人はイタリアの映画記者組合が選出する映画賞「ナストロ・ダルジェント賞」の最優秀新人賞を2人そろって受賞したそうです。
<あらすじ>
1980年代、初夏の日差しが降りそそぐイタリア・シチリア島。乗っていたバイクぶつかり、気絶して息もできなくなった17歳のジャンニに駆け寄ったのは、16歳のニーノ。育ちも性格もまるで異なる二人は、次第に惹かれあい、友情は恋へと変化していく。二人で打ち上げた花火、飛び込んだ冷たい泉、秘密の約束。だが、そんなかけがえのない時間は、ある日突然終わることに──。








同じようにイタリアで起きた事件に基づいて製作された映画ながら、『蟻の王』とは全くテイストが異なっていました。
『蟻の王』は、教授が裁判にかけられ、アルドが電気ショック治療を受けさせられるという苦難に満ちたシーンが延々と映し出される非常に重くてしんどい(しかしたいへん芸術的な)作風でしたが、『シチリア・サマー』はシチリアの太陽のようにカラっと明るく、庶民的で、時々残酷なシーンはあるものの、直接的な死は描かれず(意外でした)、二人がどのようにして出会い、恋に落ちたのか、二人が仕事上でもよきパートナーであり、相手の家族ともうまくやっていけて、前途洋々だったということを生き生きと、共感や愛情をもって描いています。
ニーノは学校を卒業したばかりで、これから大家族が暮らす家の若い働き手として頑張っていくことを期待されています。花火師のお父さんの仕事を手伝い、時には叔父や甥と一緒にうさぎ狩りに出かけたりもして、どこにでもいるような人好きのする男の子です。家族全員に愛され、屈託なく、のびのびと育ってきた印象です。
一方のジャンニは、同性愛矯正施設から戻ってきて、お母さんとつきあっているフランコのバイク修理工場で働かせてもらっていて(父親はいません)、一方、昼間から働かずにカフェの前でたむろしている男たちにいじめられ(でもバイセクシュアルのトゥーリだけは庇ってくれます)、フランコにもお母さんにも決してよく思われていない…というしんどい状況です。
ジャンニはバイクが接触したことをきっかけに知り合ったニーノを頼り、新しい仕事を見つけ、閉塞的な毎日から抜け出そうとします。ジャンニは礼儀をわきまえた言葉遣いもできるし、きちんとした、感じのいい、この街の男たちの中では飛び抜けて将来性を感じさせる好青年です(典型的なゲイですよね)
監督もシチリア出身だそうで、シチリアらしさは本当にリアルに出ていると思うのですが(そちらのほうが新鮮だったり)、昼間からブラブラしている男たちのホモソ感(しかもいじめるような男に限ってブサイク)が本当にゲイにとって地獄で、こんな街じゃ暮らせないし一刻も早く出なければと思わせる感じのリアリティがスゴかったです。また、家族に対しては本当に愛情たっぷりで幸せそうなファミリーが、ひとたび同性愛とわかれば豹変し、鬼の形相で露骨なホモフォビアをぶつけてくる様も本当にリアルで、恐ろしかったです。ゲイを描いた映画やドラマでは、母親や妹など、女性が味方になってくれることも多いと思うのですが、全くそうじゃなくて、むしろ…というところも悲しく、絶望的でした。
ジャンニなら都会でもやっていけるはず。早く都会に出ればいいのに!と思ってしまいました。80年代だとなかなかそうはいかなかったのかもしれませんが…。
なぜ二人は殺されたのか、誰が二人を殺したのかということは、だいたい想像がつくようになっています。
ただ、その犯人だけが極悪だったのではなく、もう本当に、街の隅々にまでホモフォビアが浸透していて八方塞がりだった、起こるべくして起こった悲劇だった、というふうに観客は感じることでしょう。同時に、こんなに若くて純粋で美しい男の子たちが、ただ同性で愛し合っただけで、なぜ?と、誰もが思えるように作られています。これが男女だったら、超最高なカップルじゃん、って。
川で遊ぶシーン、花火のシーン、祭りのシーン…夏の恋人たちを彩るいろんなシチリアの風景や、二人が戯れ、愛し合うシーンが、美しければ美しいほど、それが結末の悲しみを際立たせます。
『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督が大絶したというのも納得です。
シチリア・サマー
原題:Stranizza d'Amuri
2022年/イタリア/134分/PG12/監督:ジュゼッペ・フィオレッロ/出演:ガブリエーレ・ピッツーロ、サムエーレ・セグレートほか
11月23日より全国公開
(C)2023 IBLAFILM srl
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