REVIEW
愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
カナダ発のヒューマンドラマ作品で、海外のLGBTQ映画祭で多数、賞を獲っています。ドラァグ・ムービーとしても実に素敵な作品ですので、ぜひご覧ください

カナダの片田舎で暮らす祖母と孫の関係をクィア・カルチャーのなかに描き出したヒューマンドラマ作品で、世界のLGBTQ+映画祭で数々の賞を受賞しています。舞台やテレビドラマを中心に活動してきたトーマス・デュプレシがラッセル役で長編映画初出演にして主演を務め、『ラスト・ショー』などの名優クロリス・リーチマンが祖母マーガレット役を好演。今作が長編初監督となるフィル・コンネルが脚本も手がけ、自身の祖母と話した会話や、自身が表現者として生きる選択をした経験をもとに、リアルなクィア・ストーリーを紡いでいます。
<あらすじ>
俳優からドラァグクイーンに転身したラッセルは、大切なショーの直前に恋人から「俳優業に戻ってほしい」と告げられ、同棲している家を飛び出してしまう。無一文で行き場のないラッセルは、ずっと会っていなかった祖母マーガレットの家を訪れる。久々の再会を喜びながらも、祖母の様子がどこか違うことに気づくラッセル。マーガレットは自分の衰えを自覚しながらも、娘・エネに勧められた老人ホームへの入居を拒み続けていた。ラッセルは祖母のためにもしばらく一緒に暮らすことにする。生活を共にした二人が行き着く先は──。
とてもいい映画でしたし、とても好きな映画でした。
ノンケさん向けのわかりやすくキレイに見せてるドラァグクイーンじゃなく、ショーがリアルな生き様の表現であり、その人生模様やドラマが反映されながら展開するところがとてもいいです。ショーのためにドラマがあるとすら言えるかもしれません。
そのドラマっていうのは主人公のラッセルの、何をして生きていくかについての葛藤や恋愛、そして、ひさしぶりに会ったおばあちゃんとの絆です。
おばあちゃんが本当におばあちゃん然としてて、なかなかここまで人間の老いをクローズアップして見せる映画ってないかもしれないと思って感心したのですが、そんなおばあちゃんは結構ファンキーで、やな感じの近所のおばさんに「ビッチ」って悪態をついたりするんですよね。そういうところがラブリーでした(たぶんこの映画でいちばん笑えるのはおばあちゃんのセリフです)
一方、お母さんは、いろいろと厳しめな常識人で、たとえて言うと春日局みたいなキャラなのですが、それでもちゃんと底に家族愛があって(そこに愛はあるんです)、ものすごく息子のことを理解できてるっていうことが最後にわかるのでジーンときます。
ラッセルは自分だ、と思える人、結構多いと思います。ドラァグクイーンじゃなくても、世間受けする見た目で、アートとかエンタメの才能があって、クラブで目立ったり場を盛り上げたりもできて、ゲイシーンで華やかにやっていける、けど一般社会での成功を志す道も捨てがたくて迷ってる、的な。ちょっと自分本位だったり気まぐれだったりルーズだったりするかもしれないけど、家族とかパートナーとか友達は大切にするし、プライドを持ってる、的な。なので、きっと感情移入できると思います。
ラッセルがゲイであることや黒人の男性のパートナーがいることが一切問題視されず、家族がふつうに全面的に受け容れてるし、パートナーにも家族の一員のように接してる(亀裂が入った二人の関係の修復を図ったりもする)ところが素晴らしいです。さすがはカナダ。同性婚が認められてもう15年以上経ってますものね。
ラッセルが楽屋で「アンタ、なんでドラァグクイーンやってるの?」って問われるシーンがあるのですが、そこもよかったです。哲学的というか、演劇的というか、なかなかないシーンだなと思いました。
劇伴の音楽もよかったです。あまり知ってる曲がなかったのですが、かえってそれがよかったかも。
映画を最後まで観ると、「ジャンプ、ダーリン」の意味がわかる仕掛けになっていて、ジワーってきます。
舞台はプリンス・エドワード島で、グリーンゲイブルズとか『赤毛のアン』ゆかりの何かが出てくるかなと期待したのですが、それはなかったです。
ラッセルが町(おそらくシャーロットタウン)のゲイバーに行ったときに、店主が「100km圏内にゲイバーはウチだけよ」って言ってたのがリアルだなと思いました。
カナダらしい、低予算ながら、人生捨てたもんじゃないと思えたり、しばらく帰ってないけどたまにはおばあちゃん家に行ってみようかなと思えるような、愛と「ステキ」が詰まったとてもいい映画でした。
もうすぐ上映終了になってしまいそうなので、ぜひお早めにご覧ください!
ジャンプ、ダーリン
原題:Jump, Darling
2020年/カナダ/90分/監督:フィル・コンネル/出演:トーマス・デュプレシ、クロリス・リーチマンほか
1月19日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開
INDEX
- ベトナムから届いたなかなかに稀有なクィア映画『その花は夜に咲く』
- また一つ、永遠に愛されるミュージカル映画の傑作が誕生しました…『ウィキッド ふたりの魔女』
- ようやく観れます!最高に笑えて泣けるゲイのラブコメ映画『ブラザーズ・ラブ』
- 号泣必至!全人類が観るべき映画『野生の島のロズ』
- トランス女性の生きづらさを描いているにもかかわらず、幸せで優しい気持ちになれる素晴らしいドキュメンタリー映画『ウィル&ハーパー』
- 「すべての愛は気色悪い」下ネタ満載の抱腹絶倒ゲイ映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』
- 『ボーイフレンド』のダイ(中井大)さんが出演した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』第2話
- 安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
- 映画上映会レポート:【赤色で思い出す…】Day With(out) Art 2024
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
SCHEDULE
- 03.22ノーパンスウェットナイト 55本目
- 03.22Mirror Ball