REVIEW
時代に翻弄されながら人々を楽しませてきたクィアコメディアンたちのドキュメンタリー 映画『アウトスタンディング:コメディ・レボリューション』
2022年、LGBTQのコメディアンが一堂に会するイベントがLAで開催されました。70年代からカムアウトして活躍してきたレジェンドをはじめ、LGBTQのコメディアンのヒストリーは、そのまま米国のLGBTQの歴史でした…涙なしには観られない、素晴らしい映画です
2022年5月7日、LAのグリーク劇場で開催された「スタンドアウト(STANDOUT)」は、LGBTQ+のコメディアンたちが一堂に会する夢のイベントでした。映画は、そこに登場するコメディアンたちをはじめ、米国のテレビやなんかで活躍してきたLGBTQの歴史をひもときはじめます。
スタンダップコメディは日本ではあまりなじみがないと思うのですが、多くは1人で登場し、身近にあった出来事や世情、ニュースについておしゃべりしながら笑わせるスタイルのコメディです。米国ではすごく人気で(ゲイクルーズでもやってました)、エレン・デジェネレスなどもスタンダップコメディアンから出発して人気司会者にまで登りつめた人です。
そんなスタンダップコメディアンやテレビで活躍するタレントなど、アメリカのLGBTQのコメディアンのヒストリーは、そのまま米国のLGBTQの歴史でした。時には厳しい時代の影響を受けて傷つき、時には抵抗し、道なき道を切り開いてきたのでした。
70年代にテレビで活躍した女性二人組のコメディアンは、レズビアンだと言ったばかりにテレビから干されました。多くの人が「言った瞬間に切られる。テレビに出れない」と語っていました。あからさまな差別です。当時はエディ・マーフィなど多くのコメディアンがゲイをネタにひどいジョークを言っていた時代でした。
サンドラ・バーンハードという女性に見覚えがありました。『POSE』でゲイのエイズ患者をケアするナースの役で登場した人でした。彼女はコメディと音楽とセクシーを融合させた「時代の寵児」で、バイセクシュアルで、マドンナとも友達で、テレビ番組でマドンナに「ショーンとヤったけど、あまりよくなかった。あなたのほうがよかった」って言っちゃうような人で、レーガン政権のひどさに怒って闘った人だったりもして。LGBTQコミュニティにとってのアイコンでありヒーローです。だから、『POSE』でああいう役で登場したことに意味があったのです。
人気トークショーの司会を務めていたロージー・オドネルやワンダ・サイクスは、同性婚や養子縁組の自由を求めてカムアウトしました。
アジア系で初めて自身の名を冠した番組を持ったマーガレット・チョーは、バイセクシュアルだとカムアウトして降板させられましたが、サンフランシスコのコミュニティではヒーロー的な存在になりました(最近、韓国系ゲイのコメディアン、ジョエル・キム・ブースターがNetflixで特番を持ちました。素敵です)
トッド・グラスは心臓発作で救急車で運ばれるとき、隊員にゲイだとバレないように、付き添ってくれた親友に、彼氏ではなく「彼女」に連絡して、と言わなくてはいけなかった、でも、病室に彼氏が花を持ってお見舞いに来て、その健気な姿に胸を打たれて、「自分のためにこんなにしてくれる彼氏のことを彼女と言い換えていた自分が許せない」と思って、カミングアウトを決意したんだそうです。80年代の話です。
ここに登場するコメディアンたちは、一人残らず、みんな魅力的です。ユーモアがあり、苦労してきたからこその優しさがあり、実に人間味にあふれています。そして、そんなクィア・コメディアンたちどうしの友情や連帯の意識がとても素敵でした。個人的には、ドラァグクイーンの楽屋の感じに似てると思いました。
こういう映画を観ると、なんだかんだ言ってアメリカって民主主義が根付いてると思いますし、そういう最前線で闘ってきた人たちに拍手を贈るようなアメリカ人のカルチャーって素敵だなと思います。
今年の6月18日にNetflixで配信された映画ですが、実にプライド月間にふさわしい作品だと感じました。
アウトスタンディング:コメディ・レボリューション
原題:Outstanding: A Comedy Revolution
2024年/アメリカ/99分/16+/監督 :ペイジ・ハーウィッツ/出演:リリー・トムリン、サンドラ・バーンハード、ワンダ・サイクス、エディ・イザード、ハンナ・ギャズビー、ティグ・ノタロ、ロージー・オドネル、トッド・グラス、マーガレット・チョー、ボブ・ザ・ドラァグクイーン、トリクシー・マテルほか多数
Netflixで配信中
INDEX
- 「すべての愛は気色悪い」下ネタ満載の抱腹絶倒ゲイ映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』
- 『ボーイフレンド』のダイ(中井大)さんが出演した『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』第2話
- 安堂ホセさんの芥川賞受賞作品『DTOPIA』
- これまでにないクオリティの王道ゲイドラマ『あのときの僕らはまだ。』
- まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』
- 多様な人たちが助け合って暮らす団地を描き、世の中捨てたもんじゃないと思えるほのぼのドラマ『団地のふたり』
- 夜の街に生きる女性たちへの讃歌であり、しっかりクィア映画でもある短編映画『Colors Under the Streetlights』
- シンディ・ローパーがなぜあんなに熱心にゲイを支援してきたかということがよくわかる胸熱ドキュメンタリー映画『シンディ・ローパー:レット・ザ・カナリア・シング』
- 映画上映会レポート:【赤色で思い出す…】Day With(out) Art 2024
- 心からの感謝を込めて――【スピンオフ】シンバシコイ物語 –少しだけその先へ−
- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
- 一人のゲイの「虎語り」――性的マイノリティの視点から振り返る『虎に翼』
- アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
- ラベンダー狩りからエイズ禍まで…激動の時代の中で愛し合ったゲイたちを描いたドラマ『フェロー・トラベラーズ』
- 女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』